コンテナガレージ

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がちがち、バラバラ 6-3

 鏡越しに出勤してきた従業員へ挨拶。店に戻り、今日の予約をチェックする。若手の見習いが表を掃き終え、戻りしなわざとらしく声を上げた。
「なに、どうしたの?」仕儀は受付の予約画面を見つめたまま言う。若手の見習いは男で、バレリーナのように首が長い。
「店長に話すのを忘れてました。警察が来てましたよ」
「そう、それでなにかいってた?」
「いいえ、いないなら出直すって。出勤時間を伝えたんで、もうすこしで来ますよ」
「やけに断定的ね」仕儀はペットボトルの水を飲む。
「怖いぐらいの迫力で聞かれたら、それはねえ、誰だって緊急事態だって感じ取れます」得意そうに見習いは胸をそらせた。ジャケットを脱いだ従業員が休憩室から店内に入るなり、よく通る声で言った。
「また、通りで事件が起きたんですよ」
 仕儀は振り返る。「嘘でしょう!?」
「ケータリングをはじめた店の前に進入禁止のテープ、貼られてました。もしかして、店の誰かが犯人だったりして、見つかりそうになったからほかの店員も殺したとかね」
「想像は自由だけど、昨日のお弁当おいしかったじゃない。よくもまあ犯人扱いができるわね。信じられない」息巻いて仕儀は従業員の節操のなさを痛烈に批判した。
「誇張した表現じゃないですか、そんなに怒らなくて、なあ見習い君」従業員は二人の意見に板ばさみに合いどちらにつこうか瞬間の判断に困っている。仕儀はすかさず助け舟を出した。
「応えなくてもいい。それに、何度も忠告したはずよ、昨日と同じ服は着ないでって」従業員の男は、赤黒のチェックのボタンダウンにくすんだ緑色のミリタリー風のパンツ、それに黒のハイカット靴。悪びれる様子は一切男から感じられない、それどころか毎回同じフレーズで反論するのだ。
「下着はきちんと換えてます。昨日は汗もかいてません、匂いだってほら、柔軟材の匂いしかしないでしょう。昨日来たお客が万が一、今日もやってくるなんてことはこれまでありましたか。予約だってさっき見ましたけど、新規お客さんです」
「休憩や店の前を通り過ぎたとき、昨日のお客に見られる心配は考えていないの?」
「ここでは何を売っているんです?サービスでしょう?僕たちの服装じゃない」
「あなたのお客はあなたのすべてを選んでうちの店を選んでくれているのよ」
「ホストクラブやアイドルじゃあるまいし。僕に恋愛感情を抱くお客が仮にいたとしても、朝帰りの昨日と同じ服だからどうだというんです?」