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摩擦係数と荷重7-4

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「内部の人間が犯人である可能性を捨てたわけじゃあ、ありませんから」熊田は涼しい目でそれに応えた。
「身内を疑っているのか?」
「あくまで可能性が少しでもあるかないかですよ」熊田は話していて、自分が種田に似ていると思えた。椅子に預けていた体重を両足に戻す。 
「こんな物騒で身内の顔色を伺う事件なんて早く解決してもらいたいね、探偵さん」熊田はまだ先の長いタバコを灰皿におしつけて出ていった。背後から神の嫌味が聞こえていた。それももう、慣れてしまえば心地よくさえ感じてしまう。事実、神は悪気を込めていっているのではない。多少でも署内で会話を交わす仲の仕事仲間に気張った発言なのである。熊田以外にそのような砕けた言い方はしないのが神のデフォルトなのだ。

 今日の鈴木は別行動である。重田さちの周辺捜索が鈴木に課せられた任務だった。一方、早手美咲との面識が昨晩にできた熊田と種田は娘の早手亜矢子が亡くなった当夜、彼女の行動の裏付けのため、これからその日に会っていた彼女のクライアントの元を訪れる予定なのだ。
 熊田が運転する車は20分で目的地周辺に行き着いた。もちろん、助手席には種田が座っている。署を出る前に種田はそのクライアントに連絡を取り、約束を取り付けた。事情については詳しくは伝えられないのでなんとも歯切れの悪い納得の仕方で最後には相手も話を聞くことを承諾してくれた。クライアントにしてみれば当然の対応である。警察とはいえ、早朝から事情を聞きたいのでこれから伺ってもいいかと言われれば、何についての事情なのかを問うだろう。しかし、早手美咲から自分の名前を出さないで欲しいと言われていたので、彼女の名前を言わずに説明をしたのだから、伝わるわけがない。
 直接、訪ねても構わなかったが自宅不在の場合に備えての所在確認も電話には含まれていたのだ。昨日のような時間の使い方はもうウンザリであった。やはり、ある程度の拘束された時間内を動くのが熊田には合っている。昨年、飛び降り自殺のあった大学の看板が交差点の角で注目を集めていた。大学への送迎バスがゆっくりと反対車線から坂道を登っていく。車は、交差点内で一旦停止、対向車をやり過ごしてバスの後に続いて坂を登る。送迎バスの整備費やガス代、運転手の人件費は学費に含まれているかと熊田は思った。バスを利用しない生徒ももちろんいるだろう。大学を運営する費用として大まかな括りで徴収されているかもしれないとの結論。