コンテナガレージ

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2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

空気には粘りがある3-3

コーヒーが運ばれてくると2人の会話が止まる。以前にここで何度か事件についての生々しい話をしていて注意されたことがあったので、熊田はお客がいないのを確かめつつそれでも声のトーンを落として話していた。店員の女性の表情は怒っているのかそれとも泣い…

空気には粘りがある3-2

熊田は行き先を告げずに車を走らせる。海岸線沿いに家の並びが海に流れ込んだ川でまだ荒々しい日本海の波が垣間見えると、川を跨ぐ橋を渡ると車はすぐに右折して石造りの建物、一軒家の敷地に止められた。 「ここですか」車を降りて種田は呟いた。幾度か2人…

空気には粘りがある3-1

正午を回ると雲に隠れていた太陽が顔を覗かせ、海風の冷たさを緩和する。最寄り駅のすぐ傍に海が広がる光景、しかし住民にはそれが日常で誰一人足を止めて海を眺める者はいなかった。閑散とした駅前。種田は、深夜からの労働に区切りを付けたくてしかたなか…

空気には粘りがある2-3

ほんのわずか数秒に鈴木は別の空間にいるような感覚を味わう。ここがどこで視界に映る人は誰かを認識するのにまた数秒。見上げる2つの目はじっとこちらをみていた。 「あの、大丈夫ですか?」鈴木はカウンターに右手を添えて倒れないように指先に力を込めて…

空気には粘りがある2-2

デンタル・ゼロ。 エレベーターの扉が開くと、すでにそこは会社である。社名のとおりに被害者の勤め先は歯科医院である。曲線を帯びたウッド調のカウンターから二つの小さい顔が見えている。室内にはかすかに聞こえる程度の音楽が流れていた。 「すいません…

空気には粘りがある2-1

現場からめぼしい証拠は出てこなかった。夜が明けてからも捜索は引き続き継続されていて、むしろ明るくなってからの方が仕事ははかどったぐらいである。熊田も捜索に参加し、あたりの地面を細かくチェックしていったが、何も出てこなかった。被害者の遺留品…

空気には粘りがある1-5

「斜面から落とされてこの場所へ転がってきたとは考えられませんか?」種田の視線はさわさわとうごめく得体の知れない自然を捉えている。 「ぱっと見たところ、死体には土や葉や草木の類は地面に接していた体の前面にしか付着していない。上から落ちてきたと…

空気には粘りがある1-4

「鑑識の結果次第でここから捜査の方針が決まる。まあ、見たところ自殺の線は薄いが捨てきれないでいる。その程度の見解しかいえない。だから、先入観は捨ててむやみに動くのをやめにする。時間が時間なので朝にならないと情報は集まらないだろうし、それに…

空気には粘りがある1-3

熊田は鑑識によって運ばれていく死体を見送りながら現場を注視する。よく見ると現場には血痕のあとがほんのわずかしか周囲の土や草木に付着していない。死因は解剖結果次第である。しかし、外部からの観察によってわかったこともある。全身の擦過傷に、打撲…

空気には粘りがある1-2

「二、三時間かな、詳しく調べてみないと正確な時間はわからん」ジェントルな声の響きと受け取るか地獄からの誘いの声ととるかはひとそれぞれであろう。 「そうすると、ちょうど十二時から一時ぐらいですね。誰が発見したんですか?」鈴木が手帳を開く。先に…

空気には粘りがある1-1

道道二二五号線、O市の外れ、S市とは目と鼻の先。真新しいアスファルトの境目が目立つ。ロードヒーティーグの工事が冬の到来を告げた最中に着工していたことから、道路工事費を消化して造られたと言われても文句はいえない。 急勾配の坂道、一つ目のカーブに…

ゆるゆる、ホロホロ8-3

「店長は、そうか車を持っているんでしたもんね。地下鉄では帰らないのかあ」 「僕はいつも地下鉄だよ」 「じゃあ、打ち合わせも終電までには切り上げるってことですよね」 「うーんどうかな。できればそうしたいけど、魚に合うパンがなければ、一から作って…

ゆるゆる、ホロホロ8-2

「今日もお疲れ様ですね。急がしや」小川は大げさにため息をつく。 「店長、今日はテイクアウトのお客さんが少なかったですね」館山は既に着替えてる。店は営業時間を過ぎ、片付けもあらかた目途がついていた。明日のメニューにあわせた食材の発注が今日の最…

ゆるゆる、ホロホロ7-4 ゆるゆる、ホロホロ8-1

「あなたの指摘で事件は防げたかもしれないとは考えなかったのですか?」 「財布を拾って交番に届けたのにこちらの情報を無償で相手に晒すのを私は好まない」 「課せられた義務でも?」 「すべてあなたがおっしゃるのは結果論です。犯人が捕まらなければ私を…

ゆるゆる、ホロホロ7-3

タバコを吸いにいくと部屋を出た部長は、そのまま姿を消してしまう。 「私たちの勘違いが招いた事件の複雑さなのでしょうか」種田がきいた。 「さあ。しかし、原稿を読み込んでいたからこそ次の犯行が予測でき、止められた。上出来だと思うがな」 「一件目と…