コンテナガレージ

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手紙とは本心を伝えるデバイスである2-4

「思い知ったらそれまでのこと。改善点が見てくるではありませんか。立ち止まっていられない、むしろ次の行動を示してくれたのです。私を止めることなどはできない」

「芸術家を束ねるのが、面倒に思えてきた」重役は突如、いいや、本来の姿勢、手のひらを返した。「私は元々が外部の人間、会社のいろはを知らない社長によって引き抜かれた人材だからね、社長のように芸術やガラクタに価値を見出し、生み出す人間を認める懐の深さは持ち合わせてない、残念ながら。しかし、仕事だ。しょうがないから、取り組んで、君にまで頭を下げているのさ」

「同情を誘うつもりですか?」

「こちらの手の内を見せて判断を、決めてもらおうとしたのだよ。それなりの見返りはここに用意している」重役はおもむろに仰々しく懐を叩いた。また口元が片方だけ斜め上に引きあがる。

「足りませんね」

「冗談だろう?」

「いいえ。口を止めるのですよ、一生の口を。数か月分の給料と見合うとは思えません」

「録音させてもらった」重役はスーツのポケットから細長い録音機を取り出した、新しい道具を掲げるみたいに。

「非公式な情報は違法で証拠能力はない。しかも、あなたの提示に私はまだ受け取るとも、そして受け取ってもない」

「既成事実とは、現実に起きなくとも噂としての評価はつくのだよ」重役は重そうに、体重を増した体を持ち上げる。そして、見下げる視線。「手段を選んでいる余裕はないのだ、君には公表を控えてもらいたい。これは命令であり、会社の方針だ」

「同意しかねますね。まあ、いいんでしょうけど。どうせ警察の許可が下りるまではここを出られません」

 重役は組んだ腕から覗かせた指でPCを指し示した。

「書き込みの心配ならば無用ですよ。外部の機関に繋がる場合はその利用をPCが監視します、ご存知ありませんでしたかね、外部に情報を漏らさない機構はあらかじめこうして構築されているのですよ」

 重役は不慣れな指摘に、感情の制御にタイムラグ。 「内容は伝えた。とにかく、その口を今日まで閉じておくよう、お願いします」

 久しぶりの訪問客にしては、饒舌だった。最後に態度が豹変したのは、少々楽しめたかもしれない。

 武本は忘れていたようにイヤフォンを取り付けるが、仕事は終わったのだから、と自らの自然な行動を笑って、回転する円盤を止めた。