コンテナガレージ

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手紙とは想いを伝えるディバイスである5-1

三F→一F

 三十分。時間を決め、仕事の方針を打ち出す。安藤アキルは遅れた時間の取り戻しをこれまでの方針を潔く捨て、新しいアプローチの仕方に焦点をおき、貴重で希少な時間内にありったけの力を費やした。あまりにも時間に対してルーズに取り扱っていたのだと、気づかされた。時間を細かく再設定する、まずは三十分に区切るとしよう。時間の感覚を体に刻み込ませるのだ。時間は敵でしかなかったはずが、こうして短いスパンで向き合うと、制限時間までに通過点がはっきり見えてくる。追い詰められたときに襲うめまぐるしい思考、そういった感覚に似ている。

 一時間。もうかれこれ一時間が過ぎていた。作業のアイディアは確実に前よりも思い浮かぶ。創造作業は無理やり思いつくのではないと、知れた。かなりの収穫である。時間に没頭するここの社員は人に無頓着で、言葉も粗雑で人間関係を省みない性質が多いはずだ。そう、必要がないのだから仕方ないではないか。感けている暇が見出せなく、意識の傾く先はデザイン。常にどこかで、考えが働き、席を立っても、惰性で車輪が回り続けている。これまで僕が取り組む時間の流れは緩慢すぎてもう元には戻りたくない。それでもまだ現実、これまで寄り添った世界は恋しくて、手を伸ばして帰りたくはなるけれど、一応の目印だけはつけて、とりあえず今日の業務をこなすことに専念しようではないか。

 警察が一人だけ、現れた。僕は思い返してみた。作業はひと段落、二時間の作業に一旦休憩を挟む。作業に終わりが見えた、コンセプトも決まり、残すはデザイナーの真骨頂であるデザイン画の製作。これも時間を計ってみるつもりだ。

 安藤はペットボトルの水を傾けて、背もたれに体重を預ける。社長が死んだということは、まだ伏せているんだろう。誰も皆、仕事にかかりっきりだ。無論、社長が死んだからといって、手持ちの作業の手を止めるのはほんの一瞬の機能停止に過ぎないと思う。今後について考えるのは今日を無事に乗り切って、たぶんそれから。効率的にはこの方が有利。とても経済的ではないか。だったら、思い切って発表してもと、考えるが、安藤は首を細かく振った。社内よりも社外に流れる情報を懸念しなくては、取引先から待ったがかかる可能性だって十分ありうるのだ。社長が死んだ会社からは取引を停止する、といった非常識な感性を持ったクライアントは多いはずだ。まったくデザインには影響しないのに、いいや、その先、もっと深部の響く、お客が受け取るデザインへの微かな違和感に社長の死亡が重なる事態を危惧しているのだ。まったくどいつもこいつも、って自分もそう思うんだろう。思ってしまう、といったほうが正しいか。

 安藤は席を立って、一階の食堂に足を向けた。自然と体が栄養を求めたんだ、思い立ち行動に素早く移行できるのはいつの自分だったろうか、子どもの頃にはもう既に自分は遠慮を決め込んだ人格であったように思うのだ。