コンテナガレージ

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自作小説-ガイドブックを探しています

エピローグ1-5

施設が完成、開業の暁には、人が押し寄せるだろうとアイラは予測を立てていた。数年は続く。だか、現状の把握は常に客観的な目を持ちつつ、事業を行うようにと、助言はしたつもり。どこまで忘れられずに息が続くのか、それも、もう彼女は興味の対処を外れて…

エピローグ1-4

不安定さは安定をもたらした。 これまでの水平にどうにか戻そう、躍起になる私。 それが不安定なのに。 どちらを選ぶべきなんだろうか。 日本語のガイダンス。 そして、呪文のような言葉、繰り返し繰り返し。 冬は秋が来たからで、春は冬を経験したから、夏…

エピローグ1-3

妙に落ち着いている、もしかすれば、少なからずどこかで衝動を認めているのではないのか、と思い始めた私。だが、もう一度言うが、気づいた時には手遅れ。出来事は終わって、状況が克明に見えてくるものなのだ。渦中にいる間は、周囲と同化、目を凝らしたと…

エピローグ1-2

赤すぎる口紅はトレンドらしい。目立つ要素を彼女はいつもどこかに潜ませている。まるで、それだけを見て、覚えてくれるようにと。開いたドアに彼女は消えた。マイクを通じた淡々と話される解説が眠気を誘った。時間を見計らい長針が次の数字を指した頃、ダ…

エピローグ1-1

「講義中の私語は厳禁と教わりませんでしたか?」 「試験とレポートに出席日数、大学へ通う意義が見出せたら、私も大金をつぎ込み、勉学に励むわ」 「二冊目のガイドブックを僕にあえて盗ませましたね、今更言っても、どうしようということはありません。だ…

千変万化3-2

焼死体の身元は不明のままであった。鈴木は暇な部署のおかげで正月の三が日に休暇が取れ、実家に帰り、二日滞在した。家族と親戚、親戚の子供と一年の出来事、変化、成長を話し、受けあい、聞きあう中で、秘書の想いはいつまで続くのだろうか、と鈴木は彼女…

千変万化3-1

喫茶店を離れて職場に戻る車中。 熊田が運転する車にはは日本車のように十分な後部座席の空間がないため、運転席にのシートにあたる膝の処理に、鈴木は斜めの体勢に優位を試行錯誤の末に見出す。 海岸沿いの曲がりくねる急斜面、十二月に慌ただしく始まった…

千変万化2-7

「熊田さんにも情報は下りてこないんですか?」 「雑用みたいな部署に押し付けた案件を上層部が中途半端な場面で捜査権を剥奪するのは、大体において手柄を見込めるか、隠蔽のどちらかだろう」熊田はかすれた声で答えると、咳払いをついた。 「なんだか、腑…

千変万化2-6

「待って下さいよ」鈴木が話の流れを止める。「種田の姉妹が一番に駆けつけたのは、日井田さんの論理だと、偶然と判断してしまうんでしょうか、これだけ事件に関わっているのに?」 「そうです」 「あの、そう、簡単に認められると困っちゃうなあ」 美弥都は…

千変万化2-5

「なにがだ?」 「だって、あの二人の刑事はずっと現場にいました。僕らがバス会社の黒河から事情を聞いて戻るまで、二人は現場で待機していた、なのにレンタカーの移動に気がつかなかったことがありえますか?」 「彼らは現場に居続けなかった、あるいは視…

千変万化2-4

「ええ」 「バス会社へ聞き込みに行った時は、その車はまだありましたよね」 「ええ、確認しています」 「現場で待機していたI署の警察が車を動かしたということはあったでしょうか?」 「聞いていません。確認も取ってはいない、事件とは無関係と思っていま…

千変万化2-3

「バス会社にとっては、ありがたい話ですよ。今後数年はT駅とを繋ぐ路線が開通、短期的な増収が見込めます」 「完成すればカシモトシラセには会えなくなる」 「好意を抱いていた、ということですか黒河さんが?」 「そういった動機も考え付くということです…

千変万化2-2

「両方です」鈴木はカウンターのテーブルに乗り出し、真ん中の種田をよけて熊田に高らかに応えた。「拳銃の所持は予測外の出来事だった。所持を知っていれば、一旦安全を確保して、外に連れ出す。距離の近い室内で発砲されては、対処の仕様がないからな。そ…

千変万化2-1

カウンターに知り合いの顔が三つ。窓際の席、カウンターに座るお客の背中が見える側に、腰を落ち着けた。部長の背後は壁である。この店は居心地がいい。音楽もうっすらと流れる音量で、室温も適切、暑くもなく寒さも感じない。窓は三重のガラス、間に挟んだ…

千変万化1-9

種田は体の横回転を利用した足技で拳銃を弾き飛ばすつもりらしい、膝を伸ばしながら、黒川に背中を向けていた。 無理だ。間に合わない。 熊田はもう一歩踏み込み、体ごと飛び込んだ。 ハッフッ。黒河が息を呑む。 拳銃の角度がアイラに向けられた。 もう少し…

千変万化1-8

「どうしました?」熊田が問いかけても、返事は曖昧。 見下ろした熊田の態度が威圧感を与えるのだろうか、熊田は一人がけの椅子に座った、鈴木はドアの脇で腕組み、壁に背中を預ける。 黒河の両手が力強く握られる。汗をかいた額。震える肩。言いかけた白と…

千変万化1-7

「端末の電源が切っ、ああ、本当に切れちゃった」 「私はとっくに電源を切っています」種田が偉そうに言う。 「わかっているよ、種田はいつも先を見通せるからね」 「出勤していれば好都合なんだがな」熊田はバス会社の敷地に車を滑り込ませた。 「アポなし…

千変万化1-6

「熊田さん、時間が」鈴木が催促。 「確証は持てませんが、マスコミにはあなたの名前までは漏れないでしょう」熊田の言葉をもって、公民館を後にした。 熊田たち刑事にアイラも引き続き同行する。 「次は?」助手席の種田が尋ねた。 「バス会社だ」 「熊田さ…

千変万化1-5

「真実を話していただけないのでしたら、長居は無用。我々には時間がありません。それでは」 振り向きかけた熊田をこれまでになく必死に山遂は引き止めた。「わかりましたよ。話します」ためらいがちに山遂は語り始めた。「彼女とは前々から知り合いでした。…

千変万化1-4

「お茶を運んだ女性ですか?」熊田は言う。 「はい、彼女と隣の部屋で一緒でした、トイレには立ちました。それでも五分ぐらいです。車を建設予定地まで運ぶのだけで五分は過ぎてしまいます、不可能だ」 「車は運転する人物が代わりを務めれば、良いだけのこ…

千変万化1-3

「アイラさん、まで、なんですかあ」山遂は嫌気が差したのか表情がゆがむ。 「時間がないのよ、事実だけを述べて」 「ですから、何度も言っているようにですよ、僕は彼女のことは顔しか知らない、話したことも相手の職業だって聞かされるまで何一つ知らない…

千変万化1-2

「彼女を見かけたのは具体的にいつごろだったのでしょうか?」 「具体的にですか、そうですねえ」山遂セナは手元の手帳を開く。右手にボールペンを持っている。親指でノックを押す。「この建物を借りたのが先月の末二十六日、ううんと、その一週間後にバスの…

千変万化1-1

アイラの嫌な予感は見事的中した。彼女が借りたレンタカーのトランクから盗まれた遺体が発見されたのである。捜査の手法としては、アイラの身柄を拘束、警察署で事情をじっくり聞き出す。しかし、熊田はレンタカーの借主の情報を隠して、車と内部の納まった…

回帰性5-5

「それって、つまり時間稼ぎですか?」 「樫本白瀬の遺体を処分、あるいは隠すための時間の確保と捜査の目を外に向けさせるため。警察は消えた遺体と現場で発見された焼死体とを簡単に結びつけてしまえる、当然の反応だろう。おそらくは、それを予測して何ら…

回帰性5-4

「またまたぁ、二人して僕を騙そうたって、そうはいきません」鈴木が得意げに高い位置で腕を組んだ。 「しかし、入れ替えて、何をたくらむ?遺体に証拠となるような物質が付着していたなら鑑識が回収している、鑑識が採取した樫本白瀬のデータは盗まれていな…

回帰性5-3

「雪が降っていて視界はかなり悪かったけれど、それでも誰も見ませんでしたね。見ての通りに視界をさえぎる建物もありませんし、パトカーと救急車が来るまで、前の車で待機していましたもの」 「レンタカーを借りたのは仕事のためですか?」ハンドルに手をか…

回帰性5-2

「まあね、同じ話を二回繰り返した。面倒だから端末のレコーダーで録音したのを三回目には聞かせるつもり」 「悪いけど、私たちに話して、あなたの生の声で」返答が欲しかったんだ。 「仕方ないわね」 「じゃあ、後ろの車に乗って」痛い、うれしいほどに。 …

回帰性5-1

止まりかけた鼓動が脈を打つ。レンタカーの追加料金は、とっくに脳内では居場所を追いやれている。 警察の車両が二台、救急車が一台、しかし救急車はすでに走り去った。蘇生は昨日の時点で無理であるのに、どこでどう聞き間違えたのだろうか、アイラは鼻で笑…

回帰性4-6

「約束は亡くなってから実行されるはず」 「守られない場合もある、ということか」 「どうぞ」美弥都は難しい表情でそわそわと体を揺らす鈴木の前にコーヒーを置いた。議論を再考しているのではない、鈴木は隣の種田の横で熊田のようにタバコを吸うかどうか…

回帰性4-5

「ええっと、コーヒーをください。あの、僕の意見聞いていましたか、日井田さん?」鈴木は黒目がちに瞳の形状を変化させて尋ねる。 美弥都は棚からカップを手に取る。「操る人物が女性を殺したのであれば、見つかりたくはないでしょう。稀に発見を望む人間も…