コンテナガレージ

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2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧

あちこち、テンテン 4-1

飛び込みのお客と予約客の対応に追われ、その日は朝から休憩する暇もなく常に立ちっぱなし、三十代後半あたりから立ち仕事のきつさが身にしみて体を蝕むさまをまざまざと見せつけられている仕儀真佐子は、正午をとっくに過ぎた時刻に、十分の休憩に入った。…

あちこち、テンテン 3-4

店主が国見蘭の代わりに答えた。「許すのは誰?同年代とお客さんの世代とではまた意見は食い違うと思う。見え方、捉え方に平均は存在しない。だから僕は評価を下さない。あくまでも表には出さずにね。言葉に出さず思ってもいいだろう、しかしそれを共有する…

あちこち、テンテン 3-3

「店長が甘いから安佐がいつまでの手順を覚えようとしないんですよ」 「今日はテンパっただけで、予約のお客さんだって覚えてましたよ。四名様ですよね、蘭さんにも言われましたもん。それにジャガイモだって皮をむいて、茹でてる空いた時間、予約の下ごしら…

あちこち、テンテン 3-2

「具体的な日時はいえないよ」 「リルカさんはだってもう料理を任されています。私と年だってあまり変わらないのに、なにがいけないのですかね」 「なにがいけないと思う?」店主の問いに安佐の快活な返答が途切れる、店主は間髪いれずに続けて話す。「明確…

あちこち、テンテン 3-1

小川安佐は甘い香りを放つもうほとんどコーヒーの要素が希釈された飲み物を片手に、休憩から戻る。カウンターの片付け忘れた皿とグラスが目に入ると彼女は休憩時間の把握を間違えを想起、カウンター内にかかる時計に走った。「良かった。また、休憩を自分で…

あちこち、テンテン 2-3

三神は身を乗り出す。窓に手をつけて地上を覗いた。傍を歩いていた店員も三神の機敏な動作と視線の先に興味津々。しかし、ウエイトレスの立場を堅守、勇んで覗くことはしなかった。 傘は異様な跳躍をみせたように、三神は思う。手を離し、上空に放り投げたの…

あちこち、テンテン 2-2

霞み目に目薬をたらす。ティッシュの代わりにナプキンで目をぬぐった。三神のほかにお客は二人、両者ともPCを広げてる。三神の席は電源が確保されていない席である。三神はバッテリィの警告を目安に席を立ち、場所を移す。次の店もしくは自宅で電源を確保…

あちこち、テンテン 2-1

小説家家業に流れ着いたのが二年前の春。時が過ぎる早さは、新鮮さのかみ締めを排除してしまう守りの人格ではないかと、感じる三神であった。ビルの二階、通りを眺める窓側の席、天井までの窓の無言の働きかけは開放感が否応なく引き出され、また歩く人々を…

あちこち、テンテン1-3

「うまくいえないのですが、こう、おいしい味を引き出すには誰かの真似をしたらいけないと思ってしまうので、レシピ本とかを見れなくて……、味を作るのが怖くなりませんか?」 「真似るべきだと僕は思うな。だって、それっておいしいから本に掲載されて、おい…

あちこち、テンテン1-2

入店の男が口を閉じるまでの間にハンバーグの作業工程を終えるには十分であった。フライパンに整形した肉が匂いを放てば、彼は腰を上げて厨房を覗き、今か今かと食事を待ちわびる。皿に盛り付けるハンバーグを最後に添えてソースをかける。店主が料理を運び…

アンブレラは黒く、赤く プロローグ1-2

オープン前のキッチン。狭い厨房で今日のランチを仕込む。時刻は午前九時。外はいつの間にやら秋の気配を匂わせていた。朝晩は上着を羽織る日々に突入。そういえば、声変わりの虫の声も足元から聞こえていたのだ。薄手の手袋をはめ、合い挽き肉を粘り気が出…

あちこち、テンテン 1-1

「あのう、ランチタイムはもう終わりましたよね?」店頭の黒板に営業時間ははっきりと明記してあるし、飛び込んで店に現れた汗だくのジャケット姿の男性もその自覚は持っている言い回しであった。腑に落ちない、なぜ理解しているならわざわざ店に入り、尋ね…

アンブレラは黒く、赤く プロローグ1-1

「ここに決めます」 僕は建物に出会った刹那、心を奪われた。都会の狭小ビルの一階、大通りから一本中に入った路面店舗。ピザ屋の名残は、張り出したガラス窓からお手製の石釜。通りに立つと作業の様子が見て取れる。しかし、僕が惹かれたのは、ここの部分で…

店長はアイス エピローグ1-2

「貸しにしておきます」「勘のいい奴が煙草の銘柄であんたの正体に行き着く場面に出くわさないよう、用心するんだな。この煙草は目立ちすぎる。もっと一般的なのに変えるべきだ」車は、葉の影が覆いつくす車道を下っていった。めずらしい銘柄、たしかに男の…

店長はアイス エピローグ1-1

山の入り口、登山道とは言いがたいが、開けた切り開かれた道は人の出入りが過去にあった事を指し示す。部長は車から歩道に上部から日差しを遮る広がりの葉を仰いだ。住宅街と山との境目、低層住宅がたっぷりとした間隔で隣家の距離を適切に保つ景色。不釣合…

店長はアイス 幸福の克服3-8

新しい車が静かに音声をとどめてしまうぐらいに、うるささを不必要と抹消。多少の、走行音をわざと残す。ぶつからない緊急回避のシステム、死と隣り合わせがどんどん離れていく。省エネルギー、限りのある資源とは微塵も思っていない言葉だけの独り歩き。ナ…