自作小説-恋愛要網七箇条
結論。 あの人、私が憧れにあこがれた地下室の不思議な部屋で再開を果たした人物が、世界の有様に多大な影響を与えた張本人ではないか、と思う。もちろん、人の形をしていたのだから、あるいは言葉を話し、しかも夢の世界を体現した地下空間の説明等々、現状…
紺碧。有限に広がる空は見慣れた。私を含めた人間は得てして例外を嫌い、当たり前に引き下げた現実に生きる。 外は雨。雨にぬれるのだって当初は喜んでシャンプーに興じたり、わざわざ濡れて自宅まで帰ったり、屋外のベンチに好んで座ったりと、それはもう大…
かちり。彼女の内部でひそやかに、機構がかみ合う。 これまでの私を、おいてきた私を、こびりついて離れようとしがみつくこれらを、ガラス瓶に変えた。 魔法を使った。手当たりしだい、目に付いた丁寧に色までついた多種多様な瓶をためらうことなく、白い床…
「わかりきったことを尋ねるのね」「食べたい物、考えておいて。すぐいく」「退路は断った。短い時間を有効的な、あの人に対しては有効的ね」サリーは涼やかに確信をえぐった。「私と対等に立つための道筋は一本」 たちどころに鼓動のピストンが早まる。選べ…
「私のあの人に、あなたは丸坊主で会いに行けるのかしら。きれいなあなたが必須、それとも単なるあなた?この中間かな、嫌われる、笑われる、無視される、ひかれる、どれもこれもあれもこれも、まるであなたが世界の中心とは思わないのかしら」髪の毛の束、…
選択を誤った。 キクラ・ミツキは、非常な出来事に身をさらしてしまった、と自覚を強めた。 逆さま。こうもりの気分に浸った数秒前が懐かしい。揺らめき立つサリー・笠松。闇に溶け込んでもなお闇よりはほのかに明るい。虫に居場所を教えるような、誘う香り…
柔和な右側と辛辣な左側、ミツキは息を呑む。反論する手立ては粉々だった、とっておきに温めた純真な私がぺしゃんこに返ってくる予測しか立たないんだ。泣きはしない。それはずいぶん前に卒業した昔だ、戻ってはいけない、前だけを見つめる。この人にだけは…
「あなたの特性を聞かせてもらいます」氷の息が吹きかかったみたいだ。頭ひとつ、私よりも背が高い。三メートルほどの距離が詰まる。視界の隅で執事の行き先を追ったが、どこにもいない。振り返る。やっぱり姿が消えている。常識が通用しないことはわかって…
「私は二つ質問をします」立ち上がる、メイドのダンスがぱったりとやむ、急に降り止んだ雨みたい。くすっと笑って見せる。余裕を見えたつもり、あおられたお返し。「一つ目、『私には真実に従って回答をします』という方は手を上げてください」 ばらばらあが…
「制限時間の五分に質問の回答時間は含まれるのかどうか、これは質問です」彼女はきいた。「一回使用した、とカウントしますが。よろしくて?」メイドが聞き返す。キクラ・ミツキは無言で頷く。「含みます」 不思議だ、気持ちが落ち着いてる、煽りが余白に思…
「まだ?」女性が言う。すっかり私のことは忘れているらしい。「はい」「手はつけたの?」「はい」「予想は?」「五分五分」女性が口笛を吹く。冷やかしや感情の高まりを表してるのか、こそこそ話すなんて趣味が悪いって話している当人たちは無自覚なんだろ…
「温度は適温に下げております、すぐ召し上がられるのがよろしいかと存じます」執事がすっと、離れる。「いただきます」詮索がありありと顔に出ていたと思う、兜をはずすとこうもりアクションがダイレクトに伝わるのか、しかし私が望んでいたことではないの…
丸い。印象を一言で表したら、たぶん適切だと、共感を得られる。キクラ・ミツキは、球体の内部をのっそりと警戒心を肌に貼り付ける、腰はわずかにかがみ、両手指は迅速な対処に供えて等間隔で隣の指と距離をとる。 レストランの一風景、と形容していいものだ…
犬みたいに短い髪を一振り、両拳を握り締めて力を込めた。よしっ、と体内に向けてミツキは気合を入れる。 枯れ葉、階段に振りまいたとしか思えない。そっと、確かめて、彼女は一段ずつ降りた。 両足が階下にたどり着くと、明かりはぱっと、それこそ侵入を監…
一人住まいに適したサイズといえる。ペンキの青は数時間前に塗られた佇まい、におい立つシンナーが記憶とリンクして、鼻をついた。屋根を見上げるキクラ・ミツキは、一戸建ての二階部分思わせる建物を睨みつける、お前は私を手を組む気があるのか、それとも…
どうかご無事で、三人は連れ立って、幾分うつむき加減の首の傾きがなじんで、ミツキの元を離れていく。呼び止めようか、否、それでは、女が、私が廃る。覚悟を決める、頬を叩いた、金属がばいんと想像の反響を奏でる。 私は人を探しているのよね、言い聞かせ…
なんだか、ゲームの主人公が町人の話を聞いて、イベントが発生する場面そのものではないのか。言いかけたミツキであったが、次男の素顔がはっと、私の息を止めた。彼は兜を頭上に持ち上げていた。「驚くのも無理はない。お坊ちゃまの顔そのものだからな」 フ…
「郊外、第二地区だ。立ち入りは禁じられている。以前は私どもが仕える家の所有だった。管理等の雑用を政府に任せる、遭難覚悟で出入りの許可をかろうじて得るんだ。他言は即刻現実世界で翌日を迎える権利を剥奪されたと思え、お嬢さん」「キクラです、私」…
「あのう……」状況の飲み込みが遅い、急速だっためまぐるしい変化に緩急がつくと、こうも人の反応は鈍るものなのか。彼女は瞬きを多めに、視界に映る三名が不鮮明に、音声は遠くから聞こえるようだった。「頬の痛みについて、言及しませんでしたね?」諭すよ…
麻のロープで縛られた低木、アスファルトの道に張り出した深い緑をたたえる大木。スカスカの木々が奥で待機、数字の七を髣髴とさせる白い街頭が「出番かい?」、こちらのほうが生き物に思える。 ミツキは自分の足で歩く。歩けるだろう、と男たちの視線。前に…
アップダウンの揺れ。うねうねと体が跳ねる。 キクラ・ミツキはこめかみに人差し指を突き刺し、記憶を探った。ゆりかごやハンモックに似た定期的なスイングがたまらない。抜群の居心地が私を眠りにいざなった張本人ではないのか、と思ってしまえるほど。 起…
「……」「無言は、同意とみなしますが、よろしいですかね。それとも……」「キクラですが、なにか?」彼女は遮って、体を正対させる。口元を引き締めた、顎を引く、唾も飲み込んだ。口調はすばやく、言葉が口をついた。相手にはこちらの心情は伝わったはず。「…
「お取り込み中にぶしつけではありますが、質問に答えてくれはしませんかな?」時代遅れ、いまどき老人でもそんなかしこまって遠まわしに喋ったりはしないものだ。真ん中の、一番背の低いに人物は紳士よろしく、ワイングラスでアルコールを勧めるように左手…
向かう先、言葉の意味は薄れてしまった。ボックスは出口と入り口を兼ねる。移動も旅のうち、は過去のイベント。「休日は南の島で」なんて聞こえたら、それはジョークだ。外出をアドベンチャー・冒険といえたのは、極限状態と平常が分かれていたから。自然と…
トラスポートに人が消える。 携帯電話の普及率と対照的に姿を消し、絶滅にまで追い込まれた有線の電話回線。電話ボックスを人々の移動手段に摩り替えた役人には、拍手を送ってもいいぐらい。航空機による移動が制限された状態を脱却するために、画期的な装置…
いない。 性別の判断も不可能に近いな。 手がかりの身体的な特徴である身長は、新たに支給された防護服がその身体的特徴を消し去ってしまうんだ。手を振ってこっちに歩いてくる友達は、きつねやたぬき、おばけだと、言われている。 防護服が配られてから、世…
今日から新しいシリーズを掲載します。最後まで読んでいただければ、幸いです。 <恋愛要綱七か条> 第一箇条・恋愛感情、溺れるべからず。溺れたら最後、後戻りは不可。 第二箇条・情意はうちにとどめるべし。 第三箇条・体内にとどまる場合において、その…
「白髪に見せかける、反対はいくらでもいるのに。中年のほとんどが真っ白かまだらに生えているんだから」「見栄えを気にするものですか、男性でも?」「そりゃそうよ。誰だって老けて見られたくはないのですよ。若さを永遠に、肌を気遣って日焼けも避ける、…