コンテナガレージ

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あいまいな「大丈夫」では物足りない。はっきり「許す」がききたくて 1

 白に塗り替えた内装、自動扉(door)の一枚外側に鎧戸(shutter)、導き光床に一筋二筋陽が漏れる。倉庫を思い起こす。罪悪感と身を寄せた「明るくなければ」は、体内で最高域(peak)を迎えた。立ち上り、霧散。煙草の煙みたいだ。種田は日本正(にほんただし)の吐露に聞き入る。声は読経なる形態さながらなよなよ腑抜けを故意(わざと)か持続したがる。滑らかでは不十分突っかかるのかというと、それも不適格。言葉を選びつつ速度に変化が生じてしまう。

「妻は失踪しました。嫌気が差した、もしくは研究心が再燃した。本心は当人のみぞ知るのでしょうな。過去の一時の決意を覚えているとは到底、確実に忘れてる。私ならば研究の外記憶はさっぱり就寝の度だ、整理は多少配置換えに冷徹せしめる排除という整頓を習慣とする。不要な記憶とは縁を切るのですから眠れるとき、研究の成果と明日の課題の整理に脳を専念させます。批判的な意見を述べますよ。記憶にとどめても結構、社員へ言いふらしても構いません、許可します」

「事件解決にとって有益か不利益か、私の判断基準は単純で明快。また、あなたと同様部署の同僚、上司に関係を限る。仕事以外での会話強いて云うなら大型用品店(スーパー)の会計が能(よ)く々意思疎通を行うでしょうね。財布に収まる会員証(card)は目ざとく見つけてやり加算(かさ)なる点数(point)の切に願う、もしくは教授による親切心を抱かせ後日の買い物に当該店舗を利用してもらう魂胆かは、どちらであろうと過剰な接触といえてしまう」

「気が合いますね。電子通貨(money)の普及にもcard(カード)を待近(かざ)す適時(timing)と電子通貨(money)の使用を告げる不要無用なやり取りの改善に努めなくては、介在する人間の対応が今後課題となるでしょうな」

「話題が逸れてます」種田は咳払い、空気が乾く、声を整えた。「届出を躊躇う、刑罰には処されません。とはいえ、あなた以外奥様の両親・親類への説明は、天涯孤独の一言が片付ける。ゆえに、あなたは届け出ず自生に問い自らの承知承諾を得た、と理由を固めた」

「人員を割く事例(case)と見なし、担当の捜査員は数日から数週間の捜索期間を設ける」昼下がり薄暗い地下を思わせる空間に先端の赤い玉はわずかに存在のありがたみを童話で、幻想の世界を呼び出す灯りとは似ても似つかず。たとえるなら、真暗闇(まっくらやみ)から明りの漏れる空間に押し出されたその時である。彼は言う。「刑事さんはなぜ私を捜査の対象に据えたのか、しかも管轄外の捜査員とあなたはおっしゃる。思い浮かぶ愚答ばかり、ああ……目詰まりの正体」千切れるよう日本は首を振った。かと思うと窮屈な角度で止まった。

「S駅の殺傷事件はご存知でしょうか?先月末の五月二十七日の午後十一時四十五分頃に発生した事件です」

「読みたい活字は新聞以外であった。本日の天候を窓から取得できますし、気温は体に訊く。遠出にはさすがに気温と天候は調べますよ。不要な情報でも知っていなければならない類のものは、たいてい接触を断つ生活へ抜かりなく進入を許してしてまうのです」

「要するに知らない」

「『ない』は止めていただきたい」

「不可能を誘発しかねない、からでしょうか?」

「ええ、あなたのように区別した使い分けに長じる世の中であるはずがありませんので」

 種田は思いついた疑念をぶつけてみた。低い確証、通常は控える浅薄な行動だが、背に腹は変えられない、彼女は本日限りで単独捜査の終焉を迎える。上司に追いつき、『エザキマニン』店主の推理は金輪際聞くに堪えないと言い聞かせたのだ、然るに、彼女は語気を脈絡なく強める。

「あなたは事件当夜どこにいらっしゃいましたか、形式的な質問です」

「それにしては圧迫感が強い」煙が細く棚引く。もう一つの媒体を通じて、心象が表れたかのよう。煙はそっけなくそれとなく振舞う。

「言えませんか?」種田は再度尋ねた。可能性の一つを潰す、これでいい、考え方を変えた。

「ここにいましたかね、私一人で。今日とは言わずここ数週間は毎日最上階で寝泊りしてます」

「奥様は雨合羽(raincoat)をお持ちでしたか?」

「さあ」不可思議に日本は首をかしげただろう。「私と一緒で洋服に無頓着ですから、傘を差すのに雨合羽(raincoat)が必要である理由がそもそも私には理解しかねますね。外套(coat)が何か?事件に関係でも?」

「『エザキマニン』という洋食店はご存知ですね?」

「決め付けた言い方ですね。ええ、存じてます。ああ、そうか。私の好者(fan)ですよ。『する』『しない』を履き違えた私の付回輩(stalker)です」

「あなたのために行動を起こしたと?」

 白衣(はくい)の裾がはらり膝へ遠慮なさらず時空間(space)を空け、渡す。彼は受け取ったままの携帯灰皿を種田に返すと、音もなく腰を上げた。四m先の壁へするり背中の吸盤を吸い付けた。まるで自然(じねん)に付いてる。うん、見えた。喉を落とし彼は言った。視線はどこか異国、遠き彼方想像の世界へ。幻想や夢の中にある現実を私は眺めているのかも。日本正は彼を振舞う。ある意味でこれはこれ、正解である、共通する一致点は認めてやれる。おそらく、うんんや考え足らずの同姓はこれを恋と位置づけた、言い切るさ、私もこの人が私であるように思えてならない、むしろここに居る目線の低い者こそ一体どこの馬の骨なのさと詰寄りたくってたまらない。思い込みたいのだ、似ている、そっくり、瓜二つ、片割れ。ないがしろな自身を補いたくてたまらない。かつては二つだった。引き裂かれ互いを求める。誰かが書いていた内容だった。 

「礼状をお見せしましょう。刑事相手に偽造の書面を見せる度胸などあるようにみえますか?」

 応答を返す前に彼は言った。いつも持ち歩いているそうだ。方々でするとだ、付回輩(stolker)が迷惑行為に好き勝手に触れ回るというのか。しかしknife(ナイフ)の売却に激怒し尚且つそのknife(ナイフ)が殺害に使用され憤慨を意見したその者は先ほど取得した『エザキマニン』の情報が見做(みな)す、knife(ナイフ)を以前からたびたびくすねていた数人のうちの一人と。付回輩(stolker)がknife(ナイフ)の売却に怒り狂うはまだ許容の範囲だが、使用されたと思われる凶器と頚部の切断は市民に知れるよう公表を許可していた、そこへknife(ナイフ)が凶器だと言いがかりをつけた。おかしいではないか。

 礼状は本物である。

「疑問があります」種田は受け取る日本を見上げていう。

「私が好意を抱く対象としては顔の造作が未完成である」

「いいえ」種田は冗談を一蹴する。「付回輩(stolker)はなぜ凶器を骨董(antique)のknife(ナイフ)だと断言が可能だったのでしょうか?」

「knife(ナイフ)?凶器がknife(ナイフ)なのですか?」

「ご存じないと?」

瞬く瞼の開閉は二人合わせ数十回を軽々超えた。

「『ない』の訂正を」彼は遅れて訂正を促した。本心だ。だが、それでは話がちぐはぐである。彼を救う失態の取り返しに凶器はナイフを流布し果されずの上回る売上げを今度こそは、付回輩の接触に見舞われた予測に反するのだ。想像(おも)いに吐いた口がそれこそちぐはぐ。

「付回輩(stolker)はあなたを救うべく『エザキマニン』で日常に使われる食器を密かに隠盗(くすね)ていた。営業妨げ、他所へ火種は燃え広がりませよ、延焼を見越す。内装から食器類、家具と入退店に出会う外観は総一式(total)の佇まいを目当てにあそこへ通う、居所地位(status)。取材を固辞する、あそこは一種独特選ぶ甲斐のあらむ、興味を触発(そそ)る対象であった。そこへ名もない偽の食器、摺り替えた品物が紛れ込み、何かしらのきっかけを用意・合図に一芝居打つつもりだった。が、発動を前断りもなし食器は売却されてしまい、未消化打続く怨怒(おんど)は余り一日の火を落す店内へ討ち入り、騒ぎ立てた。無断売却を罵倒これと用途外(ようとがい)因(よ)りに因(よ)って殺害に使用、怒りをぶつける。ここでひとつ疑念が、。売却をありえんとした蔑ろへは妥当性を多分に帯びる。対して名高く目の養う有難き食器の補う殺人、腑に落ちません、先見をそれどころか後世(のちのよ)に証明してみせた。異名を、あの店主ならば飾り、使用済みを展示することでお客へは安堵を届ける。ええ、付回輩(stolker)は殺人に類する事件を同様の凶器を使い、起こす予定であった。その可能性は残されていますが、先ほど聞いた話は犯人は店主であるなによりの証拠に骨董(antique)のknife(ナイフ)を引き合いに出す場面を再現していました」

 日本正の困惑振りは考えながら説明と解釈を加える種田の発言内容に起因をする。当人も些か当惑し、しばらくの間を空く。叩かれる鎧戸(shutter)をあわよくば欲した。鎧戸(shutter)本来の姿にがらがらあやどしゃどしゃびっしゃんなる開閉と殴打さ、もしかすると蹴魂(けたたまし)い音を我(わが)内部で作り出していたのかも、彼女は考えた。あらかじめ、事前に。着替えは枕元に用意する。

 不意を突いて言葉だ、そのとき宙に浮いた。鷲掴むも、手のひら逃げる。

 引(ひっ)鉤(か)かる印象が手招き、いたずらに微笑む。捉えたい。想像(image)は不得意だ、具現化しようと近づくも人影(かげ)のようそれはすばやく逃げてしまう。じっとだ、黙っていよう。

「わかりました」日本は目を細めて言(い)った。口元はきつく固く結ばれた。いびつな顔だ。「付回輩(stolker)と雨合羽(raincoat)の女性はまったくの別人でしょうな」

 予想を外れる。影は身に隠す。摑まえたのか、唐草模様に意思が絡まる先よ縦横前後へ伸びる。ずいぶん高い声が出る、我ながら。

「昨日(さくじつ)雨合羽(raincoat)の女性が姿を見せた。付回輩(stolker)の出現は異なる日付だと?」現れたとは云うも日付はこちらの思い込みだった……。

「私の店に現れる。後日『エザキマニン』さんを訪れた。出店の月ですから、先月の事件の前でしょうか」

「確かですか?」言い終わるより早く種田は自動扉(door)の開閉を、玄関拭泥敷物(mat)に片足を踏み出した止動(pose)をとる。「どうなのです!」

「訪問によって事実確認は取れましょう。……応えてくれるかは別問題ではありますがね」

 鎧戸(shutter)が引きあがる。背丈をやや下回る、屈んで通る高さまでを日本はあげた、壁に埋め込まれた丸押出(button)が緑を放つ。

 自動扉(door)が追(おっ)て稼動を開(かい)し、足元の空間へ玄関拭泥敷物(mat)から一歩踏み出して一言、質問を繰り出してみた。「奥様が他方(ほかのかた)と新生活を始めていた、仮定の話です、居所は知れた、あなたは奥様に会われますか?」

 屈託のない笑みが作る皺は猫のよう、表情を見事相殺せしめるとは、打ち消す、またひとつ学び。

「西洋料理は含まれる成分の合致(ごうち)が多数なる組合(くみあわ)せを重用する。味に厚みと奥行きを出すのだよ。一方亜細亜の料理は根底よりその手法を覆してしまう。お分かりになりませんかね、異同を掛合し、その味を好む」彼は腕を開いた。発言を読み取れ、推理せよ、これ以上の説明には応じるものか、さっさと出入り口を屈んで私の前から去れ。一つ前のそれか次の論理に根ざし器用に使いこなすか。

 頭を下げるか迷ったがこの国に生れ落ちた性と諦め彼女はくたと上半身を折った。