コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 4~無料で読める投稿小説~

「エコノミーのお客とチケットを交換した、またはまったく別の人間にチケットを売り、搭乗を譲った」種田は疑問を投げた。
「エコノミー席のチケットはパスポートの発行期日が数ヶ月以前を基準に販売許可を設けた。転売を防ぐ目的です、新規発行のパスポートに載せる顔写真を当人とは別の顔、搭乗者の顔写真として登録を済ませた成りすましの行為に待ったをかけた、そうまでして搭乗を願う人物はこちらからが拒否を示す。また、私を介した大掛かりな商売、その機会を取り除いた。労力の分、権利は守られたと自負してます。とはいえ、例外が多数乗り合わせていた可能性はあなた方が強めてしまう、低価格の旅費につられた人物がめざとく私のサイトを掘り当てる。販売開始から数十分でチケットは売れた。短時間においてあなた方が手に入れられたのですから、他の方々も当然購入する機会に恵まれたでしょう。もしも仮に交換相手がみつかったとしても、搭乗すら許されない事態も発生しかねない。良い席を望むあまり、観戦の機会を剥奪されてはたまったものではない、それだけは避けるべきだ。一度きり、私のライブに詰め掛けるお客ならば承知のはずですからね、公演は一度きりだと」
ビジネスクラスの乗客がチケットを譲る、これについては説明が不足してます」
「犯人はエコノミークラスの乗客ですので」
「どうしてわかるんですう?」カワニがきいた。
「警察、保安員たちが乗り合わせるフロアが必須の要件なのです」
「刑事さんたちの搭乗を計画の一部に組み込んで、行動を起こした、そういうことですか?」
 アイラは腰を上げる。ギターをスタンドに立てかけ、席に座りなおした。あらかた曲は出来上がる、構成に沿った通し演奏が次の作業。このまま、彼らの相手と同時は曲の製作に支障をきたす、彼女はいち早く作業に戻りたい、そのために身に降りかかる瑣末な呼びかけに応じた。
「警察と保安員にフロア内の監視役を一方的に与えた。すると、死体は私たちのフロアで動かぬ肉体に変容したことになる。犯行を短時間それも人の目を盗む数分以内に、というのは非現実的。ところが現実は死体を私たち見せつけた。考えられる方法に、フロアへの監視が始まる以前に、つまり乗客の搭乗前に死体は荷物棚に運ばれた。ところが搭乗客と客室乗務員やパイロットたちは規定の人数が確認されている、増減はなかった」
「航空会社の関係者たちの共謀による犯行」種田が鋭い指摘が飛ぶ。
「死体の身元は私を陥れるためだったのでしょうか、聞いたところでは私の仕事に関連した人物だったようですね。国民の共通意識下を介して私への恨みを晴らしたい、外堀を埋めようと画策、実行を試みた。しかし、改めて今振り返るとどうにも中途半端な犯行と言わざるを得ませんね。死体を作り出す余裕と時間を有しておきながら、私を犯人に仕立て上げる証拠には無頓着であった。指紋の一つ、毛髪の一本を死体に忍ばせられたはず。ええ、だからです。あえて曖昧な状況を好んだのです。そうすることで事件の確定を遅らせる。指紋の検出・採取はありえません、人材も器具も揃っていなかった。そうして不確定な状況と死体は航行を続ける決断を機長に取らせた」

論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 4~無料で読める投稿小説~

「確認します」もう一台、端末を彼は取り出す、鞄がバランスを失って倒れた。「……販売数と搭乗者数、決済の人数は、共に、同数で処理されてます」
「保安員を名乗る十和田、という人物はどのように登場を可能としたのか。彼も事前の登録をたまたま済ませていたのか、もしくはライブ観戦のお客であったのか」
「考えもつかなかったなあ、その見方は」カワニが呟いた。
「具体的におっしゃってください、意味が通じる言葉での会話を求めます」種田がいった。
「誰が好き好んでただのビジネス席をエコノミーのお客と代わるって言うんですか。刑事さん、誰だってゆったりしたシートでアイラさんのライブを見たいに決まってます」
「そう」アイラが話を受け取った。彼女はまだ壁を見つめる。「誰もが高額な席を譲るはずがない、実に短絡的な思い込みです。別にカワニさんが劣っている、という発言ではなく、一般的な感覚であるという意味です。とはいえ、通常の感覚を逸脱するにはそれに応じた理由が存在する。通常のライブでも良く耳にするクレームです」
「距離の近さ」送信口に口をつけているのか、ノイズが入った。しかも、返答はすさまじく端的に述べられた。
「ライブにおいても見上げる角度がきついとして、背の高い男性には犬猿されがちです。二列目あたりがもっとも見やすい。方や小柄な女性では前列は窮屈な首の角度からは軽減される、絶好のポジションといえる。しかし、私の定期ライブの会場はライブハウス、スタンディングによる観戦を求めます。体格に劣る女性は背後の圧力に押しつぶされ、気分を害する人も少なくはない」
「余談がすぎる」種田が先を急かす。しかし、アイラはペースを保つ。
「余分な語句を並べ立てるほど暇をもてあます、そのように感じられるとは心外ですね」
「さっさと結論を述べないからでしょう。当然の要求だと、こちらは思っています」
「見やすさ、背丈に応じた座席を当てはめた場合、私の立位置が重要性を増す」アイラは目を閉じて、曲を描く。声は自動的に刑事へと放たれる、考えつくした、一度解いた知恵の輪に挑む。「通路の先頭に立つことは予測できるでしょう、フロアの最後部では後頭部で音を聞かせてしまいますし、通路の中央ではギターや歌声が息のかかる、唾のかかる近い距離で届いてしまう、望ましいとはいえない。よって、私は左右どちらかの通路、それも先頭に近い位置にて演奏に取り組む。では、席の交換を望む、これは可能であったのか。ビジネス席のお客たちはチケット会社を通じて本来観戦する予定だった公演のチケットを得ていた。ライブはスタンディングであり、会場入り口に並ぶ列の順に人気の位置が決まってしまう。そこで入場待ちの列を会場の一時間前に定め、スタンディングの位置取りをチケット番号ごとに割り振る。ライブハウスの協力により平等性を確保した。このように、手にするチケットに応じた立ち位置の法則性は取り扱うチケット番号が唯一、区分の対象に引きあげた。機内の座席も同様にチケット番号ごとに割り振られそうですが、これもまた数字とアルファベットのランダムな組み合わせです。予測を立てて好みの席をビジネスクラス同士が交換し合う、あるいは金銭の上乗せによる取引は起こりにくく、その行為は無意味に等しい」

論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 4~無料で読める投稿小説~

 待ち焦がれた顔で出迎えを受けた、しばらくさきほどを離れた、簡易な食事を食べた、遠慮なく差し入れを摘んだ、驚かれた、昼食を抜いた事実を告げた、もっともだ、ありえない、たまにある、朝食は食べる、ジュースは飲んでるかも、差し入れも、甘いものそうだ、だが一人だとどうだ、深夜とか閃いた時とか、多様性に富む意見はどれも彼女とそれと合致には至らず。
「逮捕されたmiyakoさんが犯人に違いはないんでしょうけど。……機内の死体のことも説明したのですかね。いえ、事件ついて話してたのです。はい、ええっと、いやどうでしょうか、それは難しいとは思いますよ、はい、無理にでも、はあ、知りませんよ、機嫌を損ねないようお願いします」カワニはこちらに許可を求めた、端末を片方の手で覆う。
「刑事さんです、事件についてアイラさんに聞きたいことがあると……、どう、します?」
 女性の声がコーラスに欲しく、彼女が呼ばれた。数分の音入れ作業、二度目で退出の許可をもらった。事務的な手続きはカワニを通じて、と早々と上階を去って自室のように使うスタジオに引き戻り、問いかけを受けた。まずはコーヒーを追加、栄養補給のクッキー一枚奪取、作業机に腰をすえて漫然とPC画面を眺め、それからアイラ・クズミは答えた。「勝手に耳に入る程度ならば、許可します。返答は約束できかねます」
「だ、そうですが。ええっとでは五分で、はい」カワニはいう。「スピーカーに切り替えましたよう」
「歌手のmiyakoは先日、自ら罪を認めた。機内における死体の出現への関与は認める一方で、殺害、搬入等々の詳しい手順は頑なに説明を拒む。捜査を外れた身分です、私たちは部外者である、たわいもない独り言と受け取りつつ、投げかけた内容を聞き役のオウムが性質を破って言葉を返す、もてあます暇を埋める気分に駆られることを祈るばかり。決して強制ではない、そのことはあなた方への連絡は私の端末をそちらのマネージャーが拾い上げてくれたことに端を発します」
 野外ライブの会場、それもカワニの視界、気を引いた場面を狙い打つ。瞬間的に判断を下した、どれも却下。偶然カワニが女性刑事の端末を拾い上げた、とアイラは思う。その場に居合わせた彼女の行動理由は狙いをつけた対象者の見張りだったのだろう。
 女性刑事の種田は続けた。「miyakoに手を貸した人物たちが機内にはいたかどうか。そのことについて意見を」
 思考の半分を作曲にもう半分を事件に器用に割り振る、アイラは言った。「一方的に言葉を飲み込む。反論に打って出るオウムは存在をしない、そのことを認めてから話します」言葉はすぐに返る。
「認めます」
「従順」、とカワニが口を滑らせた。高感度のスピーカー、音は相手に届いただろう。アイラはギターのストラップに手をかけて、ギターを引き寄せる。椅子が軽くしきしむ。
「はじめに言及しておくと、miyakoさん、という方は犯人ではない、と私は捉えます」間を空けて反論を待った。よく堪えている、アイラは続きを話す。「見当をつけた、あなた方の自由でしょう。私の予想ではあなた方警察の方針は呼び水、という罠を仕掛けることで辛うじて犯人の捕獲に成功した。機内の不可解な死体、この一点の材料では不十分であった。実際にその現場に居合わせた私、そして最後まで自分たちが搭乗していた事実を隠したがり、それを聴取まで突き通す態度は矛盾を感じるばかり。刑事として、その背後の警察の権威が揺らぐのでしょうから、ええ、仕方ありません。組織とはその程度の、外乱に常に晒される」アイラはPCから木目が目立つ壁へ焦点を移し変える、目の保養。「機体に登場する保安員はツアーを企画する段階において議論には上がらなかった。知られては、本来の役割を果たしません、私たちが犯行に及ぶ可能性もあるのです。すると、誰かが保安員の搭乗を知っていたことになる。機長か、副操縦士、客室乗務員、犯人なのか。チケットの販売数に増減はあったでしょうか、カワニさん」アイラは尋ねた。

論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 3~無料で読める投稿小説~

一人納得したアイラはコーヒーを、そして目の前のうすべったい薄茶色の栄養を口へ運んだ。
「僕らのところへ移れたとしても」カワニが確かめるように呟く、視線はテーブルの何もない天板に落ちる。「演奏前の、死体を見つける明るい時間帯の出入りにはやっぱりクレームは付き物ですよ。お客さんだって一言アイラさんと言葉を交わすことは夢見てた、一人が許されるなら、私もって、客室乗務員にお願いをした人だっていたでしょう」
「彼女の犯行は不可能だが、認めざるをえない、そう聞こえます」
「刑事さんたちのニュアンスだと、腑に落ちない様子、いや口調でしたからね」カワニの口腔内は休む暇がない。線で描かれた笑みを刻む丸い形が次の獲物。二口で消える。「シークレットゲストで歌った野外ライブのちょうどあの時に、新たな被害者を救出したそうなんです。犯人を特定したきっかけは被害者の証言が元になっていてです、犯人はしっかり顔を見られていた、確証があったのでしょう、見つからない過信が足を踏み外した」
「停電は意図的に仕組まれた」
「違いますって。停電が起きたから、被害者を倉庫から探し当てられたんです」
「いいえ」アイラはきっぱりと否定をした。「犯人の狙いは停電と演奏の中止です。シークレットゲストの登場、つまり私に対する嫌がらせ、演奏をさせたくはない、そのような心理。と同時に死体が会場内で発見される。発見の手順も踏んでいたのです。しかし、私が演奏を始めてしまった。詰め掛けたお客は私の登場を知らされていない、後日、あの時のゲストはアイラ・クズミで、会場で死体が見つかった。そういえば、アイラ・クズミには飛行機内でトラブルに巻き込まれた。噂が立つ。あれはもしかすると真実ではないのか、そうやってもう一人の被害者の登場により、私への疑いを噂の範囲内から詮索へと欲望の昇華を狙う。時節に任せ、時折あらぬ噂を流せば、暇な人物たちが事実無根のそれらしい過去を勝手に作り上げてくれる。ええ、じりじりと私の体力奪う策略だったのです」
「アイラ、ひとつ仕事を頼まれてくれない?」エンジニアのキクラが手招きした。ドアの隙間を人はよく利用する。
 カワニの、追加で寄せられる質問が予測されたので、いい機会である。アイラは内容も聞かず、二つ返事でスタジオを出た、。カップをひとつ、手に抱えて。久しぶりに上階に上がる。
 外はそろそろ暮れようとしていた、エレベーターを待つ合間を移り変わる色とのコンタクトに費やす。
 エレベーターを待つ時間に考えるべき課題を設定しよう。時間を有効利用できるだろう。積み重ねるこの短い時間もいつかは一時間となり、一日、一週間、十日、一ヶ月となるのだ。