コンテナガレージ

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自作小説-レタリーピリカーカムイ

エピローグ 1-3

踊る煙。お客が一人、店を出た。「お代は僕が持ちます。僕は二杯飲みました。では」忘れ物、紙の束、便箋かメモ帳、手帳にも見える。ぺらぺら、薄っぺらな厚み。 窓を眺める。車が二台地を這う。「運転手は誰だろう。先に出て行った人かな、僕を気遣ったのか…

エピローグ 1-2

「手付かずの石柱は、ありましたね?」「ええ、はい。どーんと二M近くのが一点。これから取り掛かるつもりだったんでしょう。大まかなあてというんでしょうか、線が書き込まれました。石材の価格は業者に引取りをお願いする料金とつりあうかどうか、それな…

エピローグ 1-1

八月下旬 「A市界隈の案件はもうよろしいんですか?あっと、その前に、車、ありがとうございました」「有意な行動を選択したまで、こう言っては何ですが鈴木さんのためというよりかは、あの人に会いたいから、かな」「聞こえますよ、この距離でも筒抜けです…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 4-4

※ 作業日誌 [日時]:八月 [時刻]:午前八時 [天候]:晴れ 止まっていながら躍動をありあり想像させる、あの人から学びました。せっせと槌を振る私には見向きもせず膝の接触を契機に慌てた、本望かもしれない、見入られた対象であったのだから。不完全…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 4-3

私がミルクティーを提供したのち煙草に火をつけたことは三人の男たちは席をはずしていたのだ、もちろんあずかり知らぬ。これは私と少女との二人だけの記憶。 許可を取ったから、これで満足いただけるものと思います。 美弥都は二週間ぶりに勤め先のドアをく…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 4-2

そうおそらく退出の記録はシステムに組み込まれてはいない。驚くことでもありませんよ、利用を終え部屋を出たあなたの行動はここで休むか自室に戻るか、建物を離れる。フロントには退出の記録が残る。それで管理は行き届くのですよ、リゾート、というホテル…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 4-1

ぴらひらと分厚い業務日誌を飛び出す紙を鈴木は目ざとく見つけた、到着までに通過する信号機は残す三機。一行目を読み進めた直後に鈴木は「聞いてしまって良いのか?」、と美弥都個人に送られた手紙に動揺を見せた、無意味なクラクションが短く鳴った。警察…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 3-3

槌をタオルで巻き意識を失わせた、不意打ちですからよける暇もなかった。そこへ兎洞さんが居合わせ有様を視界に捉えてしまう。もしかすると彼女も同様の仕打ちを受けていた、視覚欠損の秘密を握られていたのかもしれません、ゆすりですね、ぱっと女性二人に…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 3-2

「はい、そのほかの皆さんへは無言に耳を貸すと受け取ります。会社の行く末を担う、舵取りを任された取締役たちの半数を社長の親族で固めるこのホテルは同族企業である、一人目の被害者は社長の親族でした、あまりにも隠蔽工作が周到なので危険を承知で十和…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 3-1

忙しない上下動が玉に瑕、悪路では褒められた性能なのだろう、環境によるのか。適材適所、万能でごまかしが通じる論理。目には見えなくなったものの自宅に帰り鏡を見れば顔の汚れは日常生活のそれを上回っているに違いない、海沿いの港湾を遠ざかり車は走る…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 2-6

しかも、数日前の事件は二度目に警察が現場に居合わせた通報だったわけですから地元警察の出動は二年前に比していくらか迅速に行われた。鑑識の到着も死体を事前に知らせていました、死体の回収は、はい、一時間以内にそして診断結果は約二時間後に鈴木さん…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 2-5

さて、密室の説明に戻ります。ええ、ですから言い終わりを待つよう最初に確認を取ったはずです。どうぞ。それは鈴木さんの指摘、石を貼り付けたドアのことでしょうかね。ヒントというよりきっかけが相当です。中身が詰まる石材と削り落ちる石塊、槌を打つ耳…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 2-4

ついでに補足を追加しましょう、思い出してください。急遽休業中のホテルに部屋を用意させた不躾な宿泊客は、亡くなった小笠原俊彦さん、室田幸江さん、これに臨時雇用の名目で呼ばれた私とホテルお抱えの彫刻家安部さんの計四名でした。私は鈴木さんが襲わ…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 2-3

最終の利用客に鍵を貸した係員は顔を覚えられない家入さん、事件の前夜被害者が生きてるよう当人に成りすまし部屋のキーを受け取る宿泊者は同伴者と夕食に出てフロントを横切った、車には乗らず同伴者のみを通過させる。二人共に駐車場を離れる、記録に残さ…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 2-2

業務日誌は係員各自がその特異な事情を同僚に隠し業務の様態を取り繕うと同時に、滞りが生じることを悟られずに日誌への書き込み、全項目の確認という〝業務〟を与えた。動体の認知を不得意とする遠矢さんには立ち止まる対応とホテルのコンセプトに準じる少…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 2-1

信じ抜く決意を保ち解説の後半に差し掛かる、信用は目にも留まらぬ速さで諦めに浚われましたが、上司として、言い渡されるそのときまでは部下の無実を願いました。懸念は無用でありましょう、理路整然に日井田女史は誠実さをもって各同席者の理解を勝ち取っ…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 1-3

はい、支配人の同意を得られました。チェックインから客室への案内にとりましても彼らは誘導を真っ当、列の先頭を歩く。そして、客室に到着し、入出を促し後について入り口付近にて室内の利用を簡易に説明し部屋を出る。リゾートホテルは丁寧な接客を過剰と…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 1-2

業務日誌 八月七日 担当山城 ㊞ 前項の続き「『ひかりいろり』のドアを取り外す、そしてレールに戻した。係員の皆さんは『半開きのドア』、という表現をされた。先読みを毎度口に出さなくてもよいのですよ、そうです、レールを外れドアは立てかかる。薄い石…

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 1-1

林野が車窓を流れる、田んぼを横断、上下に視界はゆれる。高台を下り降りトンネルを目指した。喫煙の許可を願った、一本だけ。窓を引き開ける、せっせと窓を取っ手を回して風を呼び込む。一面びっしりに張り付く雲と髪を撫で回す強風たちは屋外の支配者に躍…

鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 12-3

もうお分かりのはずです、そう探偵さんは察しがいい、それとも点数稼ぎが目当てか、まあこの際どちらでも説明に目処がつくのなら、発言のみを重視します。仮定を前提に話します、警察が彼女の視覚欠損に着目していた否かは未確認ですので。すると兎洞さんは…

鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 12-2

家入さんの取った行動は現場に異常性を与える、証言の食い違いが生まれなかった要因は彼が遠矢さん及び兎洞さんの両名の〝異状〟を感知していたから。ドアはおそらくレールを外れドア枠の左側から室内が通じていた。立てかけた状態です。視覚の欠損は調べが…

鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 12-1

根深い事件の裏にあろうことか二人の部下が関わっていようとは指導力のなさを痛感いたします。楽に、解放してくださいませ、私は切に願いました。身を切る思いは斬られたことすら感知せず一度にまとめて。胃が軋む、さあもったいぶらずお話ください、凹んだ…

鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 11-2

お題「起きて最初にすること」 見えていなかったのです、死体の右半身を。聞いておられなかったようですね、右は見えています。右目右側の視神経と左目右側の視神経の働きが鈍り左側の視野に欠損が生じた。対象物との距離の違いが物体を三次元の立体に見せ、…

鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 11-1

お題「カメラ」 圧縮。見事私たちの眼前しかも等距離にぶら下がる日井田女史の解説は淀みなく、確実にこちらを見透かす手玉に取る厭らしさは皆無、話の腰を折りそうで折れなかった指摘の頻度とにじり寄る圧迫は下降ラインを描きます。とはいえ、核心には中々…

鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 10-2

「さらに二年前の殺害へ話は遡ります、遠回りよりもむしろ近道でしょうか、反論は後ほど受け付けます。――押しつぶされた半身と密室が未解決のまま、室内には遠矢さんの姿が兎洞さんに見られる。死体を作り出す道具、凶器の保持以前に遠矢さんの犯行は彼女特…

鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 10-1

「エキゾチックな外見を備える遠矢さんは旧土人の末裔でしょう。ホテル『ひかりやかた』に就職が内定した背景は彼女の血縁、家柄が選ばれた。選抜に伝承に精通する研究家は除外、旧土人の血を引き尚且つ生活に根ざした思想を宿す者、彼女はまさに探し求めた…

鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 9-2

「不可抗力による接触は速やかにその場を離脱しなければならない。ただし離れがたい相当の事情が認められる場合おいては接触に転じないという確約を結ばせ、限定的な居所の共有は容認される。日井田さんだた一人が悪者、というのは穿った見方ですよ。しかも…

鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 9-1

業務日誌 八月七日 担当<山城> ㊞ 「黙って聞いてて思うんだけれど、兄さんが海里を私に任せて仕事に戻った人任せにした子守の追求をここら辺でしてあげようかなって。その人を疑うのはナンセンス。部屋を断定ししかも一刻を争う剣幕だった、その人が犯人…

鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 8-3

豆を見極めるのと事件を紐解く速度は連なった規則性を感じさせた、なるほどフィギュアなるものをショーケースに飾る愛好家の心理が読み解けた。独自に物語を二次創作する手がかりにケース内の人形をときに並べ替え、また元に戻し、別れや追加による厚みを楽…

鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 8-2

「午後に到着する予定だから、私伝えたから。それととばっちりはごめん」指差し、室田は念を押した。「お取り込み中のところ大変恐縮な……」「ちょっと私が話してるんだから順番守ってよ」「はいっ、申し訳ございません。控えます」「なんでしょう?」美弥都…