コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

まずは、物事の始まりから8-2

「ホーディング東京と肩を並べる箱が早々見つかりますかね」

「振り替え公演をまずは行うか、否かの判断を仰ぐことが先決。お二人に権限はあるんですか?」アイラは不躾とも取れる問いかけを難なく、言ってのける。スタッフは顔を見合わせ、困惑。どうやらひげの男性が上司のよう。しかし、彼がすべての方向を決める権限を持っているのではない、インカムで連絡を取り始めた。誰かを呼び出す、どうやら相談相手は別の場所にいるようだ。

 アイラは正面に向き直る。お客が振る手に振り返した。いつもならば行わない仕草、対応。久しぶりにつけたテレビ、スポーツ選手のインタビューを思い出す。練習後のサインに三十分も時間をとられて大変ではないのか、という質問に対して選手は「いつものこと、サインを書くペンは自分で用意している。もう慣れた」、というのだ。

 感慨も沸かない空手を振って、私は余計な荷物を背負った感触だ。私が十分に含まれない態度が私を蝕んでいく。これは経験上、消えるまでに相当の時間を要する。せっかく荷物を減らしているのに、いつも余計な積荷が増えてしまう。私はギターを背中に、肩にカバン、この二点でどこへでも行ける。他には、一冊ぐらいは本がほしい。他に望むものは、離れてこの方、手に取った試しは無かったように思う。それほど、離れていたのだ。仕方ないか、アイラは言い聞かせた。

 一通り、死体と過ごす観客の表情と態度に落ち着きが伺える頃、二階席のお客が手を挙げた。女性刑事が、質問者を指すように、「どうぞ」と発言と起立を許可する。

「私はドクターです」大柄な男性は両肩が盛り上がった姿勢、前にのめりこむようだ、海外の人物である。

「私の言葉がわかりますか?」

「ネイディブではありません、見ての通り。しかし、これまであなたの要求に忠実に従っていた」

「用件をお聞きします」刑事は通常の冷たさに戻って言葉を吐く。

 ドクターは大柄な肩を竦めてみせた。「お亡くなりになった方の死因を、私ならば検死官が到着する前にあなたへ教えて差し上げられる」