コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

あちこち、テンテン 3-2

「具体的な日時はいえないよ」

「リルカさんはだってもう料理を任されています。私と年だってあまり変わらないのに、なにがいけないのですかね」

「なにがいけないと思う?」店主の問いに安佐の快活な返答が途切れる、店主は間髪いれずに続けて話す。「明確な基準は設けないつもりだ。味の良し悪しはぶれない再現性が第一。僕ではなくても作れてしまう料理をここでは提供している。国見さんも小川さんも作れる料理だ。難しい工程は組み入れてない。だからこそ作れると小川さんは主張するんだろう。ただ、皮むきは誰のためであるかを人に聞いている段階ではまだ料理を作らせたくはない。おいしいとは思うよ、君の料理は。けれど、うん、それだけだからね。足りないのさ、また来てもらうためにはそれだけでは他となんら変わりない」

「愛情を込めろってことですか?」さっきよりも多少畏まった言い方に変わる。気後れではないだろう、彼女は物事には動じないタイプである。

「いいや、尋ねる前に考えてごらんよ。僕がラインを示せば君はそこまでしか目指さないだろう?何のための皮剥きかを考えることによって、そのラインはいつか越えている」

「……頭皮から煙が上がってません私?店長の話はこう、いつも難しいんですよ。えっつと、忘れないようにっと。皮むきの意味を考えろってことですね、ようは?」

「まあ、うん、ちょっとずれてるけど、方向はあっている」

「ようし、皮むきを考えるのか。うーん、うーん、うーん」

「お前は、車か。なにを吹かした擬音語でジャガイモに問いかけてんだ」館山リルカが戻ってきた。秋めいた外気で彼女はいち早く秋の様相、革のジャケットを着ている、館山は男性的な形の服装を好む傾向にある。彼女は店主には別の声色で報告。「戻りました」

「おかえり」

「あのう、店長からジャガイモは誰のために剥くのかを考えなさいっていわれました、私」ロッカーに上着を戻し厨房に入った館山の袖を掴み小川は縋るように答えを求める。

「私に言わなくても」

「料理と皮むきってまったく結びつかないと思いませんか?」

「そんな事だからあんたは料理を作らせてもらえないんだよ」

「じゃあ、リルカさん店長の料理作ってもいいですよ。サインを知ってるんですか?」

「なによそれ。それよりも、予約の前菜は?材料そろえたの?」

「これからです。ジャガイモをまずは先にやっつけようかと」

「段取りってもんがあるでしょう。ジャガイモの緊急性は低い。手順はまず、時間のかかるもの、次に、工程にインターバルがあるもの、そして残り時間が迫っているもの。ジャガイモは何に使うの?」

「コロッケです」

「ディナーには出すの、コロッケ?」

「……明日のランチです。冷蔵庫に寝かせる時間があるから先にやっつけてしまおうかと思って」うつむいた小川はか細い声で理由を説明する。

「まずは、予約の料理から取り掛かるのが先でしょうが」

「はあい」

「館山さん、もうそのぐらいで」塩と胡椒で薄く味をつける、炒めた食材を隣の鍋に移し入れる店主は、背中で言った。