コンテナガレージ

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不躾だった私を、どうか許してくださいませ2-10

 店主は目配せ、意味のない、わかりやすい瞼の開閉のあと、滑り出すようにぬるっと言い放った。「いつか助けを求めるときが来るかもしれない、とっておきはいざという状況下で縋る。誰かの受け売り、前々から考えていた僕の持論、どちらでも好きな方の解釈をして構わない」短くなった煙草を缶の内側に押し当てる、さびが目立つ缶の内側、立てかけた蓋を閉めた。

 電話が鳴った。小川がびっくりして腰を浮かす、同時に発した奇声に館山が女性らしい高い擬音を発する。国見は平然と、席を立ってレジ下の受話器を取った。ぎしぎし、床の軋みが耳に残った。常夜灯の明かりが薄ぼんやりと、温まった室温のくもりによって淡く室内の明かりと共鳴している。

「はい、少々お待ちください」受話器を押さえる国見が僕を呼んだ、彼女の動作は、前かがみに姿勢からすくっと膝と腰を伸ばしただろう、ミーアキャットみたいな仕草である。

「はい」店主は彼女から受話器を受け取る、呼び出す相手の詮索は回避された、マナーは心得ている、もしかするとプライベートな電話と国見は判断をめぐらせたのかもしれない。

「そちらの店長さんでいらっしゃいます?」

「ええ、私が店長です」

「……ビルの移転計画が店内の話題をさらっているところ、大変恐縮なのですが、移転のお話はあなたから直々に計画を持ちかけた方々に断って欲しい。いいえ、断りなさい、といったほうが的確にこちらの意図が伝わりますわ」抑制の効いた女性の声だ、年齢は高め、僕と同世代か、それ以上。おまけに、店内の会話が筒抜けになっているらしい。盗聴器がまた仕掛けられた、というか事態が浮き彫りになった。

「同業者の方ですか、それとも雇われた方?」店主は淡々と尋ねた。

「そちらの想像にお任せします。要望は今言った通り」

「強引ですね」店主は笑った。煙草をポケットから取り出す、一本を口にくわえた。片手でそれらの動作が行えた。

「まったくもって。しかしながら、予告、つまり予め告げる行為を私が行動に移しただけでも、かなり譲歩した、と受け取ってくれたら幸いに思いますよ」

「移転計画は私の一存ではありません。隠すことでもありませんので、打ち明けますとね、私は正直移転に反対の姿勢です。ただ、建物の安全上、その基準が現行の法律に満たないという事態が発覚しました。甘んじて受け入れる方針を採った、これが私のスタンス」