コンテナガレージ

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革新1-2

まずもって、異なる生物であることを認識すべきなのだ。批判しているのではない、再検討を望んでいるの。

 アランが川の反対側へ行きたがっているので、仕方なく水に足を差し入れて渡ってみた。渡るのは小学生ぶりだろうか。たしか、この辺りに小さなお地蔵さんがいたと、記憶を巡らせていると道を遮る幅二メートル半、高さ三メートルほどの板が登場した。こんなものがあったなんて、いつから設置されたのだろう。私の小学生時代にはなかったシロモノである。アランは先に行きたい仕草で板に隙間がないか隈なく鼻で探っているが、とうとう諦めて私の隣に寄り添う。道の横から抜けようにも川の斜面が迫っていて忍者でもない限りは川に落ちてしまう。反対側は切り立った斜面が迫り、こちらも付け入る隙がない。

 「通れませんよ」小麦色よりもより黒い顔が柔らかく声がけ。振り返りと脇にサーフボードを抱えたウエットスーツの男が白い歯を見せびらかせて朝から薄く笑っていた。アランが吠えないので敵意はないようだ。

 「あっ、どうも。おはようございます」対人モードが自動的に運転を再開した。無駄なエネルギーを消費する。

 「おはようございます」男も丁寧に挨拶を返した。「海に行きたいのなら、裏道を教えます」えらく陽気でしかも人懐っこそうな雰囲気を漂わせて、堂々とひと目を気にすることなくこれから趣味を満喫するために準備は万端なようだ。

 「危険だから通行禁止なのでは?」私は、浮かんだ疑問をぶつけた。十年ほど前に線路の置き石が原因で電車が脱線した事故を思い出した。あの時に立ち入り禁止になったんだろうか。小学生の二人組が補導されたとかしないとか、記憶は定かではない。

 「私たちは泳ぐだけです、火をおこしたり食事をしたり、線路に置き石なんてありえませんよ」男は指をさす。「そっちの下水処理場の橋から渡るんです、遠回りですけど波に乗れないよりはマシですから」ニシシと顔に皺が寄る。まだ行くとも答えていない、なのにこの人は私を誘導し始めた。ただ、海を見たい気持ちもまんざらないわけでもない。言われて誘われて存在を教えられると久しぶりに海を眺めて見ようとか言う気になってしまうのは、ここが家の近くで頻繁に訪れていたからで、もしも知らない土地の旅行先だったら急速興味をなくしてこの場を立ち去るだろう。心残りがあるんだろうか、自分のことなのにわからないことだらけだ。まあ、見てみないふりでやり過ごすよりは十分な見返りを望めるさ。