コンテナガレージ

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手紙とは想いを伝えるディバイスである5-3

 四F

 間の悪い。昨日の作業とは一転、限られた時間内で二つの案件仕上げなければならないのか。武本タケルは、個人ブースで二つ作業に取り組む方針を考えあぐねていた。席についてから、もうかれこれ十分はロスしている。短い時間……となると、休憩は取りやめに、しかし休憩は作業効率を考えれば全体的にはマイナス。後半の能率低下に繋がるのは、身にしみて感じている、スケジュールから取り外すわけにはいかない。とすれば、外の散歩を切り捨てるしか方法は残されていないのか。また、刑事が事情をタイミング悪く聞きに訪れる場面も想像しやすい、そのときにために休憩を取っておくという考えもできなくもないか。

 武本はクライアントの優先順位に取り掛かる。両者共に、既存のイメージが固く、さらに印象の変化は少ないように見受ける。イメージを壊すアイディアは反発を生み出しかねない、強力な反発だ。短時間ではそのイメージに匹敵するアイディアは浮かびそうにもない。追い詰められて対処できる案件ではないのだ。損害が怖いのか?違う。まったく逆だ。怖くないのだ。だから、怖いのだ。言っている意味がわからなくても私は理解できている。一周回って、といった表現が適切だろう。

 時間が足りない。補うには逆転の発想。二つに共通点を見出して、両者にパートナーシップを結ばせよう。依頼はどちらも文房具。一つのデザインを二つで分け、しかも機能も片方特有の機能をもう片方に付け加えるのだ。想定、互いの独自性を守りつつ、話題にも事欠かない。しかし、本来の機能は基本的に備えているために、一過性には終わらずに、また、店頭では並んで商品を売り出すことも可能だろう。

 考えをまとめて、デザインを一気に仕上げる。いつもとは異なる工程。武本はこれまでの作業の仕方をもう一度見直すをべきなのかも、彼は別角度の視点を取り入れると決意する。

 デザインの想像は常に、想像の半歩先を行く。だから、認められる。行過ぎてはいけない。もちろん、先鋭的な姿は必要だが、今回のクライアントの提案に関して言えば、時代をリードするような奇抜は不必要だろう。いらないのではなくて、前面に押しすべきでなないのだ。

 午後三時を回って席を離れる、デザインはとっくに完成していた。