コンテナガレージ

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2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

摩擦係数と荷重1-4

「なにもありません」額の汗を拭い種田がもう証拠品の捜索は必要ないと訴える。全身にはじっとりと気持ちの悪い汗を掻いていた。 「そうだな、もう体裁はこのぐらいで終わるだろう」熊田の言葉どおりに、2人が道路の歩道を分ける白線の内側の段差に腰を掛け…

摩擦係数と荷重1-3

鈴木は到着後から40分前後で現場から去っていく。上層部から早急に二件の事件の関連と今後の対策、犯人の行動予測を報告するように伝えられていた。一件目から事件性を疑い増員をかけていれば、焦りを末端の熊田たちにまで露呈させる段取りの悪さが伝わらな…

摩擦係数と荷重1-2

明けて翌日。午前八時。快晴、ここ数日は晴れが多いと、たったの数日のデータだけで思ってしまう熊田であった。昨夜の現場に車を止めると、窓を開けておいしそうに朝食代わりに煙草を吸う。後方からエンジン音、収束。鈴木の車である。種田も同乗している。 …

摩擦係数と荷重1-1

「こちらです」車を道路脇に止めて、2人は現場に降り立つ。場所は、昨夜の現場から直線距離にして2キロ弱の工場地帯、人気のない道路である。道路の中央には川が流れており落下防止の柵で囲われている。片側一斜線の中央に自然の分離帯。現場は野原と歩道の…

空気には粘りがある6-2

「すいません。後続車が運良く走行していなかったと仮定しても、投げ出されたのが事実であるなら犯人は複数ですね」 「崖の上から落とした可能性は?」 「それは無理だって熊田さんがおっしゃいました」 「そうだったかな、覚えてない」 「しっかりしてくだ…

空気には粘りがある6-1

熊田は軽い食事を、種田はコーヒーだけを飲み栄養と英気を養った。検死報告の結果がそろそろ出てきそうなので、二人は一度署へと戻っていく。現場は依然として保存状態を維持し、隣接する道路の通行にも若干のわずらわしさを残していた。 O市本部が熊田たち…

空気には粘りがある5-2

「コートですか?」 「ええ、なんと言うか春らしい薄い水色のコートを出勤のエレベーターでみた記憶があります」 「クリニックに内に更衣室は?」 「あります。もちろん男女分かれています」つまり、彼女のコートが見られるのは行き帰りのエレベーターしかな…

空気には粘りがある5-1

本日二度目の来院でも、やはり特有のにおいは出入りのたびに感じられる。鈴木はエレベーターを降りて受付に顔を向けたときに、待合室から声がかかる。 「刑事さん」院長の印象は鈴木が想像よりもはるかに若々しい。 「どうも、少し遅れてしまって……」居眠り…

空気には粘りがある4-3

数時間前に止めた道路に設置された白い枠の駐車スペースが運良くまた空いていた。車を止めて外に出ると、ビルの影が車ごと鈴木ごと包んで、ひんやりと感じた。時間は30分前、携帯をポケットに仕舞う。クリニックの隣のビルがちょうど交差点の角、一階には原…

空気には粘りがある4-2

「休憩をキチンと取らないと神経を使う仕事ですのでどうしても午後からの治療に影響してしまうんです」 「はい」 「休憩のときは仮眠を取るので、途中で起されたくはないんです。そちらも仕事でしょうがこちらも同じです。もちろん、従業員が亡くなったこと…

空気には粘りがある4-1

鈴木は昼食をコンビニの弁当を車中で食し、時間を節約して仕事へと舞い戻る。早手亜矢子の勤務先である歯科クリニックには先ほど、昼食を済ませてから鈴木は電話をかけていた。応対は受付の快活な女性のほうで、クリニックの責任者を呼び出してもらった。数…