コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

自作小説-エロンゲーション

再現と熟成4-7

その年の夏に私は大学を辞めた。曲を作り、送り出して歌う。その繰り返しに学業は不要と判断を下した。フェス?そんなものには興味が沸かない。だって見てみてよ、盛り上がっている人は、その場しのぎの興奮に踊らされているだけなんだから。 定期公演を開催…

再現と熟成4-6

講義が迫っていたので公園を出て、交差点の信号で待っていると、サインを求められた。いつまで飾られて崇められるのかを書いている時に考えた。少女の顔は一様に嬉々に満ちて飛び跳ねそうなぐらい感情がほとばしっていた。サインはいつも答案用紙や申込用紙…

再現と熟成4-5

電車がホームに侵入、ドアが開いて買い物客が吐き出された下りの車内は空いていた。席につき窓からホーム眺める。子供が親に訴えている様子。ベルが鳴ってドアが閉まる。ホームを飛び出た電車は晒されて内側がひりりと痛むようにレールと車輪が摩擦、むき出…

再現と熟成4-4

汗を掻いた。それでも、近くのベンチに座っていると汗が体温を奪って涼しさが増した。 第一の予測は外れてはいなかった。 子供が親に手を引かれて歩きたい速度を上って忙しく足を回転。 立証には数回の実証が必要不可欠となる。 それでも笑顔で置いていかれ…

再現と熟成4-3

二度も同じことを言うのは面倒であるが追いかけてきた労力に免じてこたえる。「ですから、契約はしません。聞き間違えでも頭がおかしくなったのでもありません。だったらどうしてコンテストに出場したのかとお聞きになると思うので、前もって言っておきます…

再現と熟成4-2

私の名である。 時が止まった。 私の両隣が拍手をむける。選ばれなかったのに相手を讃えている。 前に出てマイクを手渡された。司会者とのやり取り、それから審査員からの称賛、盾と賞状の授与、最後に一言感想を求められた。 正直に話した。驚きも感動もな…

再現と熟成4-1

出場者が壇上に集められると咳払いの司会者が授賞式の発表を宣言した。大仰な物言いで肩書きに乗っかる人物達の中身の無い、心の無い挨拶が三人も続き、発声者が司会に戻って審査結果の報告を述べた。受賞は、グランプリ、準グランプリ、特別賞、ライドン賞…

再現と熟成3-5

「独学です」手取り足取りだと指導者のコピーにしかならない。一定のレベルまでには最短のルートでも、独り立ちには鉄壁の防御でこれまでの道のりが牙をむく。 「私は今日ここへ来て、良かったとはじめて思えました。いやあ、あなたは素晴らしい。オリジナル…

再現と熟成3-4

全身の力を抜く。ゆらりと蛇のようにくねくねと捻る。肩の力は一旦力を込めて脱力させれば、本来の性能が回復。全ては中心から外部へ。前屈みの頭は根本から引き起こして茎から意識を削ぐ。ぴょんと跳ねて踵の存在を明確に。 一人が呼ばれた。次が私。 息を…

再現と熟成3-3

「予定通り、十時の開始となります。ステージ袖に次の出場者が待つ形で進行しますので、最初は一番と二番の方がステージに、順に三番、四番の方を呼びに来ます。ここまででなにかご質問は?」緊張からか誰も手も声も上げない。元気の良かった先ほどの質問者…

再現と熟成3-2

無事に駅を降り駅前通りを南下する。地下通路は信号がないけれど、圧迫感の天井は窮屈でどうにも居心地が悪い。それに雨も降っていないし、人も少ないときたら地上を歩くに限る。日傘をさしたご婦人とすれ違う。三ブロックを進み、大通りを右折する。目印は…

再現と熟成3-1

九月の第一週の日曜日。天気は曇りがかった晴れ。曇り時々晴れって感情みたいに気まぐれ。アランが散歩と間違えてはしゃいていたが、目線を合わせない私を察する。私が倉庫から出てくると彼はしんみりと地面にへたり込んでいた。久しぶりに観たニュースを思…

再現と熟成2-3

リモコンで消灯。 そよそよと網戸を通過する風の一団が海から到着。夜は陸から海上に向かって、昼は海上から陸に向かって風は吹くのではないのかと考えつつ、すぐに離脱。常に一定方向に吹くとは限らない。 ギターを体に一部に、ステージに上る私。 ホールは…

再現と熟成2-2

食後、自室に戻ってベッドに横たわる。 携帯電話の感触がポケットに。財布も。男みたいだと言われる。言われ過ぎでもしかして私は本来は男なのではと勘ぐったりもしたが、そういった同性に興味を抱くことはない。そもそも持ち物が少ないのだ。入れるバッグを…

再現と熟成2-1

帰宅直後から倉庫に篭って新装のギターをかき鳴らす。音は許容範囲の歪みを羽織って揺らぐ。ありありとステージで歌う私を思い浮かべての演奏。 座っていたので立つことにした。マイクはさすがに用意できない。跳ね返ってくる音にどう対応したらよいのか。シ…

再現と熟成1-6

「いいえ、ただ馴染んでいないと、思ったのです。お代はいくらですか?」二人の店員を順に見やって会計を催促した。男がギターをケースに、女がレジを打って金額の請求、私は額面きっかりのお金を手渡し、水色のトレーは指を加えて待っていた。 立ち去ろうと…

再現と熟成1-5

「はい」何の迷いもなく短髪の店員は回答。そこで二人の間に空白の数秒が訪れて時をさらっていく。 「何が違う、どこがいけない。なぜだ」食いかかる男の手が今にも短髪の店員にかかろうかという時にレジの奥から返答が得られた。 「ビジョンが見えないのよ…

再現と熟成1-4

「お前の一存で俺を省く権利はない」「そうでしょうか?」片目で店員は問い返す。「なに?」釣り上がる男の両目が血走る。「本当に痛い目をみるか」「あまり挑発しては逆効果ですよ」レジの奥からか細い声で女性店員がアドバイスを送る。しかし、短髪の店員…

再現と熟成1-3

「……お客さん、怒らない、それに私に殴りかからないと約束できますか?それならば、理由を話します」 「分かった。何を怯えてる?私が人を傷つけるような人間に見えるのかい?」不敵な笑みで男がオーバーなリアクション。感情を押し殺している証拠。 「では…

再現と熟成1-2

こちらも商業施設で女性に特化したテナントが多いだろうか。さらに地下に潜って落ち着いた雰囲気の喫茶店に入店した。垂直に近いシートも外の騒々しさと比べたらなんでもない。折りたたんだ用紙に必要事項を書き込む。コーヒーを店員に注文。ボールペンは楽…

再現と熟成1-1

八月の終盤、蝉の活動は控えめに、そろそろ虫の鳴き声も衣替えの時期。雨はしとしと朝方から降り始めたようで雨粒が屋根を打つサウンドで目が覚めた。めずらしく朝食をしっかりと摂取。アランの散歩にレインコートで挑んで帰宅後にギターを弾き始めたら、弦…

独自追求2-3

汗だくの彼女たちへの声援が鳴り止まなくて、いつの間にか明るいのにペンライトが頭上で振られていた。 集まりすぎて会場に入れないお客が危険を予見させる数を越えたので、公演はこの一曲だけで中止と彼女たちアイドルの口から説明された。 当然のように客…

独自追求2-2

歓声が沸き上がった。私以外の観客が立ち上がったらしい。ゆっくりと時間を掛けて私も立ち上がることにした。ステージ脇で水色のハッピが口元を寄せて相談、もうすぐ登場するのだろうと推測。左側のステージ下、係員がアイドルの名前を告げた。最近注目され…

独自追求2-1

整理券の配布からわずか数分で、即席の観客席が急ピッチで作られた。券を所持する観客は我先にと、開かれたゲートになだれ込み最前列の確保に余念がない。私はまだ誰が登場するのかも知らないので観客との温度差は歴然として、埋まらない最後方の席に落ち着…

独自追求1-6

拡声器が轟いた。 「これから整理券を配布します。会場への入場には安全を考慮して制限させていただきますので予めご容赦下さい。また、本券は一枚一名の入場です」発券がアナウンスされると、どこに隠れていたのか、人が溢れかえってくるではないか。 ぼん…

独自追求1-5

降り立ったホームは空いていて、地下鉄を待っている人も数名、既に改札で入場を制限しているのかもしれない。目的地までは二駅だった。歩けない距離でもない。これからは乗ろうとする人がホームに増えていくだろう。好まない可能性が想起されると足は勝手に…

独自追求1-4

作成にはたっぷりと時間が必要となる。時間を視野に入れないのは堕落を誘発し、時間に追われると紙切れみたいな薄っぺらい曲が世に出回る。 見えないアプローチ。私はどんなふうに弾けるのだろうか? 体感では二駅目に到着してないのに、車両が速度を落とし…

独自追求1-3

「完全に選択ミスね。期待には添えそうもない」 「誰がほかに空いてる奴いなかったかな」言葉だけを聞いていると男性を思い浮かべるが、女同士の会話では頻繁に起こりうることなのだ。だから、男性の前で極端に声色や言葉遣いの違いに敏感なのである。男同士…

独自追求1-2

「どこに行って誰と何をするの?」私はテーブルの側面に仁王立ち、即刻本題に入る。 「まあ、まあ座んなさいな。ほれ、お茶でも一杯いがかね」彼女の真っ黒な瞳は輪郭を強調したコンタクト、指先の爪はマーブルチョコみたいなカラフルな色合い。手首のバング…

独自追求1-1

夏休みの中盤、二曲が完成した。最初の一曲は歌詞を先に書いてその後にメロディをつけた。二曲目はその反対でメロディを先に歌詞を後に創作した。どちらがやりやすかったといえば、前者のほうである。しかし、歌詞にメロディを合わせようとするために数箇所…