コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

予期せぬ昼食は受け入れられるか?4-4

「誕生日のケーキは困りますね」 「どうして誕生日にケーキが食べられるようになったんだろうか。起源を考えたことはないの?」店主は小川に聞き返す。 「想像するに私の独断と偏見ですけど、特別な日だから、一番の贅沢を表現したかった、それが子供への祝…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?4-3

「安佐、いいから言って」 「仕方ありませんね、皆さんが言うんなら」勿体つけて小川が言う。「要約すると蹴落としたかったんですよ。一人勝ちって、あんまり印象に残らないし、見てる側も出来レースに見えてしまって、入り込めない。だけど、競争相手がいれ…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?4-2

「どちらも同程度出ています、どちらにしますか?」店主は気づいていない振りで応える。 「小麦のほうを一つ」開きかけた口が閉じたのを店主は見逃さずに捉えた。視線がこちらの右側に動いたのである。背後の出窓に反射して列の人間に誰かを見つけたような驚…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?4-1

店主は警告を発した女性の風貌についての詳細を語っていない。そのため、店主だけが女性の不適な視線と笑みを察知している、という状況である。逆光が目に入り、視界が上手く望めないのが難点。店主の視線は、列を去ってランチを手に提げる制服の女性を追っ…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-7

大豆をザルに上げて、軽く揉んで水気を切る。水分は取り切りたい、水っぽさは時間とともに出てしまうので。ここではまだ、大豆で何を作るかは決まっていない。過去にのっとり、レシピを考案するしかない。腕組み。うーん、どうしたものか。大豆の形をそうい…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-6

各自の首がわずかに縦に動いた。 厨房の三人はランチの調理に取り掛かる。大豆は水でふやかしたものを使用。大に水を張って火にかける、加減は固めと、小川に指示を与え、タイマーの五分前に固さのチェックを頼んだ。ナンは先週作ったので別の料理を思案して…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-5

「さあ、どうだろうか。来なければそれに越したことはない。集客をやっかむ近隣の飲食店のどれかだろうしね」 「何故、警告を発してまで大豆を嫌うのでしょうか……」店主の右隣に座る館山がつぶやく。 「小麦の摂取量、生産量が減ると彼らの利益も落ち込むの…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-4

「おはようございます。今朝、端末に不振な電話がかかってきて、いたずらだとは思うのですが、聞いてもらえますか?」国見は前起きなく話しかける。よほどきいて欲しい事柄なのだろう、端末に咄嗟に録音した所は彼女らしい。 受け取った平たい端末を耳にあて…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-3

「館山さん、顔色がよくないね」 「先輩にも忠告ですよ」小川がもう一枚の紙を見せた、こちらはコピー用紙のようだ。「背中に張られたのを私が見つけて、かなり悪質ないたずら」こちらは、筆ペンで書かれた動きのある文字。 "大豆の摂取は、進んで体を痛める…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-2

「考えておきます、メニューはまだ決めかねている段階ですので」 「良かった。私、大豆を食べられなくて」小麦を使用した店ならば、いくらでも営業している。この人の発言はやはりわかりかねる。 「そうですか。それでは」 「大豆を使ってはいけない」声が振…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-1

週が明けた月曜日。日曜の晴れ間が続き、今日も青い上空を見せつける。地下の階段を上りきって、交差点を眺め、ファッションビルのマネキンに挨拶、セールの文字が目に余る。在庫処分、保管していても仕方がないので、買ってくださいという本心が通行人には…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?2-5

シャワーを浴びる。コーヒーは忘れられたまま、ライトに照らされた注目を浴びている。体を洗う時、店長は極力何も考えないようにする。しかし、言葉は頭を走り回るし、止められないのがいつもの流れであった。 ランチのメニューが過ぎる。 お客の求めは小麦…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?2-4

コーヒーは最初の一口から一切、手がつけられなく、湯気が消える。そんなことはお構いなし。一旦思考に這入りこんだら最後、周囲の状況はいつも二の次に変換されるのは、店長のスタイル。道を間違えることもしばしばで、今日家に考えながら辿り着けたのは、…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?2-3

店長はコーヒーを一口含むと上着を脱いだ。やっと温度が上昇室内、態勢を変えてソファに横になる。 二誌目を畳み、三誌目を手に取る。こちらには、生育環境の意見が数多く散見された。要約すると、このようなことだろう。 競合してしまう大豆と小麦の生育環…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?2-2

大豆へのバッシングは二誌目のほうが、深く取り扱っていた。店長は、読み込みの途中で席を立った。 降り口に向かい、改札を目指して、大豆に関する批判の箇所を思い浮かべた。その前に、まずは大豆がどのような食品に利用されているかを挙げてみることにする…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?2-1

その週に、小麦輸入に自国での取り扱い、生産、加工、食品添加におけるガイドラインの作成に政府が乗り出した、と報道機関が伝えていたらしい。小川や館山から聞いた情報である。カウンターのお客の会話にも時折、週を重ねるごとに飛び交う小麦の言葉は多く…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?1-6

「拡大する小麦の健康被害への対応策は?」 「他の食材への切り替え」 「ええっツ、ピザやめちゃうんですか、賄いでは食べられますよね?」 「大豆ですか?」 「察しがいいね。植物性のたんぱく質の中で、市場の出回る量の多さでは一番だろう」 「穀物ではあ…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?1-5

「だってまだお米は十分に余裕があったはず、変ですよ。行き過ぎて、おかしな人だったけど、それは子供の為を思ってお米を買っていたからで、……そうか、自分たちのためだったのかも」小川は白く粉を拭いた頬の顔を、わずかに傾ける。 「白米を食べる権利を大…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?1-4

国見が搾り取る豆乳ににがりを加えてゆっくりと攪拌、底の深いバットで軽く固まる程度まで待つ。店長は、氷を固める一サイズに分かれた容器を吊り戸棚から取り出した。 「ある程度固まったら、こっちに移して」テイクアウトの使い捨て容器、サイズに合わせて…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?1-3

「店長、豆腐はそのまま提供しますか?薬味とか味付けとかは、どうします?」大豆を潰し終え、大判の布で大豆を搾る。 「炒め物、豆腐とおからで作る一品に、物足りないお客へはナンをつける」 「はい、あのう、私、ナンを焼きます」 「できるの?結構難しい…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?1-2

「栄養的には、かなり多くの量が必要ですよ」 「肉と卵とあわせる」 「店長は栄養学の資格も持っているんですかぁ、詳しいですね」 「資格は短期間に特定の知識を取得するために設けられた証、情報はネットにごろごろ転がる。それに書籍でも情報は得られる」…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?1-1

「大豆が大ブームって知っています?」小川安佐が開口一番、頭の雪を払う仕草と挨拶を後回しに、子供が逐一出来事、発見を報告するよう、聞いてといわんばかりに興味を自分に引きつける。 今日は月曜日。 先週、土曜日の早い出勤時間とほぼ同時刻である。店…

蒸発米を諦めて4-9

「白米の大量摂取による健康被害が報告。江戸がえり、あの病気が再び流行か?」 「鉄分、亜鉛の損失による貧血多発。朝礼は急病人、発現の元」 バランスのよい食事は、結局は多大な量を食べないことにあるのではないか、店長は端末の電源を切り、ポケットに…

蒸発米を諦めて4-8

まずい、陰口を言われるのを人は怖がる。まずいと感じる相手とおいしいと感じた自分との乖離が、味の差を埋める。危険はつきもの、味の成功は右に習う。それでも次がおいしければ十分である。加えて、人が求めているのであれば、高級な食材を使わなくとも対…

蒸発米を諦めて4-7

「どうして、あの人を倉庫に誘導したんです?気が済むように配慮したにしても、人が良すぎます」 「店長は、人がいいんですよね」小川が店長を擁護する。 「あんたは黙って」 「……あの人の感情の起伏が不安定であったのは、観察する必要もなく、意思疎通のや…

蒸発米を諦めて4-6

「倉庫は奥です。一番奥の左手、ドアのない所に食材をおいています。何ならご自由に調べてください。あらかじめ言っておきますと、厨房の中には生の米は保管していない。高音や湿度の高さに晒される場所ですので」 「調べますよ、あなたが調べていいといった…

蒸発米を諦めて4-5

「アレルギーは忌み嫌われる対象とおっしゃいましたね?」 「たしかに。しかし、給食のパンを食べずに白米を特別に個別に弁当を持参する姿は、ステータスの向上と同義だそうです」男は何かを待っている、引き止めて欲しいか、それとも僕が隠してる手札を出さ…

蒸発米を諦めて4-4

何故、親であるこの男が息子のクラスの内情に詳しいのかは、疑問が残る。男性が子供の学校教育に積極的に関与する姿はまれであるように思うし、彼の発言からも昼間に訪れた妻に内緒でここを訪れている以上、彼女に黙って息子の学校事情に関わることは困難に…

蒸発米を諦めて4-3

「あれ、もう終わりですか。すいません、眠ってしまったみたいで あはっはは、お恥ずかしい」男は背広のポケットから財布を取り出し、伝票を逃げそうな魚を素手で捕まえるよう、館山に支払いを頼んだ。 「こちらの店長さんですか?」男は立ち上がって、すぐ…

蒸発米を諦めて4-2

「お客さん、ライスが食べたいみたいですね、また訊かれました、置いていないのかって」小川が肩をすくめて厨房に戻る。ホールから国見の声。追加のビールを持ってくるように、声がかかった。 洗い場の横、中が透けてみえる古めかしい冷蔵庫を開ける小川は瓶…