ナツは部屋の隅、ソファで待機。不測の事態の備えて居座る。端末を手に指先を器用に動かしていた。
慌しく、人の出入りが活発な楽屋、アイラはテーブルに向き直り、何気に一点を見つめる。
セットリスト。
状況を端的に述べよ。
ライブ。
歌を歌う。
一人。
ギターの演奏。
ギターのチェックはまだだった、最終チェックを行うべき。
会場はかなり狭い、いつもと比べての感想。
一階と二階、三階席、上から見られてる意識が必要。
今日は雪。
会場に足を運ぶだけでも疲労は蓄積。
歌は徐々にテンポを上げる。
ミディアムに飛んで、一度逸る気持ちをテンポの速い曲で連れ去る。
そして、ミディアム、ゆったり、疾走。
終わりの二曲は、別れと出会い。
アンコールは歌わなかった曲、二曲を選出。
そのときに選ぶ。
アンケート。
どこで区切ろうか。連れ去ったあたりがいいだろう。
「開場が始まりました」、スタッフがアイラに呼びかけた。カメラの映像が、見えた。アイラは、椅子の背に腕を乗せて背後の画面を見入る。肩口に払ったはずの雪が残る、これは受付の映像。リモコンで変えられる事を、スタッフは得意げに告げるとインカムに返答、廊下に消える。
映像に見入って、残り二十分をきった。
ギターのチェックにアイラは席を立つ。それからはもうギターは肩にかけたままだ。水を手に一本持ち、発声は行わない。