コンテナガレージ

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空気の渦は回転する車輪のよう 1-4

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「忙しくなればそれとなく応援要請の声が掛かるよ」肘をついて熊田はタバコを吸う。
「なんですかそのやる気のなさは、だからいつまでも管理監に言われっぱなしなんですよ!」
「俺が言わなくてもお前が言うだろう」
「お前ではなく、種田です。言いますけど、……もう、結構です」
「何をそんなに苛立ってる?」
「証拠を掴んだのも、犯人を突き止めたのも熊田さんの手柄です。処分されるいわれはありません」
「事件は解決したんだろう?」
「は?そんなのとっくに解決しましたよ」
「ふーんそうか、ならいいか」
「はあ、それだから、いつまでもそうして」会話を遮るようにい美弥都が後ろからアイスコーヒーを運んだ。言いかけた言葉を飲んできっと美弥都を睨んだ種田。しかし、相手は柔らかい微笑みで取り合ってはくれない。
「どうぞごゆっくり」
「あの、この間はありがとうございました」立ち去る背中に熊田が声をかける。美弥都がふわりと振り返った。「無事に事件は解決しましたので、今日はそのご報告に来ました」
「それはご丁寧に。でも、それだけをおっしゃるだけに足を運ばなくてもよろしかったのに」
「コーヒーも飲みたかったものですから」熊田はカップを持ち上げる。
「そう、それはなりよりです。むしろ、その気持ちをもっと大事してほしいものです」
「ええそれは、はい、そうですね」熊田が笑う。美弥都も口元に手をやりクスクスと笑った、挟まれた種田だけはむすっと表情を崩さない。オセロだったら挟まれた種田もひっくり返って笑うだろう。
 常連客が一名自分の家のように店に入ってくると、入り口に向き直った美弥都に軽く手を上げてそのまま定位置の椅子に座り、抱えていた新聞を広げた。
 美弥都が腰をかがめた。お客と一緒に猫が入ってきたのである。ここで飼っている猫だ、熊田も駐車場で見たことがある。猫は美弥都に甘えるようにまとわりついて体を擦り寄せる。
 どうやら猫が擦り寄ってきたのは餌の催促だったようで、足元においた銀色に光る器に頭ごと突っ込み、何度か顔を上げてあたりを見回しては食べ切った。熊田は何故か猫の様子を気にかけて、上体が隣の種田を越えて反り返る。餌を食べ終えた猫は顔を丁寧に洗うと、一声鳴いてドアを美弥都に開けてもらいまた冒険に旅立った。
 店内がまた人間だけになった。熊田は物思いにふける。刑事である自分から捜査協力の見返りあるいは報酬、感謝のしるしとして手土産を持参しても良かったのであろうが、熊田にしてみれば、特定の市民それも特に美味しいコーヒーが飲める店の出入りを今にも増して難しくはしたくなかった。だから、埋め合わせのつもりと楽しみを込めてここを訪れたのだ。