コンテナガレージ

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 車から降りて周辺の散策を開始する。早道という名前は歴史上の人物で聞き覚えがあった。家は豪邸よりも屋敷を想像した、歴史書や教科書の類で読んだ、あるいは聞かされた名前である。電柱の住所表示を確認する、手元の住所と見比べる。うーん、まだ距離がありそうだ。足を進める。いきなり番地が増えた。よくあることだ。ここがどうやら境目らしい。すると、道路に即した方角のどちらかに歩くか。調月は行き着いた通りを左折して公園から離れる位置取りを目指す。この近辺は住宅地として開拓された場所だろうか、かなり平坦な立地である。また、古くからの道とは思えない、私が歩く縦の道路に並行した道が伸びていた。かつての道を残しつつ、宅地開発を行った、ということだろう。学校を行き過ぎる。小学校だ。まだまだマンションの移行に至らない住宅の数、数十年後には学校の規模も縮小すると思われる。生徒数の少ない学校をメディアは取り上げるが、これからはそういった環境は当たり前になるのかも、または学校に通わずに授業はネットを通じた自宅での取り組みに移行することも場合によっては考えられるか。誰の心配か、調月は無意味な考えを呪い、浄化、焼き尽くして捨てた。

 川面の真ん中に草が堂々と生える流れの乏しい川だ、橋を渡り、風景が住宅地から畑に移り変わろうとする場面展開に、頑丈に外部と隔絶を決め込んだ風格のある屋根が、緩やかに傾斜した低地に捉えることができた。屋根と二階の窓が視界に入る。面白い。見渡しても屋敷以外は畑である。道の先は交通量の多い道路にぶつかり、車がひっきりなしに通過しているが、こちらへ入ってくる車の数は高が知れている。今日が、祝日であるからその量も多いのだろうけど、平日ともなれば、想像は容易い。

 調月は見上げるような高さの門にたどり着いた。住所を見比べる。まずは息子を面会の代役に抜擢した人物の顔が見てみたかった。多忙は明らかである。しかし、それでも土地が欲しくて息子に頼んだはず。調月はインターフォンを押した。門の右側にはくぐって入る小さなドアがある。

「はい」女性の声、比較的若い。

「調月と申します、早道さんはご在宅でしょうか?」

「どちらさまでしょうか?」マニュアルどおりの抑揚のない声。取り合わないのが人を追い払う鉄則と学習済み。