コンテナガレージ

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静謐なダークホース 1-6

「クリスマスみたいに単なる一年のうちの一日だって言いませんよね、今回は?」

「どうして?」

「想いを伝える絶好の機会を世間公認で与えられたら、そりゃあ、ねえ、気分も高まりますよ」背伸び、店主は吊戸棚に乾燥のパスタを置き並べる。そしてステンレスの引き戸を閉めた。

「渡すことが目的、それとも付き合うこと、小川さんの年代ならさらに先の関係性は考えていないだろうね。すると、親しい関係性をより高めて、という図式が理想。だけれど、想いを伝えて満足、という人も中にはいるはずだ。溜め込んだ気持ちを投げ出すほうが、解放されるからね。それに、あわよくば相手がその好意を受け止めてくれるかもしれない、そんな期待もなくはないだろう。しかし、どれも一方的。もらったほうは、受け取り拒否の権限はもたらされてはいない。通常のそういった関係性ならば、物質の譲渡と好意の発言を共に行うのは、ある意味で断りにくさを演出している。受け取れば、回答は必ずではないにしろ、受け答えの関係に応えは常識の範囲に据えられる。普段、顔をあわせるような間柄であれば、なおさら」

「店長に何を言っても、安佐の答えは出てこない」着替えた国見が二人の様相とは種類の異なる、抑えた色とシンプルな形状の姿で再登場。

「……だったら、今日みたいな普通の日に伝えれば、店長は受け入れられるって考えですか?」小川が縋りつく発言。

「日付や日取り、周囲との摩擦、関係性の想像、そういった種々の趣向に捉われずに、言えてしまえるのが本来の伝え方ではないだろうか」店主はサロンを腰からはずした。

「店長は、だったら、相手の人に想いを伝えてます?正直に」

「僕は人を好きにはならない。相手は僕ではないからね。人を縛りたくはないし、その反対も好まない。悲しさをペットで補うこともない。それも利用だからね。嘘をついている、そう思われる。現に思われてきた。だけど、これ以上は弁明も弁解もわかりやすいたとえもいわない。僕は、満たされているよ。まあ、自分に飽きたら人を見つめ直すかもしれない」

 店主を見つめる二人の従業員が店内の明かりをそこだけ消し去り、色もなくし、モノクロで時間も止まる錯覚に陥った。そこにドアが開いた。

「忘れ物、忘れ物」置物の二人を館山が不審に眺める。「何してんの?固まって。おーい」

「わっつと、もう脅かさないでください」

「現実に引き戻してあげた人に対する言い草か。まったくどうかしてる」館山の帰還に二人は解凍、動きが戻る。二人は顔を見合わせて、その怪訝な表情をこちらに、何か言葉を求めるように訴えるが、僕は取り合わない。店主は、上着をかけて、洗浄器の横を通り、ホールに降りる。三度目の館山の挨拶を浴びた。

「店長、チョコレート渡しますから」小川がいう。

「もらわなくてもいいのかい?それは」立ち止まり言葉を返す。

「受け取るのが前提です」

「真っ向勝負だね」

「でも、渡すのは、世間の特別な日ではありません。私が決めた日にあげます」

「渡すのは、朝一番を避けて、忙しい時間帯にするべきだ。断られにくい」

「おつかれさまですう」少し晴れやかな小川が、言葉を残して店外へ。

「おつかれさま」後ろ背に返した言葉は、すぐにカウベルの音にかき消された。