コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

静謐なダークホース 2-1

東京では雪らしい。交通網は遅延の恐れ、警戒と転倒の危険を呼びかける。 地下道を出て見上げた、交差点の大型ビジョンである。 全国ネットのニュースともいえない情報番組。今日の運勢を省けば、詳細な予報が伝えられるのでは、手を振って明日の再会を呼び…

静謐なダークホース 1-6

「クリスマスみたいに単なる一年のうちの一日だって言いませんよね、今回は?」 「どうして?」 「想いを伝える絶好の機会を世間公認で与えられたら、そりゃあ、ねえ、気分も高まりますよ」背伸び、店主は吊戸棚に乾燥のパスタを置き並べる。そしてステンレ…

静謐なダークホース 1-5

「なるほど。それで連絡先が書かれていなかった手紙に大豆拒否の意志が伝わらない、違うか、伝えられなかったので、倉庫の半分が大豆で埋まってしまったんですね」小川がしゃべると、ロッカーの扉が閉まった。 「テレビの取材もあれがきっかけだろうさ」館山…

静謐なダークホース 1-4

「ん?」首を突き出す館山は後ろの縛った髪が体の傾きにより、前面にするりと落ちる。「ドアに、あれ。なんだろう?」ホールと店主の間を切り裂き、館山がモップ片手に走りよってドアを開閉。モップと片腕、半身を店内、水分をふき取るマット上に留めて、ド…

静謐なダークホース 1-3

「国見さんは、どう?」 「ピザは列に並んだお客が黒板を見て、必ず声に出していたので……ああ、もしかして」国見は話のなかで思い出したらしい、首がすぼみ、それから勢いよく定位置に戻る。 「なに?」 「声に出していたということは、少なくとも二人以上で…

静謐なダークホース 1-2

また、逸れたので本筋に戻る。正午からは、一時、白米の独壇場。背広のサラリーマンが多く、他のメニューにはないボリュームが好まれたらしい。そして、最後の一時間は男女年代ともにバラバラ、飛び交う注文はまちまち。 お客の視線は時に駅前通り、開店パー…

静謐なダークホース 1-1

「そこからがクライマックス。途中で止めるとは何事ですか」小川安佐が怒りを表す。 「先輩、私はあんたより年もキャリアも上なの」 「店に入った時期は一緒です、だから同期ですよ。もう教えてくれてもいいじゃないですか」 「月日は流れた」 「詩人ですね…

抑え方と取られ方 5-5

「国見さん、大卒ですか?」 「一応ね、地方大学だけど。仕事に培われない学問をそれなりの施設で肩書きを手にしただけ」 「そんなもんですかね。おっと、安佐から。なんだろう。もしもし。うん、もうすぐ。えっ?そうなんだ。ふうん。知らない、だって取材…

抑え方と取られ方 5-4

十分を過ぎて、鶏を焼く。ご飯が炊き上がった。慌ただしく厨房に音が交錯する。まるで都市部の交差点。 弱火で火加減を見ながら、ひとまず鶏をしばらく放置、とうもろこし粉で包む中の具材に取り掛かる。 トマトを湯剥き。昨日整形したハンバーグ用のひき肉…

抑え方と取られ方 5-3

前日に冷蔵庫へ移した解凍済みの鶏肉の量を確かめる。ネックは鶏の数量だ。鶏は白米とあわせる。白米は有美野アリサが大量の持ち込み、使用料に制限はほぼないといっていいだろう。鶏もあるにはあるが、冷凍庫でカチコチ。急激な解凍は肉を固くするため、限…

抑え方と取られ方 5-2

思案。立ち止まり、腰に手を当てる。 作業を抽象化する。何をしているのだろうか、根本を探す。 火を入れる。豆を茹で上げる行為は、水分を含んだ豆を加熱すること。 ……オーブンと釜だ。 水分を含ませつつ、通常の半分の湯で時間に大豆を上げたら、きっちり…

抑え方と取られ方 4-9 5-1

「おはようございますぅ」天候は回復、しかし気温は低下。放射冷却。国見蘭は、通路に立つ小麦論者の彼女へ会釈、カウンターに付近の有美野に苦笑いと会釈、数歩進んでホールの灰賀へはきっちりと頭を下げた。彼を彼女は覚えているようだ。店主には、状況を…

抑え方と取られ方 4-8

「他のお二人はいかかですか?」 「問題ない」マスクをしたままで灰賀が言う。「私には失うものはありません。メニューには載っていませんでしたから、ランチで好評を博したメニューはディナーでも提供される、そう窺いました。今回の場合はどうでしょうかね…

抑え方と取られ方 4-7

「出品にはリスクが伴う。お米はその価格、小麦はアレルギー、大豆は価格とアレルギー、とうもろこしは知名度の低さ。お米は高騰によって使用を断念、小麦はお米から小麦への主食の乗り換えによる摂取量の増大が要因のアレルギー症状を誘発、同じく大豆は前…

抑え方と取られ方 4-6

「は?店長、今なんて?」 「独り言。きかなかったことに」店長は、サロンを締め直す。「着替えて、準備を始めて」 「は、はあ」腑に落ちない店長の態度に驚いてから、伝言を思い出す。「ああ、あとですね。安佐から伝言で病院でウィルスの減少が検査で確認…

抑え方と取られ方 4-5

店主に言いかける彼女よりコンマ数秒早く男がしゃべる。「多糖類を単糖類へ変える酵素がこのとうもろこしから発見された。複雑な分子構造の多糖類を吸収の容易い単糖類に変化、体内への吸収に寄与。さらに、副次的な恩恵にもあずかった。たんぱく質の吸収を…

抑え方と取られ方 4-4

おいしさが必ずしも正しさに直結するのならば、高級店で扱う最高級品・ブランド名が冠された食品ばかりを単に焼いたり蒸したり、その他基本的な調理工程だけで、味は堪能できる。創作料理や多国籍料理などは店を構える段階で負けを認めていると解釈。味の創…

抑え方と取られ方 4-3

「ここ最近の天気は春を思い出させますなあ」入り口にくぐもった男の声。マスクをはめた豊かな髪の男が両腕に茶色く粗雑な紙袋を抱える。とうもろこしを勧めた業者である。まったく偶然というものがこの世にはあるのだ、と店主は、年季の入った黒ずんだ天井…

抑え方と取られ方 4-2

「先客は私。順番すら守れない、やっぱりお嬢様っていうのは、決まって傲慢で、自己中心的でなにかにつけて自分を優先使用する。あーあ、お金持ちの家に生まれても、ああ、はなりたくないね。だって、お金持ちでも立派な人格の仕事相手と交流があるもの私は…

抑え方と取られ方 4-1

「受け取りを拒否します」 「ええっと、そんな、いいえ、その、拒否ですか?」 「まっとうな意見ね」戸口の小麦論者の女性が店主の発言を擁護、後押し、あるいは同意する。しかし、彼女の意志と僕とは、判断が異なっている。 ヤマイヌ急便の配達係は、ベルト…

抑え方と取られ方 3-6

「何を言っても、引き下がらないつもりね。わかった、わかった。ふうん、最終手段は使いたくなかったけど。明日から、店は小麦しか使えないようになってもいいよね?」不敵な笑み、顎を引いて、彼女は白眼を強調する。ドアのガラスから漏れる光が彼女の影を…

抑え方と取られ方 3-5

「どういうこと?なんとか言いなさいよ!」怒声が彼女の口から発せられる。外見とは裏腹。では、怒声に似合った外見とは、店主は考えるも最適な顔は浮かばない。 「あなたはその紙を見て、何か文字を読んであるいはイラストを見て、問いかける。私が拝見して…

抑え方と取られ方 3-4

「小麦のみのメニュー変更が果たして有効な手段でしょうか。私にはそうは思えない」店主は、首を振って彼女の意見をはねつけた。 「今後は小麦が穀物の王様になる。米は、特定の層にだけそのために作られるわ。農家の囲い込みはもうじき終わるんじゃない。永…

抑え方と取られ方 3-3

「そうやって料理も教えるんだ?」馬鹿にしたような言い方。おちょくっている、あるいは、神経をさかなでる効果を狙ったのだろう。しかし、店主は動じないどころか、仕掛けから相手の傾向を探る。 「五分に設定しました、これ以後は回答を拒否します」 「も…

抑え方と取られ方 3-2

マンションを出る直前にかすれた声の小川から連絡が入っていた。インフルエンザらしく熱が出て動けない、休ませてくれ、そういった内容。即座に一週間の休暇を彼女の言い渡す。半ば諦めるように、彼女は言いかけた言葉を呑む、息遣いがスピーカーを伝わって…

抑え方と取られ方 3-1

データ収集から一週間の月日が過ぎた。精査するデータには誤差を与えた。平均気温の割り出しとは異なる。あちらは誤差を含まず明確な観測指数のみを数えている。地下道のビジョンに映るニュースが過ぎり、それに対して誤解を招かないよう先手を打ったのだ。 …

抑え方と取られ方 2-9

「考えすぎ」 店主はロッカーに場所を移す。ホールから呼び声。内部には響かない、単なる振動に声の解釈を切り替えた。 動揺している?私が? 寂しいという言葉に反応が見られた。隠していたのだろうか、表に出ないように。 考えても無駄。試すしかない。ま…

抑え方と取られ方 2-8

「それでは、私が帰ります」 「待ちなさいって」段差を降りた店主が呼び止められる。これまでよりも彼女の内部を引き出す声の響きだった。 「鍵はレジの下、半透明の箱に入っています。めずらしい形の大振りな鍵です」 「話を聞きなさいって、言っているのが…

抑え方と取られ方 2-7

「面白い方」女性は笑う。「申し送れました、私、有美野アリサと申します。あは有するのあ、美は美しいのび、野は、野原の野です。アリサはカタカナ。アリスを日本風にアレンジしたようです、母親の趣味です」名前の由来を聞いてもないに、有美野アリサはこ…

抑え方と取られ方 2-6

とうもろこしが注目を浴びる日は遠くない。 需要の高まりが生産性を向上させた。 店主は手にする注文用紙を指ではじいた。 要望が集まり、資金が舞い込む。 設備が整い、生産性が改善される。 多くの人に行き渡り、安定的な消費が実現。 一定量が食卓に並ぶ…