コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

自作小説-解決は空力で

空気の渦は回転する車輪のよう 1-5

それに、種田は自分たちの価値を平等に保障しようとする。自分にとってはどうだろうか、どれもこれも同じにしか見えないし、映らないだろう。事件の解決が警察の総意。これが満たされれるのなら他人からは犠牲と映っても着地点は普遍なのだ。一連の事件を吐…

空気の渦は回転する車輪のよう 1-4

「忙しくなればそれとなく応援要請の声が掛かるよ」肘をついて熊田はタバコを吸う。 「なんですかそのやる気のなさは、だからいつまでも管理監に言われっぱなしなんですよ!」 「俺が言わなくてもお前が言うだろう」 「お前ではなく、種田です。言いますけど…

空気の渦は回転する車輪のよう 1-3

また、行方の知れなかった警官は、美弥都の見立ての通りに殺人事件には介入していなかった。エンジンオイルをまいた事実だけを認め、殺害の犯行は否定した。トンネル内の死体は自分が見た時には死体であったと切実に懇願して無実を訴えているそうだ。加えて…

空気の渦は回転する車輪のよう 1-2

「もちろん金を盗んで山分けすることが目的ではありましたけど、思ったように世間が流されるのを見て、ああ、私が見たかったのはこれじゃないと思ったんです。同じ時と同じ時間でたまに変わった仕事で、忙しいことがステータスで誇りで、これが人としての誇…

空気の渦は回転する車輪のよう 1-1

事件は意外にもあっけなく終幕を迎えた。熊田の提案を受け入れた捜査員が全銀行員を密着してから三日目に行員の一人が不信な動きを見せた。仕事終わりの寄り道でセレクトショップにて高級時計を物色していたのだった。ターゲットをその行員に絞り込んで、さ…

水中では動きが鈍る 5-3

否定的、ネガティブに力を注いでいるとその通りになる時がある。子供は落とさないでと言われるとコップに入った飲み物をこぼしてしまう。外からの呼びかけに無意識に落とした時の映像が再生されて体が反応してしまったのである。明日についてもそうだ。面白…

水中では動きが鈍る 5-2

「でもですよ、より多くの可能性を網羅して初めて捜査方針を決定をするんです。僕達の意見も取り入れたのは二回とも捜査が行き詰ってからなのは、おかしいですよ」 「だから、俺達の主張が最初から採用されるわけがないの。座っている席がそれを物語っている…

水中では動きが鈍る 5-1

捜査の体制が一変する。打つ手がなくなった捜査本部にもたらされた熊田の進言に管理監は有無を言わず、熊田の提案を受け入れた。犯人を挙げた手柄よりも事態の消息に躍起になっている始末。午後8時32分、捜査本部には集められた人員に現時刻からの捜査の方針…

水中では動きが鈍る 4-8

「そう、殺人はそれを口外しようとしたために行われたのです。しかし、よりによって犯行のリークは一人には留まらず、二人目も口外に踏み切ろうとしたため、その前に殺害された」 「一人目の事件では身元を示す持ち物が持ち去られていました。しかし、二人目…

水中では動きが鈍る 4-7

大きな目を伏せて美弥都は面倒くさそうにこたえる。「簡単言えば銀行強盗の仲間割れ。最初の被害者が強盗犯の一人によって殺害される。次にもうひとり殺され、またひとりで、最後には一人が残る」 「待ってください。そもそも銀行強盗は二件目の事件後に発生…

水中では動きが鈍る 4-6

「ああ、失礼。はい、そうです、署内で関係性は取り沙汰されていません」熊田がフォローする。 「ありがとう。事件が未解決のままなのはそれが理由です」 「銀行強盗犯が殺人犯だと言いたいのですか?」食って掛かりそうな種田が言葉のあらを探すように美弥…

水中では動きが鈍る 4-5

種田は美弥都に視線を跳ね返されてから視線をテーブルに落としてコーヒーを啜っていた。新しいものを取り入れようとすると反発の登場。収めようとしても無意味だ。ただ、なすがままにその感覚、感情、感応で上体の維持に努めると自然と体は細胞に新参者を落…

水中では動きが鈍る 4-4

「仕事中です」きっぱりと美弥都は言い切る。 「私もです」熊田も負けじと言い返す。 「何度目でしょうか。私は雇われの身ですから、しかるべき対象者に断りを入れてくださらないとお客と店員を踏み越えて会話に没頭するわけにはいきません」美弥都はおどけ…

水中では動きが鈍る 4-3

一口目からカップを置くまでに、熊田が近くにいる美弥都へ意を決して言う。「あの、ひとつお聞きしたいことがあります」伏せられていた彼女の大きな瞳がとんでもなく透明で隠していた嘘を告白する時の緊張が体に走る。 「私にですか?」 「はい」熊田はゴク…

水中では動きが鈍る 4-2

そのような思いと対を成して、日井田美弥都に事件についてどう切り出そうかを思いあぐねていた。かくいう、自分は口下手である。刑事としてはマイナスと思われるが仕事の大半は相手が話している状態が常である。勝手に上着のタバコに手が伸びる。熊田の動き…

水中では動きが鈍る 4-1

日暮れ時、喫茶店のアスファルトにほんのりと赤の模様。絶命寸前の輝きも雲に覆われてしまっていた。二人は店へと入っていく。入口の引き戸にちょこんと地べたに張り付いていたトラ柄の猫がひょいと首を向けたが、威嚇もせずごきげんも取らない。目を見合わ…

水中では動きが鈍る 3-9

「不可能だと認めることも時には必要だ。ないことを嘆いても充足感は満たされない。否定はさらなる否定を増加させる。きっぱりと別れてしまったほうが楽なんだよ」 「諦めですよ、それは。現実に……」 「目をそらすな、しっかりと見つめろ!」熊田が言いかけ…

水中では動きが鈍る 3-8

種田は小走りに署の駐車場で丸まった背中の熊田に追いついた。右指にはタバコが挟まっている。 「熊田さん」熊田のシビックのドアに手が触れた時に種田が声をかけた。多少息があがったていたがものの数秒で整えた。振り返った熊田は驚きも意外も、感情を表す…

水中では動きが鈍る 3-7

「そうだな。話したというか、報告だよ。警官がエンジンオイルを捨てた映像を上層部に上げなかったもっともらしい訳を言ってきただけ。お前が知りたい事件のその後については現在も状況に変化はない。休暇中の警官もまだ自宅には帰ってきていなしな」熊田が…

水中では動きが鈍る 3-6

「それは国道を走ってみればわかります。Z町から向かうとトンネルの反対側に出る道の方が近道ですが、ちょうとカーブの頂点でトンネルへの道と繋がっているのであそこで減速すると後続車に追突される危険があるために遠回りをしたのでしょう」他人の喫煙に…

水中では動きが鈍る 3-5

「……ここ禁煙ですよ」澄まして熊田が指摘する。 「お前、怒られるのがわからないのか?俺のことはどうでもいい、証拠を隠してた事実はそう簡単に許されはしない。わかっているのか?」 「はい」明らかに捜査の進捗状態よりも自身の進退に比重が傾いている。…

水中では動きが鈍る 3-4

上層部の面々は長机に揃い、入室の熊田を一瞥、無言だ。後方から前列付近に到達すると熊田が言う。 「お呼びでしょうか?」 「お前、録画した映像を提出しなかった正当な理由があるのなら言ってみろ」片肘をついて上目遣い、白眼が強調された瞳で中央に座る…

水中では動きが鈍る 3-3

血液が凶器に付着していれば殺害に使用されたと断定されるが、警官の部屋から見つかっただけであって当日の警官のアリバイはまだ正確には照合されていないのが現状である。つまり、何者かがもしも凶器を警官の部屋に忍ばせておくことができれば疑いのかかっ…

水中では動きが鈍る 3-2

まず警官の逃走については、特に尾行を巻くための逃走ではなったそうだ。正義の象徴である警官としての自覚が裏目に出たといってもいいだろう。急ハンドルで進路を変えたのは覆面パトカーに目撃されたため。つまり、追いかけてくる熊田の車両を覆面パトカー…

水中では動きが鈍る 3-1

夕刻の住宅からは夕食の匂いが換気口を伝って外部に漏れ出していく。日はすっかり暮れて、突然のカーチェイスから一転して白バイの登場は急展開で終幕。数分遅れでやっと別班の捜査員たちの車両が到着したが、まだ白バイが現れた詳細な説明は誰からももたら…

水中では動きが鈍る 2-7

「あいつ何考えてんだよ。これから事件を起こすつもりじゃなかったのかよ」相田に悲愴な声が含まれている。 「知らなですよ、でも逃げるってことは犯人だって言っているようなもんですからね。何か、証拠でも隠しもっているんですううううよ」前のシートに体…

水中では動きが鈍る 2-6

「……上にも下に横にも斜めにも人がいるのが嫌なんだ。わがままといえばそれまでだが、無駄な挨拶や気遣い、配慮がどうも体に合わない」 「社会ってのは、たいていそういうものですよ」相田がきっぱりと切って捨てた。そこには同意も含まれていたかもしれない…

水中では動きが鈍る 2-5

「うるさいぞ、大きな声を出すな。上からの指示なんだ従うしかないだろう」相田の説得が始まる。彼がこの中では最も中立的で常識に富み、一見していい加減そうな風体は常識人を隠すための装い。誰もが皆何かしら装っている。 「いつもの言い方に比べると語気…

水中では動きが鈍る 2-4

「熊田さんはよく犯罪者の心理が読めますね。僕なんかはてんでダメですよ」鈴木はフルフルと首を細かくふった。その言い方や行動から擁護を望む心のうちが滲む。 「お前はたんに頭のネジが何本か抜けているだけだろうが」 「いまどきネジが抜けているなんて…

水中では動きが鈍る 2-3

無線のやり取りが途切れた。 静寂。 行き交う車にライトが灯り始める。 人通りも少ないのかまだ通行人は下校中の中学生一人だけである。 カラスの鳴き声。 出てきた。交番の引き戸が開くと警官の姿。軽く中にいるもう一人の警官に挨拶をしてドアを閉めた。制…