自作小説-ブルーズブルー
館山リルカと小川安佐にランチのメニューを任せてみようと思う。思いつきとは少しニュアンスが違う。前々から温めていた計画をそろそろ着手、始めようか、という時期に彼女たちの気概と技能とレシピ専攻眼が肉付きを帯びたのである。 いち早く、本日も店を一…
十一月の中旬にピザ釜が目立つ洋食店の耐震性は法律の基準を満たしたばかりに、早々と再度の移転が店主を含む従業員たちにのしかかりるも、平穏といえる古びた外観の飲食店の反響に押しも押され、移転前の客数を越えてしまった。新装開店をわずか一ヶ月弱で…
「降りてこないのよ、情報が。こればっかりは上も口が堅くて」 「要するに」 「ええ、そういうことよ」 沈黙。 「歌って」 「僕がですか?」 「歌は嫌い?音痴だったりして」 「嫌いでもないですし、音痴でもない。音楽の成績はこれでもよかった」 「まだ授…
観客、演奏家が神隠しに遭った小さな地下のライブハウス。場所は各自が想像して欲しい、中心街のどこかである。 彼女は琥珀の液体を無骨で厚いグラスに注ぐ、二杯目。数センチほどが一杯の基準、待ち人が顔を出す三十分弱の時間をかけてグラスを空に、カラカ…
「……はああんと、うーんなるべく柔軟性の固まりだって思い込んでいた私でも、しっくりきませんね」小川はもだえる。「つまり、噂を嫌い、新製品の売り上げを守るために社長、林さんでしたか、その人は事実を警察に打ち明けることを拒んだ。そればかりじゃな…
「なぜ、上空で操縦桿を握るパイロットが階下の明かり、それもブルーの明かりを見て、新製品の端末だと明確に言い当てることができたのだろうか。商品の発売前にディスプレイが光を放つ、青く光るというプロモーションは一切公開を控えていたんだ。驚かせる…
「これを読んで店長はあの刑事さんたちに助言をしなかったんですか?」店主の回想が終わると、堰を切った小川が溜め込み思いついた考えをぶつけた。女性に関する内容に感化されたのかもしれない。しかし、店主は彼女の勢いを向いいれる態度と正反対に、疲労…
「お互い、様か」一言がぎこちなく読点をを求めた。 稗田は声に黄色を混ぜた、ぐっと踏ん張って、力を溜めて、解き放った。「ねえ、明日さ、会社で私の話し相手になってくれる?」 「二十年前、似たようなお願いをされた」 「誘ったのは、だって私だもん」 …
「私に、いいたいことがあるでしょう?」稗田が尋ねた、改まった声。 「先週も聞いた質問だ」 「心境は、だって、移り変わる。相場が決まってるんだから」 「甘ったるい喋りも心境の変化がもたらしたあなたであるから、私のここまでの印象」 「抜け目がない…
「私のセリフ」 「言われ続けるといつか真実を帯びる、その実験」 「変なことを試してるわね、いいなあ、私とは大違い」稗田は言葉を垂らした。真下に食いついて欲しいのだろうか、それかこちらの存在に気がついたのか、あたりに散らばった彼女たちの気配が…
水曜日。午後二時三十六分。S駅北口コンコース内。喫茶店ルバーブ、一階、水槽前。気温十二度、うす曇、肌寒い、昨日は雨、乾燥した店内は暖房の稼働が要因。運良く、彼女たち隣に席を確保した。 「ごめん、休みの日に呼び出しちゃって」低音で多少のかさつ…
「あるいは、警察がね」店主は言い添える。 「ええっ、警察もグルう?」大げさに小川が声を出す。 「結局、店長の推理は屋上で殺害が敢行されて死体が発生し、従業員が外界と遮断、その後警察が駆けつけ、夜明けまで搬出を待った」顎に手を乗せた国見が女流…
「与えられた情報を手がかりにした、犯行場所の特定は僕には不可能だ、超能力者でもない限り、イメージで情報を呼び出す技能は持ち合わせてない、よって犯行はどこかで行われたと、ここからはじめる。死体はそれほど出血が多くなかった、死体を持ち運ぶには…
「従業員と警察が現場の工作に動いた、料理の工程ではどういう場面ですか?」小川が尋ねた。 「強引に食材の味を引き出す化学調味料を使用することと、出来上がりの料理に不ぞろいな彩を添えること」 「は、はああぁ」 「ひれ伏したみたい……感心なら、ほほう…
「そうかな。出来上がりを想像し、そこから手順を後に戻る。目的地を定めずに歩き出しても到達は、……するはずはないよね。ご丁寧に標識が行き先を何気に誘導してくれる優しさや商業目的の誘いは影も足跡すら、皆無だ」首をかしげた、たんにこわばった肩をほ…
「レシピ?」高い声で頭の上に疑問符を浮かべる小川。 「死体を調理の産物に見立てる。想像は控えて欲しい、鮮明に絵が描くほど気分が悪くなる。出来上がった死体は幾つかの工程を経て、屋上に倒れていた。まず、屋上で死体が見つかった場面を検証してみよう…
「うん、地上にいた人物ならね」 「ああ」館山が大きく頷いた。 「先輩、驚かせないでください」 「だってほら、上空に飛行船が飛んでたって……」 「飛行船は飛ばさなかった、飛行船の会社は否定してました」国見が自信を持って意見を保管する。 「お疲れ様で…
「なんとなく……。ようは、その場所に犯人がいたという事実じゃなくて、死体とか現場の状況とか、犯人しか知りえない情報をですよ、こうぺろっと口を滑らした、とまあ、こういった寸法です」 「また、あんたは適当に言っちゃって、少しはね、料理のほかに使用…
「ですよね、店長は……、当然知らないですか、すいません、聞いた私が浅はかでした」 「ブルー・ウィステリアなら、昨日営業を再開したわよ」国見は話を聞いていたらしい。 「蘭さん、情報通。もしかして、店に足を運んだとか?」 「店長に渡した端末の代用品…
それから二週間後。 ビルの新装開店の日取りに、移転先の店を開けた。店名はワンハーフポイントと名づけた。二号店でもなく、一号店とはいいにくく、しかし店のコンセプトは正しく継承してる意味合いを込めた。まあ、店名などその場所に店があれば、お客は来…
調理器具の到着、その連絡の二十二分後に四杯分の料金を支払い、店主は仕事に戻った。ちょうどテイクアウトの樽前に搬入器具の説明が終わった場面に飛び込み、それから三十分ほど宇木林に設置器具のメーカー、ヘルメットを被る内装業者と細かな不具合と使い…
「停電のあの日、私はあなたと同じ光を見た。ブルーとも紫ともいいがたい、色だったわ。綺麗だった、空に届いて光が居場所を見出した。みられたの、あなたと視線の先を合わせられた。それだけで十分だし、そこで理解した。ああ、私はあなたの視界を外れても…
「私という付き合う恋人がいながら、他の人と付き合う。これは私にとってありえない、異常性の高い、目にあまる、耐えがたい光景だわ。認識はそれぞれ違って当然、あなたには私がそう見えた、私にはあなたがこう見えてる」 「……いつから?」 「いつ?はじめ…
もう一名のお客の性別は男だと判明した、店主の真後ろ、背もたれを挟む体温と低音の声が感じ取れる。盲目の女性の大立ち回りに応えた声が室内に散らばった無秩序をかろうじて取り集めた。レッテルが貼られた、あるいは名詞が冠された、とでも言おうか、男と…
「発見時間のずれ、それからうーん、被害者の身元の発覚、それから、あなた方の到着と捜査の開始はおよそ、想定の範囲に収まったでしょう。店側に息のかかった人物が死体を発見、身元はいずれ発覚するように関係各所の微調整と連絡をつけた。進展状況などは…
鈴木は店員を解放する。 「違うとは言い難い、ようです」鈴木は苦笑いを浮かべた。「うーんなんとも要領を得ないというか、豆によっても抽出ですか、お湯を注ぐ温度や湯量も異なって、機械を使った場合、あっと、わっとなんだったか、ハンドドリップだとかな…
作り方か、……より具体的に示したということか、うんうん。 「納得されたようなので、その考えを音声に変換しなさい」 「種田、おまえ、馬鹿っ、誰にでも通用すると思ったら大間違えだぞ」 「構いませんよ。意図的にこちらの感情を逆なでする、目的が明らかで…
「質問を変えます。あの女の発言を紙にまとめた内容が一部不可解に思えて、理解に及びません」 「それを私に応えろと?」店主はいう。 「先ほどの質問は回答を拒否されたので」 「日常会話でも相手のプライバシーや当人が気に留める内容に触れた場合、黙秘を…
「おそらく事件の公表は正当に情報開示が行われた。しかし、それと今回の集団卒倒を結びつける材料が極めて少ないのです」 「と、いいますと?」灰皿を叩いて、リズムを取った。僕は煙を吸い込む。 「ブルー・ウィステリアの番地ですよ」鈴木が言う。「明治…
「その方に家族は?」 「ええ、妻と娘がいます。被害届けは……、はい、提出されてませんね。会社側が異常事態だと奥さんに告げても、取り合ってもらえなかったということです。なんでも、以前から外泊が多くて、家に帰ることは少なかったと。仕事の煩雑期は自…