コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

2019-05-01から1ヶ月間の記事一覧

店長はアイス  死体は痛い?5-4

「食品開発の中心は、大嶋さんで間違いありませんか?他の方がそのぉ、力試しや新しい発想のために開発を任されたということはあったのでしょうか?」 「開発に上下の関係を作らないのが我が社の慣わしで、私やもっと若い社員の意見も取り入れてくれます。た…

店長はアイス  死体は痛い?5-3

商品開発、室内は研究室を思わせる光景だ。鈴木は研究室と名のつく場所を直接目にした機会はない。あくまで、ほとんどがテレビで紹介される大学などの研究室が主な情報元である。部屋の半分が食品開発のブース、調理台やステンレスの冷蔵庫、攪拌のミキサー…

店長はアイス  死体は痛い?5-2

「相田さん、きいてます?」 「何か言ったか?」 「僕より上の空なんてめずらしいですね。犯人のめぼしがつきましたか?」 「めぼしねぇ」相田はワイシャツを胸につまんで空気を入れる。「やはり自殺なんだと思う」 鈴木は速度を落として受付嬢との距離と図…

店長はアイス  死体は痛い?5-1

相田、鈴木が引き返した先は大嶋八郎の会社、breakfastであった。会社はS市中心部に近い場所にあるため、約一時間の運転を二人は余儀なくされた。高まる車内の湿度は相田の重すぎる体重の影響によるところが大きい。乗りはじめこそ、暑さで汗が止まらない鈴…

店長はアイス  死体は痛い?4-9

「あのう、煙草一本もらえますかぁ?」 「正気か?」熊田は言う。 「一本ぐらいいいじゃないですかぁ」薄っぺらな卑下。 「一本ぐらいを二十人に渡していたら、箱は空になる」 「なんだよ、けち臭い。ジジイ」 「未成年じゃないよな」 「あーああ、うるせえ…

店長はアイス  死体は痛い?4-8

「プロテクトは大切ね。けれど、攻撃を受けなければ、常時守りを固める必要はないのよ。オープンでいられる時間はいくらでもあるわ」 「咄嗟に再現はできません。そんなことよりも犯人を……」 「作り出すフィールドを事細かに汎用的、日常に張り巡らせていた…

店長はアイス  死体は痛い?4-7

「憶測です」種田がきっぱりと言う。前にも聞いたセリフだ。「被害者たちの接触は未だに確認が取れていません。仮に二人が情報を共有する間柄であっても二人同時に死を迎えたがっていたことは、あなたの想像です」 「大嶋八郎が現場を離れ、出社したのは、大…

店長はアイス  死体は痛い?4-6

「不可能ですか」美弥都は言葉を切る。席を探すお客が美弥都を見て噂話をこちらに聞こえる音量で通過。美弥都を背後からまだ見ている。「しかし、その証拠は見る者つまり有能な観察者によって始めて証拠に格が上がる」 「証拠となるような物証はあがっていま…

店長はアイス  死体は痛い?4-5

「ええ、不必要な情報はなるべく保存しないと決めているの、誰かさんと違って大量な情報はもう私には必要ないから」美弥都はカップに手をつける。テイクアウト用の紙コップである、途中コーヒーを持って店を出るつもりだったのか、と熊田は思う。 「ちがいま…

店長はアイス  死体は痛い?4-4

「ご無沙汰しています」 「あら、刑事さん。捜査ですか、大変ですね」 「プライベートです」 「そちらの方とですか?ご冗談を」 「ご一緒しても構いませんか?」日井田美弥都は本に落とした視線を店内に注ぐ。大きな茶色い瞳でゆっくりとまばたき、そして再…

店長はアイス  死体は痛い?4-3

「待たせた」 「そちらのドアです」 数メートル歩き、エスカレーターを正面に捉えた。わずかに種田が先を歩く。平日は洋服や雑貨の店舗に人はまばら。店員に詳しく商品についての話を聞きたいのならば平日が狙い目。もちろん、店員の商品に対する掘り下げた…

店長はアイス  死体は痛い?4-2

建物、入り口近くのスペースは埋まっている。車に乗り、数十歩の距離も歩きたくはない、と平然といえてしまう神経を疑う。そもそもお前だけの場所では決してないのだ。誰に言っているんだろうか、熊田は空いた場所に車をそっと止めた。種田が寝ている。寝息…

店長はアイス  死体は痛い?4-1

熊田と種田は保健室の生徒とに続き自宅で養生する生徒にも話を聞いた。 「訪問の意味があったでしょうか?」止んだ生徒の家を出て車に戻った種田が行動の意味を問う。 「あったかどうかの判断は事件が解決してからだ。それまではどれもこれもが可能性でパー…

店長はアイス  死体は痛い?3-7

「誰が好き好んで働いていると思っているのかしら。女の大半は、家庭を望んでいる。そのための布石で仕事をしている。あわよくば夫に給料それも切り詰めないリッチな生活を夢見る。だから、店長がもてはやされるの。仕事はできないかもしれない。けれど、生…

店長はアイス  死体は痛い?3-6

「まあ、仕事といってもさあ、時間を共有していくうちにそれとなくあえてこっちから聞かなくってもわかっちゃうことって、あるんじゃないんですか」林道は相田、鈴木へ順番に視線を送る。「もうたぶん、ここに呼ばれるときに調べていたんでしょう?私と店長…

店長はアイス  死体は痛い?3-5

鈴木たちが食事を平らげ、食後の至福のひとときを堪能していた最中に、一人目の店員である、林道が姿を見せた。店のトレードマークであるエプロンを取り去ると、年頃の女性そのものであった。鈴木は席を移動し相田の隣に座った。アイスコーヒーを彼女の注文…

店長はアイス  死体は痛い?3-4

「この店、休憩に入り次第、社員の皆さんに来てもらいましょうか?」鈴木が言った。やっと湿った手から開放されたのだ。 「わかりました。では、そのように伝えておきます。最初の休憩は、お客の入りを見つつですが、一時半から二時の間に入ります」現在の時…

店長はアイス  死体は痛い?3-3

「場所を移しましょう」顔色がそぐわない店長は社員に断りを入れて、出入りの激しいチェーン店のコーヒーショップで話を続けた。先導する股代は落ち着きなく後方それから左右に視線を走らせていた。席も店の隅を選んだ。股代は入り口が見える緑のシートに腰…

店長はアイス  死体は痛い?3-2

「ええ、そうなんですが、何か思い出されたことはないかと思いまして」 「あの、店内では話しにくいので、どうぞうらへ」 「そうですね」 倉庫に通された鈴木と相田は、中央の椅子に座るよう促された。人の気配がする。ドアから左手奥にはぼんやりと明かりが…

店長はアイス  死体は痛い?3-1

art departmentは瀟洒な住宅地に店舗を構える。新緑の季節から青々とした深い色合いに街路樹が表情を夏仕様へと変えていた。鈴木の車は通りの反対側に止められた。駐車が認められた区域である、相田が長時間のドライブで凝り固まった手足を際限なく伸ばして…

店長はアイス  死体は痛い?2-5

「狸寝入りか?」 「死んだふりです」 チャイムが響いた。廊下がにわかに騒がしくなる。ドアが開く、数人の教師が入室。こそこそと何かを入り口付近、ドアを閉めた直後に、教師たちが囁きあう。本来ならならば来客の見えない場所で行う行動だ。ソファに近い…

店長はアイス  死体は痛い?2-4

「曖昧?まあ、そういえるか」 中腰の種田が言う、片手はデスクに。「殺しなら、堂々と手法の披露に心血を注ぎ、犯行に及ぶでしょう」 「突発的だったのかも。あるいは、短絡的な性格で考えること自体が億劫だった」 「二件ともですか?」 「メディアに取り…

店長はアイス  死体は痛い?2-3

「自殺の線を捨てていない、そう捉えてよろしいのですか?」女性にしては種田の声は低い。彼女がきく。 「受け取るのは自由だ。こっちに権限はないよ」熊田は肩をすくめ、首を僅かに傾げた。 「早急に判断を」 「種田、ちょっと落ち着けって」また種田の例の…

店長はアイス  死体は痛い?2-2

「化学じゃなくって、物理ってやつですか?」鈴木が相田に救いを求める。彼は文系の出身で理系分野の知識は皆無に等しい。 「リンゴが落ちたとか、落ちないとか。ピサの斜塔から落としたとか、そんな話には興味なし」相田が怒ったように言う。 「へぇー、や…

店長はアイス  死体は痛い?2-1

鑑識の発表により大嶋八郎の死因は頭部の外傷によるものと判明した。使用された凶器は依然として発見には至らず、形状の特定もはっきりとした回答が得られていない状態である。さらに、死体の上着には文庫本がしまわれていた。逆さま文字の「幸福論」である…

店長はアイス  死体は痛い?1-5

「なにしてんだろう、わたし」呟きが館内放送にかき消される。答える相手が必要なのか?ううん、いらないと思う。だったらどうして、涙が出ているんだろう。さっぱり理解できないよね。あなたって弱いの、それとも水を飲みすぎたの?涙って流れ出たら、それ…

店長はアイス  死体は痛い?1-4

そんな事を考えつつも、彼女は平気で二時間を過ごす。周囲は彼女以外複数で来店している。コーヒーも空だった。空腹を覚える。通路を人々がたらんらんと休日のスピード。またスイッチが押されたみたい、自分で制御できないのが難点だった。わかっている、昔…

店長はアイス  死体は痛い?1-3

お客はかなりの距離をこの施設内では歩かされる。目的地を決めずに歩くものなら、平気で一キロ、二キロは踏破できてしまう。車に乗って買い物に来て、歩き、また車で帰る。商業施設内は一度に複数の希望を叶える理想的な空間だ。しかし、余分な時間を費やし…

店長はアイス  死体は痛い?1-2

にぎわう複合施設。いつものように休日の外出。休日に外に出ることが日課になった私は、駐車場代の無料を狙って本屋でお金を使う。その後、衝動的に服を買った。淡い色、グリーの夏らしい服、これから着る予定の服。当然試着はしない、手に取りサイズをタグ…

店長はアイス  死体は痛い?1-1

強大な悩み事に真摯に取り合うのは愚者の行いである。それぐらい、私の頭で理解できるのに、くどくどと作者は語る。最初、読み始めの感想である。読み進めるうちに、作者の文体にもなれてすらすらとはまでいかなくても、だいぶ本来のスピードで読めた。本を…