コンテナガレージ

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店長はアイス  死体は痛い?5-3

 商品開発、室内は研究室を思わせる光景だ。鈴木は研究室と名のつく場所を直接目にした機会はない。あくまで、ほとんどがテレビで紹介される大学などの研究室が主な情報元である。部屋の半分が食品開発のブース、調理台やステンレスの冷蔵庫、攪拌のミキサーや小麦粉を捏ねる調理器具はデパートの地下の店先で見られた光景。

「はじめまして、開発室の副室長の小島と申します」刑事たちも名刺を交換。小島は右奥の丸いテーブルに案内。洒落た造りのインテリアである、椅子が高く、座り心地は悪い。涼しげな容器、お茶の色が透けて見える。二人に飲み物を配り、小島がようやく対面に座った。

「大嶋さんのことですか、今日いらしたのは?」

「ええ、まあ。あの、新商品の開発というのは、どのくらい前から、その発売までに時間がかかるんですか?」

「お前なに聞いてんだよ」相田はすみませんと、謝り鈴木の脱線を止める。

「いいじゃないですか、滅多にいいえ、今後一生、商品開発の現場には今日を逃したらもう入れません」

「偉そうに言い切るなっ」

「だって、巷で話題のしっとりバームクーヘンがね、ここで作られたって思った、くう、もう堪りませんよ」

「すみませんね、子供みたいな奴でして。それよりも仕事だろう。聴取を、ほら」

 鈴木は頬を膨らませる。「わかってますよ。……あの、お話の最後に、ブースの中を見させてもらうことは可能ですか?」

「ええ、それは、はい」小島は明らかな愛想笑い。「あの、それでお聞きになりたいことというのは?私にだけ、とお電話で言われたのですが。私も部下同様、部長とは特別親しかった関係ではありませんでした。その、あまりお役に立てるようなことは申し上げられないと思います」部長はこの小島京子にだけ、開発部門のメンバーで連絡を取り付けて話を聞くよう、手配していたのだ。なぜ、小島京子かは、鈴木、相田ともに知らされていない。唯一の部長の指示は、新商品の試作品の話題に触れる、というものであった。それが事件とどのように関わるのか、二人には皆目見当も付かないまま、現状、話を聞いている次第である。