コンテナガレージ

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手紙とは本心を伝えるデバイスである2-3

「私に頼まなくても殺された事実は公に知られます。警察の発表とわが社の説明に食い違いが見られることのほうが、問題を誘発する。それこそ契約は解消されかねない」

「いや、知らなかったことを装うつもりだ。指摘があって、社長の死にかかりっきりでそちらへの対応を忘れていた、と弁明するつもりだ。どうだろうか、無理があるだろうか、君の意見を是非聞きておきたいんだ」座りなおした重役は前のめりに体重を傾けた。

「私の?ご冗談でしょう。経営に関してはまったくの素人ですよ」

「君の意見が好ましい。社長は生前に君に仕事を任せ、デザイナーの仕事と取締役のポジションも与えるべきだ、そういっていたんだ」

「それは初耳ですね」武本は組んだ足を解いて、両足を床につけた。

「社長とは親しい関係だったことは、我々は知っている」探るよう、重役の顔が若干斜に向いてざらりとした印象を顔の陰影に添える。

「公表されたくなければ、こちらの要求、ええっとなんでしたっけ、明日まで黙っていることを約束してくれ、と」面白い、顔がにやけて、押さえ切れなかった。失礼に、馬鹿にしたように見えただろうが、お互い様だろう。笑っていようが、丁寧な言葉で無理な願いを強制することも。「まったく面白い思考回路だ。弱みを握ったつもりでしょうが、まったく私には影響しませんよ。だって社長との間柄はそちらにもダメージが生じるのでは?」

「君が無理やり誘い、関係を迫った。事実は確定している」

「なるほど。嘘を固めたのか」

「事実だ。会社の発表がすべて。悪いことは言わない、君はまだこの会社にいたいだろう?」誘うような目、反して引き攣った口元、浅黒い皺のよった目じり。染み付いた卑劣な交渉の運び。相手を出し抜いた狡猾さ。目がものを言うとは、つまりは見てきたものの差が如実に現れるのが、外部との連絡役の瞳なのだろう。武本は思考が働く。

「未練はありませんよ。独立の資金は十分に蓄えさせてもらいましたし、それに他の場所で働く意味も私には見出せない。ここへの在籍はたんに私を高めるために利用していたまでのことで、関係性は人間関係のような曖昧で複雑に絡み合った情意のもつれもまったくです。お望みなら、今すぐにでも着の身着のまま私がここを出て、明日出勤しなければ、会社との別れは成立する」

「冗談ばかり並べていられるのは、この会社にいるからということを独立後に思い知るぞ」凄んだのだろう、しかしまったく動じない。大きいとさえ思えない。状況つぶさに観測、相手の言い分は、怒声を用いた恐怖。