コンテナガレージ

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2018-06-01から1ヶ月間の記事一覧

黄色は酸味、橙ときに甘味 5

アンケート用紙を棚に上げていることは重々承知、肝に銘じてますよ、忘れてません。はあ、また隣の男性に横顔を盗まれました。私って、人前に出るといつも誰かに無断で見られてしまう。場所を変えますね。書、き、にくいですけど、移動しました。読みにくい…

黄色は酸味、橙ときに甘味 5

話が逸れましたね、戻しましょう、アンケートの空欄に埋めて文字を書き連ねるので、多少は読みにくいですかね、私も文字の大きさを調節してます、長く続くと裏面の白紙へ続けるつもりなので、それまでの辛抱と我慢をしてくださいまし。その方は、ライブに足…

黄色は酸味、橙ときに甘味 5

皆さんの中でも、二分されるアイラ・クズミ様との接触は大変有名な話ですわね、無論、言わずもがな、グッズ販売に群がる彼らは除外される、私たちのように彼女の聡明さを知れば知るほど、近寄りがたく、接近を好まない彼女の思想に触れて、想像の中での彼女…

黄色は酸味、橙ときに甘味 5

こうして、開演後のグッズ販売の列に並ぶ、一行を尻目に、私と隣の男性はアンケートの記入を優先する行動に据えた。四つに分かれたブロックの、私はステージに向って左側の手前、その最前列に座ります。前のブロックに二人の女性が、会話に興じながら隣同士…

黄色は酸味、橙ときに甘味 5

「真実しか述べてはならない。この手紙の冒頭で私は固く誓いを立てる所存であります。ペンネーム・ドロシーより。 それはもうすばらしいの一言に尽きる、他の言葉でもって語り尽くすことは適わないのですよ、お分かりいただけたかしら。私の見解に目を通す皆…

黄色は酸味、橙ときに甘味 4

柱に沿って、客席とアイラ、スタッフの空間を仕切る黒幕が約三メートルの視界を遮る。朝は柱と柱はがらがらに開きっぱなしであった。午後は午後で配線のトラブルに見舞われて、ばたばた、復旧に奔走していたんだ、いつの間に、私が気に止めていなかっただけ…

黄色は酸味、橙ときに甘味 4

試合が練習、という解釈だ。自分のためなら試合には出ないし、コートにだって立つ意味を見出せなくなるはずだ。 観客の入場開始前に、トイレにもう一度立った。今度は裏から廻るルートを取る。入り口の階段はお客が立ち並んでいたから仕方がない。現在は使わ…

黄色は酸味、橙ときに甘味 4

彼女たちがホテルを発った時刻は、八時。会場までは数十分。お客が数組、見えるだけで三つの塊が産業会館の敷地であると立ち入り禁止を、示す看板をバックに撮影会を早速始めている。ライブは夕方の七時である。それまでなにをして時間をつぶすのか、地元民…

黄色は酸味、橙ときに甘味 4

金曜の帰還、産業会館を出てすぐの道路脇に停止車両を、一台確認した。運転席に一人、後部座席と助手席は暗がりで見えなかった。アイラたちは明日に備えてホテルに戻る、運転はカワニ。彼はこっそりあくびをかみ殺した。スタイリストのアキにそれは伝播、二…

黄色は酸味、橙ときに甘味 3

血液にうっすら浸透を許したものの、右下の角を染め、これから全体を、というときに回収されたのだろう。アイラは、紙を見ながら呟いた。おかしな箇所の侵食。とても変わっている。どこから見つかったのか、彼女はもう一箇所不審な点に気がつく、紙を眺めて…

黄色は酸味、橙ときに甘味 3

なになに?君の文章が気に食わない、肌に合わない、読んでいられない、さっさと要件を言えって、手厳しいじゃない。 ふう。よく言われるのよ、話が長いってさ。自覚症状はこれでもあるんだから、まあ……威張って言うことでもないか。 二枚目の紙に及ぶのは控…

黄色は酸味、橙ときに甘味 3

不破は諦めを思わせる両手を、上に向けた。割と腕は短いらしい。彼は上着の内ポケットを探った。手紙である。紙はビニールに内部にしまわれる。家庭用のジッパーが付いた袋よりも薄手だった。彼が手渡す。 アイラは彼を射抜くように見つめ、それから内容に目…

黄色は酸味、橙ときに甘味 3 

「お取り込み中のところ、おほん、申し訳ない」 「過度な礼節は必要ありません、どうか気遣いの文字数を質問に変えてくださるとありがたい」ステージの手前でぴたり止まる、刑事の不破は足をかけるのを躊躇った。好意的に受け入れてもらえる彼自身の予測を、…

黄色は酸味、橙ときに甘味 3

私は黒の洋服を着る、多少袖をまくる。椅子に座っていた。しっとり、ふうわりとした印象をかもし出す曲であるならば、うん、着席もありかもしれない。お客が左右に首を振る。ゆらゆらとたいまつがあれば、より私を照らす明かりが散乱、光と影のランダムな動…

黄色は酸味、橙ときに甘味 3

不本意な眼差しでカラドが見せるディスプレイにはアイラの演奏風景画が十枚以上確認できた。念のため、すべてのメモリーカードをカワニと市役所の担当者が調べた、各自の端末に差込み、確認。ここで十分の時間を無駄に垂れ流す、そう自覚したアイラだった。 …

洗濯物はたたまない?洗濯かごとハンガーを使った洗濯収納!

https://cdn.pixabay.com/photo/2016/10/02/17/31/basket-1710064_960_720.png 「洗濯物がどんどんが溜まっていく」「頭ではわかっているけど、疲れていて重い腰が上がらない」 いつかは先延ばしになって、いよいよという時を迎えてようやく洗濯に取り掛かる…

黄色は酸味、橙ときに甘味 3

史実家の男は自らの犯した行動違反が理解にすらあがらない。欲の追求、使命感に燃えるがあまり、狭まった視野が落ち度を見逃し、岸壁を転がり落ちてしまう。 「……写真を撮っていただけですけれど」史実家の男は不都合でもありまたしか、表情を読み取る限り、…

黄色は酸味、橙ときに甘味 3

散々。 東南アジアの仏閣を思わせる石造りの建物にもう一つ、南米の遺跡に立つ神殿と開けた土地に生える一面の短い草が印象的。カワニの行動力は底が知れない、管理側の県か市が提案を持ちかけたのかも。歴史的な建造物であることは、侵入を拒んだ敷地を隔て…

黄色は酸味、橙ときに甘味 2

最寄り駅はかろうじて新幹線の停車駅に選出された引きの強い駅。 汗を掻いた彼女の額が窓に映る、車内。 ふう、と呼吸を整える。何とか、出発の時刻の二分前に飛び乗った。駅弁を選んでいたのがいけない。ついつい一人だと贅沢をしてしまう私になびきそうに…

黄色は酸味、橙ときに甘味 2

水曜日に手紙を開封した。夫と子供の手前、そうやすやすと家を空ける時間、これを手に入れる瞬間は神様の啓示みたいに突如として目の前に、それこそ懸賞の当選みたいにインターフォンを鳴らしては、やあやあと配達員たちと二人掛かりで、にこやかに配送品の…

黄色は酸味、橙ときに甘味 1

車はそれから数十分走り、インターを降りた。凱旋よりかは、ふりだしに戻った感覚である。見覚えのある景色が、迫る。 「お昼はどこかで食べますか、それとも……」私はカワニを遮った。 「会場に入ります」 「そうですよね、じゃあコンビニによります。食料を…

黄色は酸味、橙ときに甘味 1

「……あたた」 「衣装は特段、三つの選択肢をもうける必然性は絶対ではないの」アイラは衣装を毎回東京に持ち帰り、一公演ごとに三着の衣装をそろえるアキの東京・九州間の往復の所業に呆れていた。プロフェッショナルといえば、彼女の仕事振りは理想追及の完…

黄色は酸味、橙ときに甘味 1

「なるほど、無視ですか、ひさしぶりの感触では、あるか、うん」 カワニの呟きを取り入れつつも応えるつもりはなかった。 スポーツ誌を捲ってアイラは目的の記事を探す。 写真が掲載されていた、記念館の表口である。アングルは入り口を真横側面から映したと…

黄色は酸味、橙ときに甘味 1

(備考)田端ミキの遺体は遺族に引き渡され、十八日に告別式が行われる。 場所 熊本興行センター 時間 午後五時』 一紙を閉じた。新聞を交換。 スポーツ誌のカラフルな紙面は手を載せていると色が移りそう。膝に乗せた次の一紙はしばらく開かなかった。 警察が…

黄色は酸味、橙ときに甘味 1

ミラーを見ながらカワニが問いかけた。ここまで黙りっぱなしの私になにか話しかけるきっかけが欲しかったらしい。無言の車内を彼は嫌う、というよりも堪えられないのだろう。待機状態の違いがもたらす、定常の据わりが彼にとって討論に寄った着地の見えない…

黄色は酸味、橙ときに甘味  1

イレギュラーに開催地をニ箇所、十月第三週は廻った。 火曜日に鹿児島県で開催、木曜日は二箇所目の宮崎県へ飛び、お客と対面を果たした。どちらも、かつての近代日本を支えた商業会館であったらしい。 アイラ・クズミは詳しい建物の歴史に興味を示す余裕が…

本心は朧、実態は青緑 7

アルコールが飲めたら、と思う。 嘘。 不快たちがはびこってしかたない。 月を眺めて、綺麗とつぶやく。観測者たちは淡々と記録をつける。私はそのどちらでもない立場を好む。どちらへも行ける。まず私は覗き込むレンズを丹念に磨くのだ。 手紙の内容を思い…

本心は朧、実態は青緑 7

「不当な拘束に対する保障が与えられないことに不満を抱いている。事務所スタッフの方たちは一泊の滞在を余儀なくされた。余分な経費は警察が請け負ってくれず、こちらが負担する。いくら会場の外で人が亡くなり、前週はライブ会場で死体が発見されていても…

本心は朧、実態は青緑 7

途切れたアキと不破の会話を長尺の長考が予見されるも、颯爽とアイラがそれを引き継いだ。 唇の収斂、アキは、降りかかる予見される影響がよぎったのだろう。彼女は個人事業者、睨まれたら最後、仕事の供給はストップしてしまう懸念が終始付きまとう。……どこ…

本心は朧、実態は青緑 7

「ナイフで殺人を犯す、実行にはハンデが伴いますでしょう。が、制約を抱えた人たち、私たちを集め、あなたは疑いをかけています。裏を返すとそれは、私たちへの疑いを強く信じられる、私たちの知らない証拠があると検討がつく。屋外での犯行、目撃者は今の…