コンテナガレージ

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手紙とは本心を伝えるデバイスである3-2

 そうだ、社長が亡くなったのだ。

 トレーをもって、席を探しつつ、社長を死体を目の当たりにした、直後に食事を取ろうとする自分を客観的に見て、不謹慎だろうか、という概念が浮かばなかったことに、安藤はありがたみを感じた。通常ならば食事も喉を通らないのだろうけれど、もちろんそういった感傷的な心情も持ち合わせてはいるが、私にとってはそれは単なる日めくりカレンダーのような出来事で、予測するに明日になっても同じように泣きはらすことが適わないのなら、現在の私を尊重するべき、と考える。もちろん、悲しい。だけれども、それと私の生命活動は一体ではない。密室でこれから次に殺されるのが私の番で殺人鬼に追い詰められたら、それこそ食べる気力は湧いてこない、湧くはずもないが、ということだ。

 席に着く直前に、男に手招きをされた。くいっと、子どもを呼びつけて用事を申し付けるような仕草。刑事である。まだ、応援の警察は到着していないのだろうか。安藤は急速に回転しつつあった頭の働きを抑えるために刑事の誘いに乗った。逆回転の作用で前に進む勢いを殺せると判断した。

「どうも、どうも。休憩ですか?」陽気に刑事は向かいの椅子を、花見の席を取っていたように勧めた。

 刑事の対面に座り、安藤はグラスのお茶を一口飲んだ。「ええ、見ての通り。ここでは仕事は禁じれています、食事と仕事は切り離さなくてはならない、うちの決まりです。刑事さんは暇そうですね?」

「それは、武本さんにも言われましたよ。皆さんやはり感性は同じベクトルを向いていらっしゃる」

「私とあの人では雲泥の差ですよ?」

「デザインに差があるのですか?」

「うーん、いえ、訂正します」少しだけこの刑事との会話が楽しくなった。言葉も意外と素直に口をつく、普段ならばもっと壁を作ってその隙間から声をかけたり、応じたりするのに。

「お疲れの様子でした、入ってきた時にエレベーターで人とぶつかっていた」

「見てたんですか。ええ、ちょっとオーバーワークです」

「大変ですね、こんな時にも仕事は待ってくれない。その点、我々は待たせる側の人間ですから」

「いつもお一人で行動を?」安藤はきいた。

「原則は二人一組。今日はたまたま事件と無関係の用事の途中で呼び出されたのです。それよりも」刑事は言葉を切って、話題を切り替えた。「社長室へは以前にも行かれたことはあるのでしょうか?」