コンテナガレージ

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2018-09-01から1ヶ月間の記事一覧

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 4

電子錠が引き起こす誤作動のわりにランプの明滅はやたらめったら長かった。もしやと、勘ぐる。休憩時間内は休憩室に留まって一歩も外に出ない、これを誓い遵守するか、屋外を選び休憩終了の直前に戻る、この二択を毎度選ぶ。午前十時近辺に集中するチェック…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 3

彼女はあらかじめ返答を考えていたかのよう速やかに返答を繰り出した。誘い水、最初の提案は真意ではなかったのだ。「では、産地、受賞品種それから収穫年度によらず豆は『ひかりやかた』の判断にお任せをします。山城さんや前任者の購入リスト等からでも構…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 3

開店時刻は午前十一時から午後九時迄。九時以降の入店は控えること、お客様たっての願いであろうと毅然と拒否の態度を示すよう注意を受けた、長居に対する一応の理解は得ているようだ。お客の自主的な行動に軽く依存した緩やかにも規則を、これが慣例である…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 3

階段を下りて支柱のような箱のような窓があり、しかし中は見えずに住まいのようであり牢獄にも映る、果たしてこれは?美弥都はその壁面をぱしぱし叩く店長と大木の威圧をかもし出す鉛色の塊を見上げた。数歩支柱を離れて山城が説明を施す。「特別室『ひかり…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 3

エレベーターの着地音が通路の奥深くがパンが焼けた完成の音量に絞って届く、美弥都は耳がいい。 上階、地上階から呼び寄せる係員が降り支配人の山城をフロント業務を交代した、女性である。会釈と挨拶を義務的に交わす。影を纏った小柄な人物、水平に切りそ…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 3

かつての弾薬庫、貯蔵庫を思わせる音の広がりは地下駐車場とは似ても似つかない、別種の気配を放っていた。〝ひかりのみち〟は地上、駐車場に始まり建物へ通じる両サイドに林立する垂直の白樺の間は通常どころか搬入搬出作業や建設作業者の通り道に使った完…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 3

付き合いの歴史、しかも対象との関係性の長さによりけりとは。私には拷問に匹敵する。 平行線は提案を受けた時点で脳裏を過ぎっていたはずも、決行に踏み出したというと何しかしらの賞賛と淡い期待は仮初ながら待ち構える、このように店長の心境は言い表せた…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 2

三ページ目 (メモから日記帳へ書き写した。ここからはフロント業務の合間を縫って、日記帳に直接書き込む。) 続→ (警告は届いているのだからホテルには向かっているに違いはないのよ。言っておくが私が離れる間『ひかりいろり』を覗く宿泊客や部外者は存在し…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 2

「お客様、ご利用時間を過ぎましたが、お客様ぁ」 (ドアを叩くも返事は確認ができなかった) 「プライベートを覗き見る趣味はわーたしにはありませんから」 (ドアが開ききらず約四分の一開いてつっかえる。抵抗が感じられた) 「前もってお伝えしておきまーす…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 2

「おかしい頭」、耳にこびりつく。 見たままを話してるさ、嘘つきのほうがこの世の中多いではないか。……私だけが割を食う。あのとき部屋を覗いたんだ、同じ人物に何度質問を受けたか、思い出すだけで打ち付ける鐘楼がけたたましく頭蓋が割れそうに痛む。 日…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 1

畑は台地にあったらしい、玉蜀黍畑を抜け視界が開ける、三メートルほどの坂を下って舗装された道路と一軒の商店に出くわした。高台の塀に沿って川が流れる、用水路にしては川幅が広い。予測するに氾濫した際の土砂が平野部に堆積、それらが隆起し不釣合いな…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 1

凪の薄緑と紺碧の小波と別れ、平野部とはるか遠くかすか山頂付近の霞を羽織る連なった山々に視界が切り替わる。正午前である。午前六時に美弥都は家を出た、平野部に入ってからはものの数十分で目的地に着くらしい、店長は宝の持ち腐れのナビ(午前中雹に見舞…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 1

「電車とタクシーを乗り継ぐ、それほど車移動に時間的な利得は見出せません。最寄り駅から歩くと思われたのですか?」日井田美弥都は店長の助手席に揺られる。 半ば強制的だった。 自宅から目と鼻の先無人のH駅に向かう矢先、歩道に出た所へ見慣れた車が颯…

エピローグ

「見た限りその方は亡くなっておられます。回復の目処は立たず。治療の術を施すよりも埋葬の準備を整えましょう」「あってはならんのだ、ここで死なれては困る。いいからドアを開けなさい」喧しい。罠にかかった生き物の鳴き声。 睨みつけられた、横たわる人…

エピローグ

三名の刑事と対し説明はこれで六度目となる、昨日の相手白髪交じりの男性は脇に控え立会う。この人に話してくれ、くたびれた首に巻きつける帯を緩め、つきっ切りそのの刑事がだるそうに黒く汚れた爪の先で指した。斜に構えた伊達男と席を替わる。室内は二人…

エピローグ

人を呼んだ。 命令に従います、これといって別段変わった、不信な動きを匂わす兆候があったのでしょうか。 異界の者、皆がそのように捉えるから仕方がないのかもしれない。 部屋に一人、それから横たわる一人。いいや、一体と言うべきでしょうか。部屋の中央…

エピローグ

二週間後。 スタジオに雑誌が配送された、バイク便である。事務所に届き、アイラの所在地へ送られたのだ。 モノクロで一回り小さな彼女がいつになくこれまでを失った顔で笑っていた。 過去の話。 離れたギターに詫びを入れて、次の楽曲製作に取り掛かる。 デ…

エピローグ

笑みがこぼれた、めずらしく私が笑う。 彼らにも伝わる、この場では彼らは疑いようもなく私である。 見えている、生きているが、現物はたまに。しかも、初見の演奏は無自覚に私の本能を呼び覚ましてくれる、感じ取ってくれるだろうか、どれだけが、反応を示…

エピローグ

目配せ。もっとも右端の私、その左斜め後方に長髪のギタリスト、ならびにもう一人ギタリストは短髪を固める、ベースのクールガイはサングラスで武装、軽く顎を引き、どんと構えるドラムスは大き目のメガネフレームを直して、スティックをくるくる回す。 カウ…

余震が続く7日の朝

6日胆振地方で起きた地震の影響により、今まで電気が使えませんでした。 ようやく、電力が復旧し、方々へ連絡。この記事を書いています。 昨日と今日は、ラジオの情報に頼っていました。スマホやパソコンは使えなかったので、押し入れにしまっていたラジオを…

エピローグ

ブースの外で腕を組み、見守る人物たちの総数は圧倒的に作業に忙しい者たちを上回る。 「ニホンゴ、ワカラナイネ。アナタ、ハ、ウタエ」ギターの男に肩を叩かれる。 「オーケー」十分だ、ネイティブの日本人だって会話の文法はめちゃくちゃなのだ、伝わる。…

エピローグ

十一月中旬、うらぶれる空が雪を降らせた翌日。アイラ・クズミが借りるスタジオにて生放送の収録が行われた、カワニが私の承諾を半ば強制的に勝ち取った二週間後である。海外からの出演者を、アイラ自身はまったく知らない。周囲の反応は彼女とは正反対に緊…

単一な黒、内面はカラフル 2

希少な露出を誤って受け取る人が大多数、ただし、うん、観客たちは常にふるいにかけられているのは事実だ、こちらは続けるべき。 次の仕事が待つ。東京は暖かいだろう、海洋性の温暖な気候が冬でも比較的高い気温を保ってくれる。 大雪に見舞われる都会の風…

単一な黒、内面はカラフル 2

もっとも二件目が一件目を補完し、その他がその二つを更に補ってしまった。既に打つ手なし、警察にも言ったことだ。そう、これ以上の詮索は不可能であり、無意味なのだ。警察たちの脳裏には連続殺人がびっしりとこびりついて離れないだろう。 喉元を過ぎる液…

単一な黒、内面はカラフル 2

アナウンス、意図的に感情を殺す機械的な声が車内を包む。しかし、降りる仕度に取り掛かる乗客の姿は見られなかった。新幹線は遠距離を短時間で移動する手段、近距離ならば時間をかけた低料金を選ぶはず。 時間と距離の関係性が気にかかった。 アイラは音楽…

単一な黒、内面はカラフル 2

ええ、もうお分かりでしょう、データの観測がたまたま事件と対象を捉える、その点において共有性を帯びた、単にそれだけのことです。納得がいかないようですけれど、私は警察でも探偵でも、まして小説に登場する人物の明快な回答は持ち合わせない、そればか…