コンテナガレージ

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自作小説-五月二十日は鉄板を以って制す

選択は三択1-7

「はぐらかしは、ええ、理解しました」息を吐き、大げさに館山はいたずらっぽく、一歩前を歩いて振り返る。「店長は休憩といえば川を眺めてます、前世は河童だったりして」館山は笑顔を残して、走っていった。元気、若い時に無性に走っていたのは、風を切る…

選択は三択1-6

館山は前に出た。交差点で止まったのだ。背後では、車が北上する。手を左右に広げる館山は、案山子のように、どこかの崇拝する像のように佇む。「私が、身を投げたとしたら、店長は引き止めて、体を奪い取って道に引き戻してくれますか?」思いつめた顔だ、…

選択は三択1-5

葉が数枚流れてきた。タバコを灰皿に捨てる。店長は立ち上がり、浴衣姿の女性の通過を待って柵に手をかける。 「店長」背後から呼ばれた。呼ばれる、という表現はもしかすると姿の見えない相手に対してのことかもしれない。呼ぶ、という表現ではかなり近い距…

選択は三択1-4

土曜日。三週間ぶりに休憩を取得した。風に当たってくる、月曜日の仕込みを終えた店長はふらりと、外の空気を吸い、有害物質も同時に取り込む贅沢を堪能するべく信号を渡りきらず、一ブロック先の川に足を向けた。 夕日が落ちた空は淡いピンクがかすかに空と…

選択は三択1-3

最終、新形態から三週目の情報公開。 話すことがなく、喫茶店の隣のテーブルからもれ聞こえる情報は数が限られ、小川たちがテレビから取得する追加情報もまったくなかった。 面白いことに、彼女たち従業員はネットを介した情報はその信憑性に欠けると判断し…

選択は三択1-2

翌週、新形態の二週目終わって得られた情報は、以下のとおりである。 協会の関与によって店に突然現れた女性、柏木未来は店内で語った「協会に追われている」という事態はまったくのでたらめであったようだ。 カメラマンである彼女の事務所が、協会が正式に…

選択は三択1-1

初の試み、ランチのみの初日が開幕した。お客の反応は様々、変わったと嘆くお客の声も聞かれた。それでも、お客の入りは盛況、店は活気に溢れ、通常営業を前後三十分拡大させた時間帯で店を開いたのが好評を博した。 ランチメニューには小川が作るピザ、ハン…

巻き寿司の日6-2

「引き抜かれた。拳銃の仕組みは知りませんが、リボルバー式ではなく、連続で弾がはじき出されるタイプの銃だと思います。撃ってはいない。そのまま懐にしまいこんだ」 種田の透明な瞳が言葉を精査する。「後日、今日か明日にでもまた、話を伺う機会があるか…

巻き寿司の日6-1

「こちらに田所という人物が訪ねてきませんでしたか?」O署の刑事である種田は身分を明かす前にきいた。 「今しがた、裏口から出て行きました」 「そうですか」 「刑事さん?」店長は出て行こうとドアに手をかけた刑事を呼び止める。「フランス料理促進普及…

巻き寿司の日5-2

「私とあなたは違う」店主は首を短く振った。「同属と思い込んでいるだけで、私はあなたと意識が通ったなどと思いません。短時間のこれまでも、これからの何千という時間であっても」 「間違ってなどいない!フランス料理を手に入れて、あなたの料理は更なる…

巻き寿司の日5-1

「本物ですか?」店長は向けられた銃口の先をまじまじと見つめる。小川と国見は各自、身を隠しつつ、動向、これからの展開を固まった下半身で見守った。 「試してみますか?」拳銃を持ったとたんに浮いていた田所の重心が据わった。弾丸を目標物に当てる弾道…

巻き寿司の日4-2

種田は、絵画と死体に見切りをつけた。手元の端末を耳にあてる。 「はい」 「四丁目のピザ釜が目印のレストランだ、プラザビルの向い」 「わかりました」 「忠告だけど、そろそろ手を引くつもりはないの?」 「このままではおそらく処分は確定でしょう。ただ…

巻き寿司の日4-1

通話が切れた。しかし、こちらの声を聞いて相手は返答をしていた。わざわざしゃべった意味は、発覚を演出するためだろうか、種田は端末の番号を調べるよう、鈴木に躊躇なく依頼する。 「次の番号の現在地を追ってください」 「死体の端末?」鈴木は言う。 「…

巻き寿司の日3-5

田所を観察していると、やはり既存の枠組みを信じきっている。染み付いている、しみこんでいるが、しかし、それ以上にそこへ至る過程もまた彼の中では曖昧な記憶を辿っているに過ぎない。吸収しているときは良かったのだ、新しいから変化を楽しめた。新鮮と…

巻き寿司の日3-4

「信じられますかね、フランス料理ですよ、世界の主要都市で食べられないことはまずありえないフランス料理ですよ、その使用を自ら禁じてしまうとは、実に惜しい。あなたには才能がある、私が認めますよ。公認です、そうですね、年会費も無料にしましょう、…

巻き寿司の日3-3

「退会を求めた協会員が殺された、という事実を耳にしましたが、それについての意見を」 「どなたから聞いたのでしょうか?」 「あなたたちの側に取り込まれ、命の危険を感じた方です」 「柏木さんはやはりこちらに来ていた。もしかすると」田所は通路の奥に…

巻き寿司の日3-2

「用が済んだのですから、どうぞお帰りください。私も忙しいので」店長は背を向けた。冷蔵庫を開けて、バッドを中に入れる。 隠していた拳銃を引き抜いて、形成の逆転を狙うみたいに田所は伝家の宝刀を抜いた。「以前にあなたはフランス料理を作りましたね、…

巻き寿司の日3-1

「こちらに女性が訪ねてきませんでしたか?」田所誠二は店に入るなり、添削済みの質問を投げかける、ずるがしこい表情で従業員たちの顔を一人一人詮索するように覗いた。顔は店長のところで止まる。最後に正当な回答を期待したからだ、と店長は思う。つまり…

巻き寿司の日2-3

「あなたも入会をした、してしまったという方が正確でしょうか」店長はさらりと事実、確信めいたことを言う。 「落ち着いていられるのは今のうち」柏木未来はヘルメットを抱える。 「だったら警察に相談すべきよ」眉に皺を寄せた国見が提案する。 「相談?あ…

巻き寿司の日2-2

「館山さんを知っているのですか?」店長が訊く。 「さあ、名前までは。ただ、駅前の事故現場を通りかかって、仕組まれたのだと確信を持った。現場の目の前にフランス料理の店があったのさ、それがゆるぎない証拠」 「あのうですね、話の腰を折りますけど」…

巻き寿司の日2-1

「申し訳ありません、事情がありまして、今日からディナーの営業は休みます」感情をぶつけるように、決意を固めるように国見蘭は、入店した一人の女性客に堂々宣言してみせた。まるで、店長に向かって言っているとも受け取れる態度である。 聞いていないふり…

巻き寿司の日1-4

「ドアが開いていたので、中に入りました」 「あのさ、そこはさぁ、S市の管轄ってことぐらいは理解しているよね?また睨まれたら今度こそ、部署にいられなくなるぞ」 「指導や命令は、甘んじて後にいくらでも受ける覚悟です。ですから、まずは事件の解明を先…

巻き寿司の日1-3

ドアは簡単に開く。引っ掛かりもない。声をかけて、ドアを開ける。 そっと、伺いながら足を進める、光を遮断したために室内はブラインドからかすかに光が漏れていた。種田は椅子に座る人物を目にする。 「すみません、警察です」反応は返ってこない、種田の…

巻き寿司の日1-2

ドアをノック、外から覗けるタイプのドアではない。種田はドアをノックというよりは、叩くように音を鳴らした。大きな音も喧騒にかき消されている、背後の賑わいはまるでお祭りの神輿を見物しているようだ。 取っ手に手をかけるが、もちろんドアは閉まってい…

巻き寿司の日1-1

O署刑事の種田は鈴木と現場で解散して、S駅に向かうところを引き返し、事故現場の状況を改めて捉え直した。昨日の夕刻に起きた自動車事故は、一方通行の駅前通り、南へ下る斜線を逆走車が二条通りを左折し、個人タクシーが正面衝突を引き起こした。けが人は…

今日は何の日?9-3

「閉店していない、店は開いている。それだけ、これだけで人は店を認識する。内部の様子も伺うだろう、何かあったのか、もしくは今後もディナーは再開しないのかと。すべてをさらけ出して、懇切丁寧にお客に打ち明けるべきだと、僕は思っていない。突き放し…

今日は何の日?9-2

店長は反論が二人から起きないことを確認すると、作業に戻った。小川の休憩時に明日のハンバーガー用のバンズを商店街のブーランルージュに注文していた。小川のピザも念頭に入れてある。三品は欲しい。二品では悩まない、店先であれこれを悩む姿は、他のお…

今日は何の日?9-1

夕方、館山リルカから約三週間の療養期間を要すると説明を受けた店長は、営業をランチのみの体制に変更すると決めた。人員の補充を店長はまったく考えていない。ホール係の国見蘭はピークタイムだけでもディナーの営業を訴えたが、取り合わない店長である。 …

今日は何の日?8-5

「知ってますか?」館山は呟いた。「私がいえなかったことを店長が言ったんです、いってしまった。もう二度と私はそれをいえないように。ずるいですよ。いや、ちがうな、私は言わなかった、ずっとごまかしていたと思う。疲れましたね、私、安静にするように…

今日は何の日?8-4

「首は一週間ほどで、手首は三週間です」 「心配しなくても、給料は支払うから。レジの仕事ならできるだろうし、少ない人数でも仕込みの時間を利用すれば、短時間でお客の来店が見込めるランチのテイクアウトの提供量を増やす。品数もだ」 「すいません、私…