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2018-04-01から1ヶ月間の記事一覧

至深な深紫、実態は浅膚 6

「ホールの窓を通り抜けた、当日の会場にいた関係者すべてを警察は調べてます。ついさっき、会場設営を依頼した地元の業者から連絡を受けたんですよ、はい」 「現場に呼び出されたときに窓からの出入りと細工の可能性の有無は証明した、と私は把握してます。…

至深な深紫、実態は浅膚 6

「疑ってなんて、滅相もない。物理的にホテルとの往復は難しい、アイラさんの意見は正しいと思います。……ただですね」 「ただ、なんです?」 「マスコミにどの程度の情報公開に踏み切ったらいいものか、警察の動きによりましては、そのぅ月曜日の公演は、考…

至深な深紫、実態は浅膚 6

警察の執拗な取り調べを覚悟したアイラとマネジャーのカワニであったが、翌日、正しくは阿倍記念館からホテルに戻った当日のチェックイン後のロビーにて、警察は移動先のホテルと連絡先を聞くと、見事なまでに待機命令は下されず、出発は予定通りに遂行され…

至深な深紫、実態は浅膚 5

「会場に出入りが可能だった私とスタッフすべてに、ライブの撤収の際になんからの工作を施し、夜間に忍び入り、殺害を企て、偶然管理人に見つかり、施した細工で窓を屋外から閉めた。私たちはホテルに滞在していました、それを証言する人物はいません。ホテ…

至深な深紫、実態は浅膚 5

「たしかに、これでは難しい」カワニが素直に呟いた。盛り上がる形状、窓枠の際を飛び出すコンクリートが覆う。二窓は淡い光を帯びた程度で、不破の指摘も一理あるとアイラは認めた。しかし、要因はほかにある。アイラは足元を気にかけた。歴史的な建造物を…

至深な深紫、実態は浅膚 5

「ほほう。それはまた思い切った演出ですね」 「演出に普通も奇抜もありません」 「トリックメーカーですよっ、不破さん」土井が半ば怒ったように言った。彼はどうやらアイラ・クズミのファンらしい。トリックメーカー、呼ばれ方は登場する度に風貌が変わる…

至深な深紫、実態は浅膚 5

顔を上げた彼女に不破は蛇のように、またはカメレオンのように、皮膚の冷たさを視線に込めた。「何か、気がついた点があれば、正直に今のうちに話してください。後々になってしまうとあなた自身の生活が脅かされるかもしれない」 「脅しですか?」 「互いの…

至深な深紫、実態は浅膚 5

不破が頷く、私の反応を予期していたらしい、会話のやり取りを愉しむタイプか、ある程度予測を立てて行動に移す傾向、破綻をきたすと途端に立ち止まる、とも言い換えられる。アクシデントに弱い。堂々たるの立ち振る舞いや落ち着きは重ね続けた類似の経験と…

至深な深紫、実態は浅膚 5

着替える暇は与えられなかった。警察が部屋に押し寄せる、時刻は深夜一時あたり、数時間前ベッドに入ったアイラ・クズミは、マスターキーで開けたと目される怒涛の侵入者たちを片目をつぶり、寝ぼけた意識で見据えた。彼らを先に部屋から追い出し、わずかな…

至深な深紫、実態は浅膚 4

『彼女の前では、放縦な私が枷を設けたんだ、すると意外とこれまたどうしてか、世間が私に優しく振舞うの。今までのそっぽを向いた無関心を忘れたかのようにね。本来、人っていうのは、自分に神様みたいな啓示を与えていたんだ、それが内外の境目があいまい…

至深な深紫、実態は浅膚 4

『一発目が私でよかったのか、悩みましたよ、当然です。意外とこう見えて神経質なところがあるんですよ私にも。って、会ったことがないのですから、なにを言っても私の妄想にとられしまうので、前置きはこのぐらいにします。季節の、近頃の他愛もない、上辺…

至深な深紫、実態は浅膚 3 

「記念館の真裏からは出られないのですね?」アイラは裏には廻っておらず、右手ついさっき通ったコンクリート造りのパーゴラを前日に眺めて、左手はご利益がありそうな大木の洞を思わせるぽっかり開いた角の取れた外壁の穴を数分観察するに留まった。 「そち…

至深な深紫、実態は浅膚 3 

意識が逸れる、疲労の蓄積が主な要因。計十二曲の演奏だった。プラスアンコールの二曲。開演から一時間半を目処に演目は行われた、陸上競技で目にするデジタル時計をホール内に配置、私が見える位置、ちょうどお客の左後方に私だけが見えるように無理を言っ…

至深な深紫、実態は浅膚 3 

会場の雰囲気を読み取る感覚は以前に増して、感度が高まったように思う。探りを入れる前半の走り出しは低空で飛び出し、中盤から後半に多用する音の高鳴りに合わせお客の盛り上がりを上手く乗せた、と自負する。 自慢げに聞こえるだろうか、人はそうやって見…

至深な深紫、実態は浅膚 3

土曜日、午後二時開演のライブ。 演奏中にステージ袖で見切れる、マネージャーのカワニの表情は綻びっぱなしであった。最後の曲目(既にアンコールに入った)では、熱気に満ち溢れる記念館をアイラ・クズミは一人その中で、いや、一度照明の角度調節に姿をみせ…

至深な深紫、実態は浅膚 2

廊下、私が支配者。本体は見えずとも話し声は聞こえる。 スロープを降りる。 外気と戦って自販機となり、ベンチで読書に耽る男子学生。講義で見かけた顔だが、名前までは引き出せない、興味がない証。 そろそろだ、そろそろ冬だ、雪だと騒ぎ出す季節。 いつ…

至深な深紫、実態は浅膚 2

2アイラの曲を耳にした直後それはそれは、胸のつかえがすっと取れたの。映像だった、たぶん関東近郊の野外で彼女が伸びやかに無二無三の歌声で、雨の中、一人、たった一人で、それは、魂を削っていた。 涙が流れたの。浄化されていく感じだった。とても綺麗…

至深な深紫、実態は浅膚 2

図書館の一階、三辺を書棚に囲まれた狭い奥に長い閲覧室。過去の新聞がずらりと整頓、だからといって読まれるのは今日の紙面、大抵はスポーツ紙か全国紙、地方新聞や数日前の各新聞には目もくれないの。かく言う私もその一人。ではどうして席に着き、学ぶ姿…

至深な深紫、実態は浅膚 1

音を奏でるためには高音質で良好な環境が、耳に届けるには最適な空間が必要だろう。彼女は音についての考察に耽った。 屋外のコンサート会場もあるにはある。フェスなどがそれに当てはまるか。アイラは正面玄関を出ると、左手に回り、機材の搬入口となる会場…

至深な深紫、実態は浅膚 1

翌金曜日、うす曇と局所的に空が覗く空模様。 普段と代わり映えしない白いシャツと灰色のパーカーと薄く淡いジーンズ姿で音合わせに、アイラが挑む。望むという言い方は避けた、あくまでも公表してる通りこれは実験なのだ。誰がどう思うか、反響の度合い、返…

至深な深紫、実態は浅膚 1

ふらり、突き当りに到着する、きびすを返した。殺風景でありつつも厳かな雰囲気は、取り入れる様式が確立された概念であって、しかし体得そのままに造形物の構築にあてるのでなく、備わった日本式の素養を絡ませた、とアイラは感じ取った。 窓が悠々背丈を越…

至深な深紫、実態は浅膚 1

煙草を二本吸って、目指す会場に着いた。 彫塑的なコンクリート造は人や植物を思わせる、玄関の水平に伸びた庇はよく見ると五角形だ、奇抜な形に見えなかった。建物の材質と色合いそれと年季が主な作用だろうか、月日が鋭利なとげとげしさを取り去ったのかも…

至深な深紫、実態は浅膚 1

話は一ヶ月前に遡る。 縁遠い会場、人数の制限、一人一県一度きり。これらの達成目標を叶える会場であれば、古びたライブハウスも大歓迎、しかも場所は当日までこちらに知らせない、と私が提案をした。カワニは表情と態度に受け入れがたい心理を表していたが…

至深な深紫、実態は浅膚  1

十月二日木曜、天候は艶やかな秋晴れの青。空が高い、空気がおいしい、と口にしたくはないが、長引いた東京暮らしを言い訳に、ついうっかり無意識に口をついてしまいかねないのだろう。しかし、私には抑制が働く。 空港に降り立つ、ギターは機内に持ち込める…

白い封筒とカラフルな便箋

「アイラさん、厄介な事件でしたけど、犯人の目的は何を求めた行動だったのでしょうかね?」しみじみとカワニはこぼした、喫煙室の透明な壁と天井の境目を首の角度から、彼が見つめる場所を推考した。灰皿の支柱を避けた彼の両膝が女性特有の仕草と重なる。…

白い封筒とカラフルな便箋

「僕を見くびってましたね。なんと、驚くなかれ、実は生放送の一週間前から放送予定日と時間をずーっと二十四時間サイト内のトップページで告知してくれるって言うんです。やるときゃやりますでしょう、僕も」 「そう」 「あれっ?なんか、こうよくやったと…

白い封筒とカラフルな便箋

「関係者全員にインフルエンザの予防接種を義務づけます、感染者がゼロだったツアーは偶然をすり抜けたに過ぎません。私を除く何人が事前にその危険性に気を払っていたか、おそらく二名が妥当な数字でしょう」 アイラは一瞥、カワニははたと我に返って、上半…

白い封筒とカラフルな便箋

ブースを先に出た彼はドアを押さえて、三つ目の書類内容を再確認、内容説明を告げた。 「これがもっとも受けいれてもらえるのではないでしょうかね。ライブツアーのことには一切触れません、と先方から言ってくれました。海外のメディア、僕は正直知りません…