コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧

抑え方と取られ方 2-4

「はい」 「営業時間だったでしょうか?」 「いいえ、帰るところです」 「午前に店を飛び出した人物の身元が判明したので、一応お伝えしようと思い、連絡を入れました」 「それはご丁寧に」 「従業員が狙われた事件とは無関係と私は判断します」 「アリバイ…

抑え方と取られ方 2-3

「嫌なのに付き合うの?」 「それは、だって、友達ですから。今後の付き合いや私の趣味を押し付ける時にだって相手は丸々同意をしてくれているとは思ってません」 電話のベルが鳴る。厨房の子機を小川が取る。館山が倉庫の在庫を確かめてピックアップ、足り…

抑え方と取られ方 2-2

「小川さん、休憩」 「わはっつ」膝が折れて、がぐんと体が片側に沈み込む。「寝てませんよ、瞑想です。こう集中力を高めるのって、ほらお坊さんがやっているじゃないですか、肩をぱちんと、ほら、しゃもじみたいな、これとは違うな、材質は同じ板で叩くでし…

抑え方と取られ方 2-1

今回は時間の許す限り、つまり午後二時までを制限としたランチを提供した。 ハンバーガーがとうもろこしパンに常に優勢をみせて、先に売り切れとなった。ただし、とうもろこしパンもその場で一口食べたお客の感想を皮切りに注文数は次第に増えて、ハンバーガ…

抑え方と取られ方1-12

「メニューに取り入れてはもらえませんかね、とうもろこしの粉を」男は座りなおして、切り出した。店主は釜で焼く効率性とフライパンの正確な形を天秤にかける。 「……何か言いましたか?」 「とうもろこしの粉を使った料理をランチといわず、メニューにのせ…

抑え方と取られ方1-11

「通常の、これまでの取引とは異なる、大掛かりな契約ですか?」店主がそっけなくきいた。 「さすがに話が早い」コーヒーが運ばれる、小川が引き下がって、男は話を続けた。「米の需要が飛躍的な伸びを計上しているのは、ご存知のはずですが、小麦も価格の高…

抑え方と取られ方1-10

一人前を炒めて、とうもろこしのパンに挟み、味を確かめているときに、開店前に三度目の来客が姿を見せた。 「どうも、ご無沙汰しております」四角い顔に頬のふくらみが特徴的な男性がにこやかに店に足を踏み入れる。微笑をたたえれば、入店は許可されたもの…

抑え方と取られ方1-9

そして従業員が各自の仕事に取り掛かる。 ランチメニューの一つはハンバーガーに決めていたので、昨夜に直接、アーケード街のパン屋、ブーランルージュにハンバーガーのパンズを注文していた、これを小川に店まで受け取るようにお願いする。館山には、裏口に…

抑え方と取られ方1-8

「現実が見えていないともいえる」国見が反対の意見を述べる。 「見えてますぅ」小川が反論。「あえて見ないようにしてるだけ。本当は知ってますよ、並ばされているんだってね。でも、私はまだましな方ですけど、飲食に携わっていてもいなくても、周りが見え…

抑え方と取られ方1-7

「却下します」 「……」 「おっはよううございますです」小川安佐が陽気に引いたドアで仰け反る。「わあお、人だ。うん、ああ刑事さん、朝からまた、どうしたんで……」ドン、逸れた種田の視線が男に向き直る間に、入り口の小川に体当たり、男は逃走を図った。 …

抑え方と取られ方1-6

彼はこちらを見つめて笑う、同調の意味を知っているようだが、不敵な笑みの効果は知らないらしい。 「本日のランチは、決まっているのでしょうか?」 「あなたの相手をしていると一生作れない」 「返しがお上手」 「私が置かれる明確な現状です。お願いです…

抑え方と取られ方1-5

「何も無い所から得られた利益に興味はない。どうかお引き取りを、ドアはあなたの左手、ノブを捻って、引きあけると外に出られます」店主は右手を開いて方向を指す。「どうぞ、お帰りを」 「はあ。頑固ってのは、私がもっとも苦手な人種。お嬢様があなたの店…

抑え方と取られ方1-4

厨房に入って間もなく、店のドアが開いた。見知らぬ人物は堂々と店内に踏み、ホール内をじっくり観察。名前を覚えない店主であるが、人の顔は割合覚えている。相手との間柄で、その関係性を把握している。 「こちらの店で、ライスの注文を断っている。そう、…

抑え方と取られ方1-3

実験によって、教授が実際に公園でブランコに乗る模様がスクリーンに映し出された。講義の主張や説明は、異なる重さの物質を同じ高さから落とすと、重力の影響により重いほうが先に地面に到達する。だが、重力が地球の六分の一の月での実験では、重さが異な…

抑え方と取られ方1-2

ランチのメニューは以前に取り入れた組み合わせを再び提供する試作を行った。メニューの誤差に対するお客の反応を確かめる。お客のランチを並んでまで手に入れる期待感が気温や気候、季節によってどのようにずれが生じるのかを見極めたい、というのが今日の…

抑え方と取られ方1-1

週の真ん中、脅迫事件の翌々日は、雲ひとつなく晴れ渡る大仰な快晴。関東や本州の太平洋岸は、大雪に見舞われている。地下鉄の改札から望める大型ビジョンに早朝に傘を差して歩く人にインタビューを求め、欲しがる、天候に対する悲観的な感想を聞き出したい…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?7-2

「疲れてる?」 「体力には自信があります、精神的な疲労ですね」国見はやり過ごす車を追うように、一歩前に出て、路地の右を指す。 「大豆の地位って、そんなに低くはないですけど、高いとも言い切れない。それが不満だったのかな」彼女は、マフラーに顔を…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?7-1

二人が先に店を出る。国見と店主はそれから五分の時間を待って店を出た。 「良かったんでしょうか、二人にとてつもない勘違いをさせてます」地下街に下りる階段で国見が、踊り場で振り返る。階段を上る通行人をやり過ごして、彼女は続けて話す。「言っても良…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-7

間髪いれずに回答。「してない」 「……倉庫で怪しい会話をしてたじゃないですか、あ、あれはどう説明するんです」小川は長身の館山に隠れて顔を脇から覗かせて、午後に見たやりとりを指摘する。 「僕の口からはなんとも、その件に関しては話せない。だけど、…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-6

油にまみれたステンレスに光る、反射の板を洗剤で埋め尽くすと、大胆に水を流しかける。店主は、白米の重要性について、考察を重ねた。あの母親にとってはお米は生き抜くための必需品だった。何故、他の食品で代用を試みなかったのかは今でも疑問が残る彼女…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-5

「報道は真実とは違うって体感しましたよ。言い訳に聞こえるから、あの両親も反論しなかったんですね。それに子どもがこっそり死んでしまうかもしれない食べ物を自分の意識で口に運んでいただなんて。……子供が誰よりも大人だったって、ことですよね」小川が…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-4

「吐き出しなさい!すいません、お手洗いを!」母親は手を挙げる。 「大丈夫、いつも食べてるから、平気」 「息もできなくなって、死んでしまうの。全部出しなさい」 「もう、遅いよ」 「救急病院ね、胃洗浄だわ」 「慌てないで。僕は大丈夫。ずっと前からち…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-3

「すいません」カウンター越し、父親が店主に問いかけてきた。 「はい」 彼は立ち上がる。「お米は本当にありませんか、貸し倉庫のような場所に保管しているのではないですか?」 「いいえ、店の裏手のことをおっしゃっているのなら、見当違いです。明日の朝…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-2

「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」間に挟んだ子供を見つめる母親、子供は高い声で物珍しいメニュー表にか細い歓声を上げている、迷惑という意識は備わっているらしい。国見は両親がむき出した敵意と攻撃性の低下を読み取る、引きつった口…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-1

核心を避ける小川と館山のよそよそしい遠巻きからこちらを横目で窺う態度は、精神的な圧力を感じる。しかし、感じているのは自分なのだから、視線と態度から予測を切り離せば事は足りて、体の拘束具ははずれてしまう。視線の威力は自らが強めている場合が多…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?5-4

「落ち着いてますね」 「そうかな。いつもだと思うけど」 「もう少し、慌ててくれても良かったんですよね、私としては……」蚊の鳴くような声で国見が言う。 「何か言ったかい?」 「いいえ。何でもありません。私がきっちり弁解します」 「お願いするよ。僕ち…