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論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 5~無料で読める投稿小説~

「死因まで私が特定をすることもないでしょう。精神的バランスを崩した者には、複合的な疾患が伴うとも聞く。後一押しが機内の荷物棚、遮蔽された暗室、密閉でしかも気圧の低い、揺れる非日常は、ナイフの刃先でもって、繋いだ糸を切断するには十分な接触であった。思い付きです。しかし、私なりの考察ではある。誰かに殺されたのかもしれない、それともいち早くフロアに踏み入れ、私たちが借り切るフロアに強引にあるいは何かしらの理由をつけて、警護を盾にしたのでしょうか、そうして姿を消した」
「死因の特定、荷物棚にたどり着いた経路は曖昧であり、憶断の域をでない」
「正解を述べる、と私はあなたと確約しましたか?」アイラは誘うように言う。既に八割方の彼女が曲の演奏に鞍替えした。映像の大半は世に伝える想像が飛び交う。めらめらと体を音の色が這う。
 後の始末はカワニにアイラは任せた。
 待たせたギターにお詫びを告げる、内部でこっそりとだ。腹を立ててる?へそを曲げた?なんともない?
 いつから自問を忘れてしまう、御座なりな擬人化の手を借り、やっと、私を呼び出す。
 ストラップがずっしり肩に食い込んだ、ありがたみを見出す、これが私の中のわたし。
 うまく歌うことはさておき、
 正しく音を取ることは脇にどけて、
 誰かの真似かどうかは白い私を表に出しつつ、
 干からびて、打ちひしがれたのだったら、そのままを口ずさみ、
 誰が言っただろうか、私かもしれないし、わたしかもね、
 本当は録音も嫌いである、届けるための苦肉の策、
 苛立ちがにじみ出る、
 けれど、
 跳ねるみたいに後ろ足で地面を蹴る、
 進みたいのだろうか、それとも、楽しみを止めた終幕に向かうのか、
 始まりと終わりを結ぶ、
 アラビア数字のカウントを見てて、もうじき、と最初のお尻に顔をうずめた。

 

 電話は切れていて、カワニが音の切れ目に事情を言ってのけた。
 振り返った。
 テーブルは、テーブルだった。私の価値はすっかりあっさりさっぱりあっけなく変わってしまった。
 曲に永遠は込められたのだろうか。詳細は披露までお預けに。
 アイラは仕事を切り上げた。ギターを担いでクッキーの一袋をいただく、カワニはたぶん持ち帰って食べるつもりだったのだ、声に出た音を咎めはしない。
 人々が駅前の大画面を見上げている、彼女の背後を頭の上のもっともっと上を、真剣を装うかのように。
 歩きやすい、アイラは足が止まる人ごみを改札を急いだ。

論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 5~無料で読める投稿小説~

カワニの動きが見事に止まる。アイラの視界は物体が止まる。
「日常的に顔を合わせる者同士は互いの変化によく気がつくようで、実に多用な変化を見逃す。女性の容姿を男性は気に留めない、ありきたりな男女間の日常ですね。被害者はこれを応用したのだと、私は考えます。経年劣化は平等な時の流れに即す、髪を切ろうが肌の調子を整えようが、細胞の死滅はついて回る。個人差はあれど互いに人は歳を取るのです。緩やかな老化には過剰な反応を示さない、示せないことが言えるでしょう。共に暮らしている、という仮定です。一方、離れて暮らす知人の曖昧な薄れる顔を携えた再会は変容を不一致、と認識。時間に伴う"慣れ"の助けを借りるその時までやはり時間、経年劣化の支配に遭う。逃げる術は考える分、時間の無駄で思いつきは愚策に限られる。抗う人物は多勢、だが現実的に見ても冷凍された躯体が潤沢な資金と研究の場としての利用をひた隠すそれらに取り組む研究者たちの保護下において願望が成就するか、と問えば、やはりそれも時間に生きる私たちの価値基準とは相容れない。すなわち、私たちは時間という抗いようのない生まれつきの性質をその身に宿し、老化を目指す。親類を見て、兄弟を眺めて、他人を年上を見上げて、あなたの次の瞬間をそこへ見出す。過去を見、子供に自らを思い浮かべることは稀な現象だ、土地や状況、似通った外形がもたらす連想が主な要因。酸化がもたらすこうたい(後退・交替)が顕著な人物を先に目視、続けて若かりし頃の当人を想像に挙げると私たちは両者を他人と思いたがる」半身、アイラはカップをそっと持ち上げた。「被害者の顔写真と待機していたらしい不審人物とは不一致に、JFA航空の地上係や客室乗務員たちの内部で処理をされた。と同時に不審人物のレッテルもつけられることを逃れた。結びつかない情報を繋ぎとめておくほど、彼らは人に会いすぎていて、日常的に人の顔を記憶し取り除く訓練を課すのです」
 アイラはコーヒーの味を確かめる、唇の縁、あふれた液を舌でなめ取る。テーブルの顔らしき形はどこか、なぜか、なんだか、理解に及ぶ様子を醸し出していた、彼女の主観である。

論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 4~無料で読める投稿小説~

「フライト当日、六十番ゲートに着いた最終便の到着時刻は?」アイラは尋ねた。
「二十時半」
「私たちの搭乗は二十ニ時半。約ニ時間、ゲート内に居座り、被害者はまんまと搭乗を成功させた。それゆえ、役目を終えたゲート内は翌日の到着便まで人の出入りが止まる」
「搭乗ゲートに潜んでいたと?非常識にもほどがある。もっと論的な解釈かと、期待はずれだ」
「可能・不可能、現実的・非現実的。これらは、あなた方の仕事。私は想像の範囲内で破綻をきたすことのない見解を述べているに過ぎない」アイラは続ける。「最終便の着陸後、おそらくは最後に機体を降りた。乗務員たちも同じゲートを通過するでしょうし、蛇腹に伸びるゲートは折り畳まれた。次にゲートが伸び、機体の搭乗口と連結する正確な時間を被害者は当然調べていた。その間の居場所も確保をしていた」
「だから、どこも身を隠す場所はない」
「ええ、隠れてはいなかった」
「ロビーから丸見えの搭乗ゲートの入り口にずっといたってことですか?」、とカワニ。
「その場所にいて許される。理由は何でしょうか。次の便には私たちが乗り込む。乗務員たちを納得させる、その場から引き剥がされず、居座り続けられて、しかも私たちにその所在を明かさぬよう釘を刺したのです、音楽業界に関わる者として」
「僕らの関係者だって言い張った!アイラさんは物々しい警備を嫌います、ほとんど僕が周囲のファンたちから身を挺して守る。そうかぁ、思い出した。航空会社とのやり取りで警備体勢の話題は出ていたんです。アイラさんは断るだろうし、僕の判断で配備は見送った。有名人ともなれば、ゲートは近づくにはもってこいの狭い空間ですもん、逃げ道もないですし。ですけど、やっぱり刑事さんの言い分が正しいですよ。空港関係者から不審者の目撃談が寄せられていそうに思いますよ、素人考えですいませんけど」
 それに種田が答えた。「搭乗前のゲートは捜査対象から省きました」
「だったらアイラさんの推理が合ってる……」
「まだ不完全」種田は間髪要れずに言う。「不審者の目撃についてJFA航空の地上係への執拗な取調べは行わなかった。ただし、被害者の顔写真は見せました。つまり、……」今度はアイラが遮る。
「つまり、JFA航空の地上係が私が述べた状況においては、被害者の顔を必然的に記憶していなくてはならない。しかし、実際は被害者がJFA航空の地上係に認知されてなかった、といえる。ようするにゲート付近で警備の真似事をする被害者と荷物棚から見つかった被害者との不一致が証明されてしまった。取調べは無駄に終わったはず、手間が省けて良かった」種田の息遣いにアイラは言葉をかぶせる。「ありえない、という認識は備わる常識とその場の状況に大きく影響される。当人の感知を問わずして外部から加わる操作を無抵抗に受け入れる、また無頓着に課せられた仕事、こなすべき目的や生活を維持しようと、平均に戻ろうと力を働かせる。私たちの搭乗がそもそも異常な出来事であり、それに輪をかけた被害者の特殊な警備だった。パイロットや客室乗務員たちの通過に際し、『アイラ・クズミが乗り込む機体は次の搭乗機ですか』、私の存在をほのめかす軽口をさらり言ってのけてしまうと異空間に晒される。私に興味があろうとなかろうと、有名な人物が乗り込むのだから、ゲートに常駐するJFA航空の地上係たちの浮き足立った仕草が警備に立つ被害者の存在を怪しさから引き剥がした。完璧ではなかった、後日警察に報告をしたかもしれない。そうです、顔は一致しなかった。あなた方は捜査を委譲された、聴取を受ける乗客だったのですから、おいそれと捜査権は移されずにいたとの思われる。すなわち、あなた方の前に捜査に当たった方々が無用であると、JAF航空の地上係りの目撃情報を見間違えもしくは取るに足らない情報に分別をつけてしまい、そこで情報がせき止められた」
「話がちぐはぐです」カワニが両手を広げた、左手が若干早く、遅れて右手が広がる。「死体と手を貸したか息の根を止めた余分なもう一人が機体に乗っていなくちゃなりませんよ。ゲート内での警備はぎりぎりありうるかもしれません、いやあったとしましょう。ただ、席の増減が確認できなかったことを踏まえるとです、ゲート内にいた警備はこっそりロビーに出てくれないと不都合ですもん、だってそれなら被害者の顔写真と警備人の顔は一致してるはずなんですから。ゲート口の出入りはアイラさんの警備よりももっと強くJFA航空の地上係の印象に残るでしょうし、さすがにそれは刑事さんたちへ情報が行き渡る。もっと言いましょうか、ゲートを出てしまうと空港内の監視カメラがつき纏う。警察は監視カメラのチェックを怠るはずもない。ですからアイラさんの説明は不完全に、思えてしまうんですよ」
「二人は多い」アイラは片目でカワニを射抜く。「一人だった。なぜなら、搭乗者は被害者なのですから」

論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 4~無料で読める投稿小説~

「返答が答えそのものです。保安員に予期せぬ事態が起きた場合に備えた代役が鈴木さん、あなた方は招かれざる客であった。犯人の思惑は保安員一人か鈴木さんの登場を想定していたでしょう、複数人刑事が揃ってはその場を掌握しかねない。あくまでハイグレードエコノミーフロアの関係者が現れた死体の事実を隠蔽、という状況設定が計画の土台を形作るおかしなこの事件の要です。もっとも、あなた方は私の認知にも自らの職業を名乗り出ることはしなかった」
「そうですよ。死体の存在が話題に上った、なぜ種田さんたちは黙っていられたんです?」、とカワニが純粋に投げかける。
「彼女たちは休暇ではなかった。所属部署の人間が同時に四名も休暇を取る、それも一週間という長期。あなた方の部署の所属人数は知りませんが、行動を共にする者たちが一斉に休養に入っていられる、罰則を受けたのですよ」
「謹慎処分中でした、自宅待機を命じられてました。それがなにか?」
「待機は職務能力の使用禁止を意味する。事実上、派手な行動を取らなければ、更なる指導を受けることもなし、刑事として振舞う場面の回避に海外は適当な滞在先、よって彼らはツアーの参加に同意をした」
「かなり強引な解釈に思います」弱まった音声。
「いえ、おおよそ的を射た指摘でしょう」
「よくもまあ、すんなりと搭乗を決めましたね、刑事さんたち」
「格安料金で渡米、利害が一致した。蔑むならばどうぞ、あなたに嫌われても私は不動ですし、好きではありません」
「そこまではっきり言わなくても、いいのにぃ」
 曲がうごめく、外へ出たがっている。
 外装を着せてやらないと、手遅れになっては、二度と形に収まってはくれない。
 アイラは口調を早めた。
「警察の権利を主張することをためらうあなた方はそうして監視役に収まった。一応、刑事の倫理観に乗っ取り、犯人はあなた方以外のお客に定めました」
「ご親切に」
「寒気がする、今のやり取り」
「でしたら手短に十和田の犯行を説明していただけますか?」尖った言い方だ。
「私もそのつもりです」アイラはテーブルへ体を向けた。天板が顔の輪郭、端末が口に見えた。カワニの手土産が左目、右目が彼のカップ。「乗客の増減は認めない、客室乗務員及びパイロットの関与も否定、死体出現フロアの私たちも潔白、フロア内の出入りは基本客室乗務員たちのみ。これらの前提が保安員の十和田が犯人たら占める証拠を彼自身が助言を与えてしまっている。第一の疑問を解決します。死体はどのようにどこから沸いて出たのか。自らの意思で被害者が荷物棚に収まる、これが最良。殺害後の死体は持ち上げる手間が生じる、性別によっては他人の手を借りる必然性も追加される。リスクは極力軽減しておきたい、というのが人の心情でしょう。例外として荷物棚に上る際手を貸した人物の存在が浮かび上がるが、推測は一人に限定していますので。さて、死体は自らの意思で荷物棚へ。これではまだ死体とはいえません、生きていますから。内部損傷や持病の悪化、薬の服用、外部損傷を除く理由によって荷物棚の人物に死が訪れた。長時間のフライトに生理現象の対策を講じていなかったことを鑑みると、私たちの前にすぐに現れるつもりだった。憶測です。生きたまま荷物棚にアメリカ到着まで過ごす理由はまったく見当たらない。しかも、ハイグレードエコノミーのフロアだけが荷物が少ない事実を被害者は知りえていた。前後のフロアでは搭乗してまもなく、飛行機が滑走路に移る前に悲鳴と共に生身の人間の異常な生態は見つけられる。よって、荷物棚に潜む行為は私に対する何らかの働きかけを意図したものだ、ということが導ける」アイラは二人の反応を待った。続きを聞く姿勢、無言が返される。「さあ第二の疑問は搭乗にいたる経路。空港関係者、とカテゴリーに括りましょう、彼ら空港関係者の手助けなしに経路を開拓した、と私は考えます。被害者自身か、はたまた十和田さんとの共同作業か、順を追って紐解きましょう。空港関係者のコネクションが利用できないとなれば、搭乗前に機内にもぐりこむことは不可能です。彼が音楽関係者であることは後日、あなた方警察の調査が裏づけを取った。私たちが踏み入れる機内への経路は通常の搭乗口、これを通った。私たちはあなた方を含む搭乗客がフロアを縦断してしまわないよう先に搭乗をした。空港の搭乗ゲートで乗客と顔を合わせない配慮でもあった。ところが、ビジネスクラスのお客は私たちよりも先に機内へ乗り込んでいた、搭乗時刻をフロア別に分けたアナウンスと誘導だったのです。私は大変な思い違いをしてました、搭乗前のゲート付近で目が合ったお客さんはビジネスクラスの乗客だったのです。つまり、通常エコノミークラスを埋め、中央のハイグレードエコノミー、機首側のビジネスクラスという流れが私たちのハイグレードエコノミーが最初、次にエコノミークラス、そして最後がビジネスクラスであった。このような三段階に分けた搭乗が行われた。アナウンスは特別三度、私たちの搭乗は架空の便名を告げていましたので。さて、無言の反論に答えましょう、機体に続く経路は搭乗ゲートを通じた一本であると疑いもせず私は受け入れていた。そう、機体を繋ぐ経路は二本存在していた。刑事さん、そのような二本同時に乗客を迎え入れる機体は実際にあるのですか?」
「……国際線の一部に使用が認められる。到着便のみ、主翼に近い側に二本目のゲートを繋ぎます」