コンテナガレージ

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革新1-8

 「ああ、今日は気分が良いから。それにお得意さんだからたまにはサービスも必要でしょう。またのご来店のために」やっぱり、態度にずれが生じている。これまでの店員ではない。なんだろうか、これが本来の性質なのかもしれない、それとも気を許した人間に見せて市市まうのか。どうだって構わないけど。しかない、私はここで人物像を書き換えた。

 帰りはひと駅手前で駅を降りる。

 無人駅の南口。降車の客は私だけ。改札に定期をかざして、三人がけの待合室に人の姿、一瞬だけ目が合うが挨拶は皆無。もっとも相手だって私を景色の一部だと認識、お互い様だから挨拶のあったなかったは抜きにしてほしい。

 快調な天気が昨日から継続、雲がゆったりと流れて、もあっとした空気が息苦しさを思い出させる。無人駅には月極の駐車場が設置されているが、ロータリーに無造作に停車された路上駐車の車の方が多いのはなんともやりきれない光景。背負うギターの重みで肩口に汗が滲んできた。

 世界で一人になりたい時はこうして一人が作り出される場所や時間帯を選ぶ。

 どれもが選択で世界は構築されているように思うの。捉え方と言い換えてもいいかな。事実が人から見ても同じだなんて思わないのが最たる説得の理由だろうさ。見たいから訪れるのであって、見たくなければあのまま電車に揺られていたんだから。

 あの店員、前のほうが私は好みだ。好きと嫌いという概念ではない。ただ、人としての良し悪しだ。全てに振りまけるぐらいの笑顔でなければ私は持たないと決めているし、そうするとだんだんと笑顔に言葉に威力が増していくの。ただの一言それもボソリと呟いた言葉でさえもタイミングを合わせたら難しい語彙を習得していなくも相手には届いてしまうのがわかってしまってからはもう、簡単には笑っていない。笑ったら相手にも確実に共有を許してしまうし、馬鹿な奴はすぐに尻尾を振ってついてこようとするから、封印している、現在(いま)も。動物にだって笑いかけない。彼らは本質的に見抜いている。

 猫が私の先を歩いて行く。止まって気配を悟りこちらを見とめて速度をあげた。角で曲がる。無言で顔を向けてぷいっと逸らして消えていった。あの店員も無言で必要な伝達だけで良かったのに。