駐車場はいつものごとく閑散として、囲いのブロック塀に猫が警戒の眼差しで数メートルの距離からこちらを伺っていた。石造りの建物に二人は足を踏み入れた。喫茶店の経営状態を図る指標は熊田は持ちあわせてはいないが、この店は繁盛しているのだとは理解できる。常連でないお客の姿がチラホラと見えるからである。カウンターの一番奥に座る。店主の姿はない、カウンターには日井田美弥都が陶器のような肌に乗っかる薄茶色の瞳で迎え入れた。テーブル席は埋まり、カウンターには誰も座っていない。冷たいに水が二人の前に置かれる。
「ご注文は?」種田の斜め後方から美弥都が注文を促す。
「コーヒーを2つ」熊田が種田の分も何も聞かずに注文する。一度、種田を美弥都がそれでいいのか、という表情で覗いたが、かしげた首は反応のない種田を察してすぐに戻され、彼女はカウンターへと戻る。タバコを取り出して、熊田が指摘されないうちに火をつけた。
「怒りませんから、吸ってください」
「いいのか?だって、本当は嫌なんだろう?」禁煙した人でも煙草の煙を嫌がるものとそうでないものがいる。種田の場合は煙自体には嫌悪感は抱かないのであるが、許可無く密閉された空間での喫煙には厳しい態度で人格否定の言動を放つこともある。しかし、指定された喫煙場所でのタバコには兎や角言わない。それに、今のように近くでもタバコを吸う許可が降りる場合がある。
「ここはタバコを吸える環境です。車内では同乗者である私に配慮して吸わないでいてくれました。これぐらいの譲歩は当然のことです」
「大人になったもんだ」
「どうしてここでコーヒーを飲むのでしょうか?別の店でも良かったのではと、私は思うのです」
「あの人に話を聞くためだろう?」熊田の声は小さくなる。美弥都には二人の会話が聞こえていない様子で、もくもくと作業に従事する。コーヒーの香りがほんわかと漂う。惹かれた豆とドリップで抽出の黒液。
「……」種田はじっと美弥都の動きを観察していた。睨むような目付きに熊田も呆れていた。明らかな敵意、または嫉妬のどちらかであろう。自分よりも高性能な回路を携えているのに、それをひけらかそうもしない。もし、事も無げに能力の提示を見せたなら、その一点を容赦なくついてやっただろうに、日井田美弥都という人物は、普段は無能で無防備で無関心で無気力を演じていると、種田は思っている。コーヒーができあがるまでにそれなりに幾らか事件について、解決策を上げてみた。煙がゆらゆらと舞う。