コンテナガレージ

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革新1-1

 これまでの理論と成功のアプローチを真似たとすれば、それなりの成果が待ちわびているが、ありきたりの音で人は惹きつけられるんだろうかと、反対の意見に傾いている私がいる。出だしは好調でも、いずれはパターンの繰り返しにこちらが飽きてしまうはずだ。広告の一環で映像やコンテンツに付属される感度の鈍った音楽を作っても仕方ない。わかりやすさは諸刃の剣でその切っ先がいずれ牙をむく。代わりはいくらでもいるのである。

 大学は先週から夏休み期間に突入し類まれな感性を磨くにはもってこいの時間を与えられたと私の気分が高揚する。かといって、四六時中ウキウキしてる、おかしなやつではなくて、床から二センチほど常に浮いている程度の高揚感だと思ってもらえれば幸い。

 とろけるような早朝、ぱっちりとあいた瞳に呼吸を合わせるべく、一息でベッドから離散。身支度を整えて、ペットボトルの水を冷蔵庫からひとつかみ。家族はまだ夢の中。アランの散歩に出た。この時間は車も少ないが案外、散歩する隣人に出くわす機会が多いために、私はいつもの散歩コースを破る。

 サンダルだからか、アスファルトの質感を近距離で感じた、リードが引っ張られる。ぐいっとアランに方向を転換するように指示を与えた。そっちじゃないと、訴えるような顔。しかし、じっと見つめると行く先を変えてくれた。

 安い挨拶を交わしたくはないためのルートは、アスファルトの脇から覗いた草木と土で道が宅地と以前からの姿が混在。トンネルのように上部の空間を覆い尽くす木々ために日差しが漏れて注がれる。空気もひんやりとして纏った脂肪が冷たい。

 トンネルを抜けると分かれ道を右に、海に下っていく道を選択。こちらがより人が立ち入らないルート。道路は広がり、川のせせらぎが耳に届く。道と並行し、山腹から流れてきた水がまとまり、海へと流れていく。循環。雨が降り、山に流れ、川を作り、低地、そして海へと流れ、海水が蒸発、雲となる。

 アランの足が加速すると引っ張られて、私は対岸に渡れる場所に到着した。近くには下水処理場の古めかしい建物が周囲と協定を結んで植物と何ら遜色ない佇まいで人気のない自然に溶け込んでいた。アランは浅瀬の水面に顔を突っ込んで勢い良く水を補給する、よほどのどが渇いていたのだろう。これからの時期はさらに暑くなる、水分の補給には気をつけなければと戒めた。

 一人でいる時でも犬に話しかけたりしないのが私。他の人は恥ずかしとは思わないのだろうか。飼い主だからって食事や居場所を与えているだけで操作するように動物を叱りつけて、云うことをきかせるなんて私には無理だ。彼らには彼らの自由があるのだし、私の尺度で計ることがそもそも間違いで大いなる勘違い。