コンテナガレージ

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2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

静謐なダークホース 5-5

館山が仕込みを続ける背後を通って、釜、出窓に向かう。それでも、やはりラジオは快適に今度はゲストを紹介していた。 「コンセントなら、店長、ホールの左端の二人用のテーブルの下に一つありますよ」館山が顔を横に向けて言った。手元は地鳴りのよう音と振…

静謐なダークホース 5-4

そういった風景に見とれて、足を進めた先に、ひびの入った壁に入り口を守る黒ずんだ幌とかすかに読めるタカオ無線の店名。記憶は二分の一を勝ち取った。店主は、躊躇うことなくドアを引き開けた。 外観からは想像がつかないほど、店内は明るく、埃っぽさや息…

静謐なダークホース 5-3

「取り立てて特殊な調理法は採用していないし、味に関しても守秘義務は行っていない。それに、僕はあまりしゃべらない、館山さんたちは多少の迷惑を聞いている者に知られるかもしれないが、それほど普段と、仕事における態度に僕は違いを感じていない」 「気…

静謐なダークホース 5-2

「どこであれをつくったの?」 「……自宅です、正確には半分母親に手伝ってもらいました」 「そう、あなたのお母さんが優秀なのね」比済の頬が上がる。「自宅まで案内して。あなたのお母さんに、ご自宅に今いらっしゃる?」比済は彼女の両肩を掴んだ。 「……え…

静謐なダークホース 5-1

「こんにちは、はじめまして、ううっと、ああ、なんだっけ、突然の訪問をお許しください」ドアを潜った人物は見慣れない顔、短めの上着にマフラーは、かなりの軽装。誰だろうか、ぶしつけな質問をこらえて店主が訪問の理由を尋ねた。 拮抗した空気がほどかれ…

静謐なダークホース 4-9

「かなり独断ですね」 比済が店内に戻る。彼女の全身が見える入り口のマットの上で止まった。表情は固い。引きつりも見られるだろうか。 「製造中止をどのタイミングで行うのでしょうか?」 「世間におけるバランス」 「圧倒的なシェアを獲得したら?」 「栄…

静謐なダークホース 4-8

「おっしゃることは重々承知した上での報告です。どうかご決断を!」彼女は回答、合意を迫った。 「……私の権限で、市場に出回る製品の製造中止権も付帯してください」 「一度、消費者の手元に渡ると、回収は困難ですが」あざ笑う彼女。 「出回っていた商品は…

静謐なダークホース 4-7

「帰って」 「要請には従えない、残りを受け取るまでは」傾けた首。彼女は、ケースの一つに手をかけたようだ、厨房からは彼女の手元は隠れている。 「店長さんが、素直に従ってくれない事態は一応想定しておりました。そのための手段でこれをお渡しするのは…

静謐なダークホース 4-6

「先に、他の企業が販売をしてしまう。商品が店頭に並ぶためには一定期間の審査をクリアする必要がある、ときいたことがあります。間に合わないのではないのでしょうか」 彼女は微笑を浮かべる、後ろの二人へそれぞれが持つケースをカウンターテーブルに置く…

静謐なダークホース 4-5

「八分」 「九分」 「八分」 「わかりました。八分で」 店主は、ホールの壁掛け時計で時間を確認した。 「機密情報なのであまり口外はしたくないのですが、他の企業が来月早々にも栄養食品の販売を控えているらしいのです。私どもが手に入れた、あなたがもた…

静謐なダークホース 4-4

「あのチョコ、形、外見は綺麗でした。ああ、わかった、あの手紙か。メッセージがなければ、かなりまともで、食べられたかもしれません」 「それはいえるかも」 「嘘はいけません」 「手には取ったかもしれない」 「譲歩しましたね」 拭いた皿をカウンターの…

静謐なダークホース 4-3

比済ちあみがもたらした情報は、午後のランチ明けまで持ち越される。 「今日も一人立っていましたね、外に」ピザ釜の灰を丁寧に取り除き、足元のバケツへ舞う灰を押さえる。マスクをはずした館山が言う。 「待ちぼうけの人を見張っている人はいる?」店主は…

静謐なダークホース 4-2

「はあははは、へへへ」 「わかりやすくごまかすな」 「あの丸いやつ……っあぐっ」くぐもった小川の声。店主が振り返ると、細長い指、館山の手が小川の口を完全に覆う。館山はおもむろにコックコートの内ポケットを探って、紙を取り出した。太い文字は、「店…

静謐なダークホース 4-1

「昨日の件の説明を私、まだしてもらっていないんですけど?」開店前の厨房。小川が仕込みを縫って、先ほどから問い掛けている。鳥のようにくちばしでつつき、痛みはあまり感じないが、集中は途切れる。 「だから何度も言ってる、ここで話せないって!」眉を…

静謐なダークホース 3-6

「だったら、なおさら引渡しは拒否します」 「……店長、私限界です」小川が沈むようにうずくまった。 「国見さん、音を下げて!」手招きする仕草、店主はレジの国見に伝えた。圧迫感が取り払われ、体の身軽さを体感する。「小川さん、大丈夫?」 「三半規管が…

静謐なダークホース 3-5

最後の一組が帰り、今日の営業が終了する。比済が一度席をはずした理由は、最後に帰った一組が彼女もしくは球体のチョコに特別な関心か、店内のかすかな会話に聞き耳をたてていたのかのどちらかだろう。しかし、栄養素が失われない、というのはどういった仕…

静謐なダークホース 3-4

「三十ミリグラムは金額に換算すると三百万。コンマ一ミリグラム当たり一万円の価値。それほど、食品加工の段階で費用がかさむ物質です。一体これをどこで手に入れたのか、不思議でならない。もちろん、自然界には絶対に存在しません」一人熱弁を振るう。比…

静謐なダークホース 3-3

一枚、ピザの注文が入る。館山の厨房に戻る反応を抑えて、店主が生地を焼いた。お客が会計を済ませ、地下鉄と電車の駅に向かう。ちらつく程度の雪も風で存在感を高めていた。 ピザはどうやら、館山の知り合いが注文したようで、館山が厨房に戻り、直接彼女が…

静謐なダークホース 3-2

「綺麗ですね、あの人」 「そう?」 「店長は、あんまり人のことを褒めませんよね」 「そう?」 「町で見かけた人を目で追ったりしません?普通の人の行動ですよ」 「それってつまり外見で人を判断している、とは受け取られないの?」フライパンを加熱、冷蔵…

静謐なダークホース 3-1

ディナー、活気を帯びる時間帯の午後九時。日常会話が途切れた厨房で食材が焼かれ煮られ、油で揚げられ、ソースを塗られ、盛り付けられ、緑鮮やかな野菜が飾られる。国見がお客を一人、カウンターへ案内。ドア側の区切られた二席の一つにお客は腰をすえる。…

静謐なダークホース 2-10

「手渡すここまでの道のりも当事者のプランの一部さ。夢を描いて、それに従って、歩いてる。僕が包装を受け取って嬉しがるのは誰?当事者だと、僕は思うね」店主は、箱を丁寧に重ねた。「相手の気持ちに配慮が足りない、そう言われるかもしれない。でも、わ…

静謐なダークホース 2-9

「食べることはそんなに必要かな?」 「休憩入ります」 「どうぞ」 「安佐、もう一つは?怪しい待ち人は二人だったでしょう」 「先輩が今度は開けてくださいよ、私ばっかり。見たい気持ちは同じくらいですもんね」 「見たいなんて、一言も言ってない。危険か…

静謐なダークホース 2-8

「薬の注意書きを意識して書いたんでしょうね」店主の手元を覗く館山は、口元に手を当てる。「すいません、勝手に見て」 「いいよ。文章は誰かに見られる前提」 「私に見せてください」爛々と輝かせる瞳で小川が見つめる。店主は向きを変えて紙を渡す。「へ…

静謐なダークホース 2-7

「いいから早く開けなって」館山も箱が見える位置に近寄る。 「えいっつとう、うーん、これって……バレンタインの贈り物?」 上蓋の次に三人を襲ったのは、球状の塊、四つであった。 「惑星を模したチョコレートなら見たことがあるけど」館山は眉間にしわ寄せ…

静謐なダークホース 2-6

「もらうのが嬉しい。自分で買っても味気ないですよ。それがプレゼントの持ち味って言うのか、うーん、本質?ですよ」半ば怒ったようにそれでも口調は柔らかく、尖ったはずの言葉の先端は丸く、面が取れてる。 「店長が食べもてもいいって許可が下りたら、食…

静謐なダークホース 2-5

勘違いをさせる振る舞いは、神に誓い、舌を切り落としても良い、思わせぶりな態度は見せてはいない。僕は一貫して、教室内の人物、教師を含む人間には興味を持った記憶は正確に呼び起こしても見つからない。見つけようがない。 記憶は鮮明、劣化などしない。…

静謐なダークホース 2-4

「あの人たち並んでますよ」見開いた瞳で小川が屋外の怪しげな二人の最新情報を伝えながらも、数箇所黒い焦げ目がついた長方形、紙に包まれたピザを容器に詰める。 数十人分を持って小川が外に運ぶ。多少サイズが小ぶりなために、お客は二つ以上の注文が多い…

静謐なダークホース 2-3

「楽しいですか、一人だけで?」 「二人だったことは、僕にはないよ」 「それは、……どういう意味ですか?」 「言葉どおり。解釈は小川さんに次第」 「意味深。うーん、これゴーのサインかも。だけど、しかし、ううむ。見極めが難しい」 店主はホールに降りて…

静謐なダークホース 2-2

だが、そのデータ収集も先週で終わり。今日はランチメニューに仕込みにあまり時間を割かれないため、早朝通常出勤の二時間前に店に来ることはないのだが、ただの提供ではと思い、店主はいつもの時刻に家を出て、いつものように厨房に立つ。 出窓、かすれた前…