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重いと外に引っ張られる 2-5

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 一件目の事件、早手亜矢子の母親、早手美咲が遺体の発見時刻近辺で最寄りのインターの通過したのは果たして事件との関連を促す事実かどうかの是非を威嚇をもった視線で捜査本部のお偉いさんが一同、捜査員を見回す。しかし、確実な解答なしにむやみにその視線に目を合わせることは、執拗な破綻のない解答でしか切り抜けられないのを知っているから誰も顔を上げたりはしない。暫くすれば、ムスッとして座るのだ。
 咳払いをしたお偉いさんが諦めたように言う。「では、現状で判明した情報はなにかないのか?熊田、お前たちが捜査にあたっているんだろう?」熊田は鈴木にこれまでの報告をするように二本の指を二回上向きに、軽く振り、立つように促した。鈴木は皆の注目を浴びてしぶしぶ報告せざるを得ない状況。
「はい、あのー、えーっと、早手美咲はレンタカーでクライアントであるアートプロジェクトの屋根田の事務所を訪れています。インターの通過時刻から滞在時間は約30分。屋根田の証言によれば、早手美咲が帰ったあと、直ぐに自分も事務所を出たとのことです。事務所に設置されたセキュリティにはドアの開閉時刻が記録される仕組みで早手美咲が退出したであろう時刻の10分後にドアは閉められました。それ以降事務所の出入りは翌日の出勤時まで記録されていません」緊張で出にくい声が出だしに続いたが中盤後半は持ち直した。手帳から視線を周囲に。
「一定時間、証人がいたとしても娘を現場に遺棄するのは可能だろう」ペンを手持ち無沙汰にこねくり回して、お偉いさんが誰ともなく声を出す。鑑識の神が熊田たちの前列、最後尾から二列目でだらりと腕を上げる。
「なんだ?」偉いさんはペンで神を指す。
「早手美咲が乗車したレンタカーも調べましたがね、血痕や早手亜矢子のDNAは検出されませんでした」
「母親は偶然に娘の死体遺棄現場付近を通過したとでも言うのか?捜索願は翌日の午前中となっている。年頃の娘の外泊で捜索願は大袈裟過ぎる……」指揮を執っていた管理職が黙りこむ。会議室は静けさに襲われる。おかしいとは思うが、決定的な証拠が上がらないのでは母親に対する事情聴取は行えない。娘を奪われた挙句に殺害容疑までかけられ、もしも間違いだったとしたらマスコミからの追求は免れない。だからこそ、親族への殺害容疑は難しいのだ。
「……それでは、二件目の事件についての報告」事務的に会議を進める。最も会議においては意味のない種類の行動である。持ち寄った情報の精査と今後の課題、または修正すべき点の改善策にある程度の意見の総括、方向性の確認などなど、会議は具体的かつフレキシブルでなければただの御前会議でしかないのだ。