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 あいまいな「大丈夫」では物足りない。はっきり「許す」がききたくて 1

 白に塗り替えた内装、自動扉(door)の一枚外側に鎧戸(shutter)、導き光床に一筋二筋陽が漏れる。倉庫を思い起こす。罪悪感と身を寄せた「明るくなければ」は、体内で最高域(peak)を迎えた。立ち上り、霧散。煙草の煙みたいだ。種田は日本正(にほんただし)の吐露に聞き入る。声は読経なる形態さながらなよなよ腑抜けを故意(わざと)か持続したがる。滑らかでは不十分突っかかるのかというと、それも不適格。言葉を選びつつ速度に変化が生じてしまう。

「妻は失踪しました。嫌気が差した、もしくは研究心が再燃した。本心は当人のみぞ知るのでしょうな。過去の一時の決意を覚えているとは到底、確実に忘れてる。私ならば研究の外記憶はさっぱり就寝の度だ、整理は多少配置換えに冷徹せしめる排除という整頓を習慣とする。不要な記憶とは縁を切るのですから眠れるとき、研究の成果と明日の課題の整理に脳を専念させます。批判的な意見を述べますよ。記憶にとどめても結構、社員へ言いふらしても構いません、許可します」

「事件解決にとって有益か不利益か、私の判断基準は単純で明快。また、あなたと同様部署の同僚、上司に関係を限る。仕事以外での会話強いて云うなら大型用品店(スーパー)の会計が能(よ)く々意思疎通を行うでしょうね。財布に収まる会員証(card)は目ざとく見つけてやり加算(かさ)なる点数(point)の切に願う、もしくは教授による親切心を抱かせ後日の買い物に当該店舗を利用してもらう魂胆かは、どちらであろうと過剰な接触といえてしまう」

「気が合いますね。電子通貨(money)の普及にもcard(カード)を待近(かざ)す適時(timing)と電子通貨(money)の使用を告げる不要無用なやり取りの改善に努めなくては、介在する人間の対応が今後課題となるでしょうな」

「話題が逸れてます」種田は咳払い、空気が乾く、声を整えた。「届出を躊躇う、刑罰には処されません。とはいえ、あなた以外奥様の両親・親類への説明は、天涯孤独の一言が片付ける。ゆえに、あなたは届け出ず自生に問い自らの承知承諾を得た、と理由を固めた」

「人員を割く事例(case)と見なし、担当の捜査員は数日から数週間の捜索期間を設ける」昼下がり薄暗い地下を思わせる空間に先端の赤い玉はわずかに存在のありがたみを童話で、幻想の世界を呼び出す灯りとは似ても似つかず。たとえるなら、真暗闇(まっくらやみ)から明りの漏れる空間に押し出されたその時である。彼は言う。「刑事さんはなぜ私を捜査の対象に据えたのか、しかも管轄外の捜査員とあなたはおっしゃる。思い浮かぶ愚答ばかり、ああ……目詰まりの正体」千切れるよう日本は首を振った。かと思うと窮屈な角度で止まった。

「S駅の殺傷事件はご存知でしょうか?先月末の五月二十七日の午後十一時四十五分頃に発生した事件です」

「読みたい活字は新聞以外であった。本日の天候を窓から取得できますし、気温は体に訊く。遠出にはさすがに気温と天候は調べますよ。不要な情報でも知っていなければならない類のものは、たいてい接触を断つ生活へ抜かりなく進入を許してしてまうのです」

「要するに知らない」

「『ない』は止めていただきたい」

「不可能を誘発しかねない、からでしょうか?」

「ええ、あなたのように区別した使い分けに長じる世の中であるはずがありませんので」

 種田は思いついた疑念をぶつけてみた。低い確証、通常は控える浅薄な行動だが、背に腹は変えられない、彼女は本日限りで単独捜査の終焉を迎える。上司に追いつき、『エザキマニン』店主の推理は金輪際聞くに堪えないと言い聞かせたのだ、然るに、彼女は語気を脈絡なく強める。

「あなたは事件当夜どこにいらっしゃいましたか、形式的な質問です」

「それにしては圧迫感が強い」煙が細く棚引く。もう一つの媒体を通じて、心象が表れたかのよう。煙はそっけなくそれとなく振舞う。

「言えませんか?」種田は再度尋ねた。可能性の一つを潰す、これでいい、考え方を変えた。

「ここにいましたかね、私一人で。今日とは言わずここ数週間は毎日最上階で寝泊りしてます」

「奥様は雨合羽(raincoat)をお持ちでしたか?」

「さあ」不可思議に日本は首をかしげただろう。「私と一緒で洋服に無頓着ですから、傘を差すのに雨合羽(raincoat)が必要である理由がそもそも私には理解しかねますね。外套(coat)が何か?事件に関係でも?」

「『エザキマニン』という洋食店はご存知ですね?」

「決め付けた言い方ですね。ええ、存じてます。ああ、そうか。私の好者(fan)ですよ。『する』『しない』を履き違えた私の付回輩(stalker)です」

「あなたのために行動を起こしたと?」

 白衣(はくい)の裾がはらり膝へ遠慮なさらず時空間(space)を空け、渡す。彼は受け取ったままの携帯灰皿を種田に返すと、音もなく腰を上げた。四m先の壁へするり背中の吸盤を吸い付けた。まるで自然(じねん)に付いてる。うん、見えた。喉を落とし彼は言った。視線はどこか異国、遠き彼方想像の世界へ。幻想や夢の中にある現実を私は眺めているのかも。日本正は彼を振舞う。ある意味でこれはこれ、正解である、共通する一致点は認めてやれる。おそらく、うんんや考え足らずの同姓はこれを恋と位置づけた、言い切るさ、私もこの人が私であるように思えてならない、むしろここに居る目線の低い者こそ一体どこの馬の骨なのさと詰寄りたくってたまらない。思い込みたいのだ、似ている、そっくり、瓜二つ、片割れ。ないがしろな自身を補いたくてたまらない。かつては二つだった。引き裂かれ互いを求める。誰かが書いていた内容だった。 

「礼状をお見せしましょう。刑事相手に偽造の書面を見せる度胸などあるようにみえますか?」

 応答を返す前に彼は言った。いつも持ち歩いているそうだ。方々でするとだ、付回輩(stolker)が迷惑行為に好き勝手に触れ回るというのか。しかしknife(ナイフ)の売却に激怒し尚且つそのknife(ナイフ)が殺害に使用され憤慨を意見したその者は先ほど取得した『エザキマニン』の情報が見做(みな)す、knife(ナイフ)を以前からたびたびくすねていた数人のうちの一人と。付回輩(stolker)がknife(ナイフ)の売却に怒り狂うはまだ許容の範囲だが、使用されたと思われる凶器と頚部の切断は市民に知れるよう公表を許可していた、そこへknife(ナイフ)が凶器だと言いがかりをつけた。おかしいではないか。

 礼状は本物である。

「疑問があります」種田は受け取る日本を見上げていう。

「私が好意を抱く対象としては顔の造作が未完成である」

「いいえ」種田は冗談を一蹴する。「付回輩(stolker)はなぜ凶器を骨董(antique)のknife(ナイフ)だと断言が可能だったのでしょうか?」

「knife(ナイフ)?凶器がknife(ナイフ)なのですか?」

「ご存じないと?」

瞬く瞼の開閉は二人合わせ数十回を軽々超えた。

「『ない』の訂正を」彼は遅れて訂正を促した。本心だ。だが、それでは話がちぐはぐである。彼を救う失態の取り返しに凶器はナイフを流布し果されずの上回る売上げを今度こそは、付回輩の接触に見舞われた予測に反するのだ。想像(おも)いに吐いた口がそれこそちぐはぐ。

「付回輩(stolker)はあなたを救うべく『エザキマニン』で日常に使われる食器を密かに隠盗(くすね)ていた。営業妨げ、他所へ火種は燃え広がりませよ、延焼を見越す。内装から食器類、家具と入退店に出会う外観は総一式(total)の佇まいを目当てにあそこへ通う、居所地位(status)。取材を固辞する、あそこは一種独特選ぶ甲斐のあらむ、興味を触発(そそ)る対象であった。そこへ名もない偽の食器、摺り替えた品物が紛れ込み、何かしらのきっかけを用意・合図に一芝居打つつもりだった。が、発動を前断りもなし食器は売却されてしまい、未消化打続く怨怒(おんど)は余り一日の火を落す店内へ討ち入り、騒ぎ立てた。無断売却を罵倒これと用途外(ようとがい)因(よ)りに因(よ)って殺害に使用、怒りをぶつける。ここでひとつ疑念が、。売却をありえんとした蔑ろへは妥当性を多分に帯びる。対して名高く目の養う有難き食器の補う殺人、腑に落ちません、先見をそれどころか後世(のちのよ)に証明してみせた。異名を、あの店主ならば飾り、使用済みを展示することでお客へは安堵を届ける。ええ、付回輩(stolker)は殺人に類する事件を同様の凶器を使い、起こす予定であった。その可能性は残されていますが、先ほど聞いた話は犯人は店主であるなによりの証拠に骨董(antique)のknife(ナイフ)を引き合いに出す場面を再現していました」

 日本正の困惑振りは考えながら説明と解釈を加える種田の発言内容に起因をする。当人も些か当惑し、しばらくの間を空く。叩かれる鎧戸(shutter)をあわよくば欲した。鎧戸(shutter)本来の姿にがらがらあやどしゃどしゃびっしゃんなる開閉と殴打さ、もしかすると蹴魂(けたたまし)い音を我(わが)内部で作り出していたのかも、彼女は考えた。あらかじめ、事前に。着替えは枕元に用意する。

 不意を突いて言葉だ、そのとき宙に浮いた。鷲掴むも、手のひら逃げる。

 引(ひっ)鉤(か)かる印象が手招き、いたずらに微笑む。捉えたい。想像(image)は不得意だ、具現化しようと近づくも人影(かげ)のようそれはすばやく逃げてしまう。じっとだ、黙っていよう。

「わかりました」日本は目を細めて言(い)った。口元はきつく固く結ばれた。いびつな顔だ。「付回輩(stolker)と雨合羽(raincoat)の女性はまったくの別人でしょうな」

 予想を外れる。影は身に隠す。摑まえたのか、唐草模様に意思が絡まる先よ縦横前後へ伸びる。ずいぶん高い声が出る、我ながら。

「昨日(さくじつ)雨合羽(raincoat)の女性が姿を見せた。付回輩(stolker)の出現は異なる日付だと?」現れたとは云うも日付はこちらの思い込みだった……。

「私の店に現れる。後日『エザキマニン』さんを訪れた。出店の月ですから、先月の事件の前でしょうか」

「確かですか?」言い終わるより早く種田は自動扉(door)の開閉を、玄関拭泥敷物(mat)に片足を踏み出した止動(pose)をとる。「どうなのです!」

「訪問によって事実確認は取れましょう。……応えてくれるかは別問題ではありますがね」

 鎧戸(shutter)が引きあがる。背丈をやや下回る、屈んで通る高さまでを日本はあげた、壁に埋め込まれた丸押出(button)が緑を放つ。

 自動扉(door)が追(おっ)て稼動を開(かい)し、足元の空間へ玄関拭泥敷物(mat)から一歩踏み出して一言、質問を繰り出してみた。「奥様が他方(ほかのかた)と新生活を始めていた、仮定の話です、居所は知れた、あなたは奥様に会われますか?」

 屈託のない笑みが作る皺は猫のよう、表情を見事相殺せしめるとは、打ち消す、またひとつ学び。

「西洋料理は含まれる成分の合致(ごうち)が多数なる組合(くみあわ)せを重用する。味に厚みと奥行きを出すのだよ。一方亜細亜の料理は根底よりその手法を覆してしまう。お分かりになりませんかね、異同を掛合し、その味を好む」彼は腕を開いた。発言を読み取れ、推理せよ、これ以上の説明には応じるものか、さっさと出入り口を屈んで私の前から去れ。一つ前のそれか次の論理に根ざし器用に使いこなすか。

 頭を下げるか迷ったがこの国に生れ落ちた性と諦め彼女はくたと上半身を折った。

あいまいな「大丈夫」では物足りない。はっきり「許す」がききたくて 1

 白に塗り替えた内装、自動扉(door)の一枚外側に鎧戸(shutter)、導き光床に一筋二筋陽が漏れる。倉庫を思い起こす。罪悪感と身を寄せた「明るくなければ」は、体内で最高域(peak)を迎えた。立ち上り、霧散。煙草の煙みたいだ。種田は日本正(にほんただし)の吐露に聞き入る。声は読経なる形態さながらなよなよ腑抜けを故意(わざと)か持続したがる。滑らかでは不十分突っかかるのかというと、それも不適格。言葉を選びつつ速度に変化が生じてしまう。

「妻は失踪しました。嫌気が差した、もしくは研究心が再燃した。本心は当人のみぞ知るのでしょうな。過去の一時の決意を覚えているとは到底、確実に忘れてる。私ならば研究の外記憶はさっぱり就寝の度だ、整理は多少配置換えに冷徹せしめる排除という整頓を習慣とする。不要な記憶とは縁を切るのですから眠れるとき、研究の成果と明日の課題の整理に脳を専念させます。批判的な意見を述べますよ。記憶にとどめても結構、社員へ言いふらしても構いません、許可します」

「事件解決にとって有益か不利益か、私の判断基準は単純で明快。また、あなたと同様部署の同僚、上司に関係を限る。仕事以外での会話強いて云うなら大型用品店(スーパー)の会計が能(よ)く々意思疎通を行うでしょうね。財布に収まる会員証(card)は目ざとく見つけてやり加算(かさ)なる点数(point)の切に願う、もしくは教授による親切心を抱かせ後日の買い物に当該店舗を利用してもらう魂胆かは、どちらであろうと過剰な接触といえてしまう」

「気が合いますね。電子通貨(money)の普及にもcard(カード)を待近(かざ)す適時(timing)と電子通貨(money)の使用を告げる不要無用なやり取りの改善に努めなくては、介在する人間の対応が今後課題となるでしょうな」

「話題が逸れてます」種田は咳払い、空気が乾く、声を整えた。「届出を躊躇う、刑罰には処されません。とはいえ、あなた以外奥様の両親・親類への説明は、天涯孤独の一言が片付ける。ゆえに、あなたは届け出ず自生に問い自らの承知承諾を得た、と理由を固めた」

「人員を割く事例(case)と見なし、担当の捜査員は数日から数週間の捜索期間を設ける」昼下がり薄暗い地下を思わせる空間に先端の赤い玉はわずかに存在のありがたみを童話で、幻想の世界を呼び出す灯りとは似ても似つかず。たとえるなら、真暗闇(まっくらやみ)から明りの漏れる空間に押し出されたその時である。彼は言う。「刑事さんはなぜ私を捜査の対象に据えたのか、しかも管轄外の捜査員とあなたはおっしゃる。思い浮かぶ愚答ばかり、ああ……目詰まりの正体」千切れるよう日本は首を振った。かと思うと窮屈な角度で止まった。

「S駅の殺傷事件はご存知でしょうか?先月末の五月二十七日の午後十一時四十五分頃に発生した事件です」

「読みたい活字は新聞以外であった。本日の天候を窓から取得できますし、気温は体に訊く。遠出にはさすがに気温と天候は調べますよ。不要な情報でも知っていなければならない類のものは、たいてい接触を断つ生活へ抜かりなく進入を許してしてまうのです」

「要するに知らない」

「『ない』は止めていただきたい」

「不可能を誘発しかねない、からでしょうか?」

「ええ、あなたのように区別した使い分けに長じる世の中であるはずがありませんので」

 種田は思いついた疑念をぶつけてみた。低い確証、通常は控える浅薄な行動だが、背に腹は変えられない、彼女は本日限りで単独捜査の終焉を迎える。上司に追いつき、『エザキマニン』店主の推理は金輪際聞くに堪えないと言い聞かせたのだ、然るに、彼女は語気を脈絡なく強める。

「あなたは事件当夜どこにいらっしゃいましたか、形式的な質問です」

「それにしては圧迫感が強い」煙が細く棚引く。もう一つの媒体を通じて、心象が表れたかのよう。煙はそっけなくそれとなく振舞う。

「言えませんか?」種田は再度尋ねた。可能性の一つを潰す、これでいい、考え方を変えた。

「ここにいましたかね、私一人で。今日とは言わずここ数週間は毎日最上階で寝泊りしてます」

「奥様は雨合羽(raincoat)をお持ちでしたか?」

「さあ」不可思議に日本は首をかしげただろう。「私と一緒で洋服に無頓着ですから、傘を差すのに雨合羽(raincoat)が必要である理由がそもそも私には理解しかねますね。外套(coat)が何か?事件に関係でも?」

「『エザキマニン』という洋食店はご存知ですね?」

「決め付けた言い方ですね。ええ、存じてます。ああ、そうか。私の好者(fan)ですよ。『する』『しない』を履き違えた私の付回輩(stalker)です」

「あなたのために行動を起こしたと?」

 白衣(はくい)の裾がはらり膝へ遠慮なさらず時空間(space)を空け、渡す。彼は受け取ったままの携帯灰皿を種田に返すと、音もなく腰を上げた。四m先の壁へするり背中の吸盤を吸い付けた。まるで自然(じねん)に付いてる。うん、見えた。喉を落とし彼は言った。視線はどこか異国、遠き彼方想像の世界へ。幻想や夢の中にある現実を私は眺めているのかも。日本正は彼を振舞う。ある意味でこれはこれ、正解である、共通する一致点は認めてやれる。おそらく、うんんや考え足らずの同姓はこれを恋と位置づけた、言い切るさ、私もこの人が私であるように思えてならない、むしろここに居る目線の低い者こそ一体どこの馬の骨なのさと詰寄りたくってたまらない。思い込みたいのだ、似ている、そっくり、瓜二つ、片割れ。ないがしろな自身を補いたくてたまらない。かつては二つだった。引き裂かれ互いを求める。誰かが書いていた内容だった。 

「礼状をお見せしましょう。刑事相手に偽造の書面を見せる度胸などあるようにみえますか?」

 応答を返す前に彼は言った。いつも持ち歩いているそうだ。方々でするとだ、付回輩(stolker)が迷惑行為に好き勝手に触れ回るというのか。しかしknife(ナイフ)の売却に激怒し尚且つそのknife(ナイフ)が殺害に使用され憤慨を意見したその者は先ほど取得した『エザキマニン』の情報が見做(みな)す、knife(ナイフ)を以前からたびたびくすねていた数人のうちの一人と。付回輩(stolker)がknife(ナイフ)の売却に怒り狂うはまだ許容の範囲だが、使用されたと思われる凶器と頚部の切断は市民に知れるよう公表を許可していた、そこへknife(ナイフ)が凶器だと言いがかりをつけた。おかしいではないか。

 礼状は本物である。

「疑問があります」種田は受け取る日本を見上げていう。

「私が好意を抱く対象としては顔の造作が未完成である」

「いいえ」種田は冗談を一蹴する。「付回輩(stolker)はなぜ凶器を骨董(antique)のknife(ナイフ)だと断言が可能だったのでしょうか?」

「knife(ナイフ)?凶器がknife(ナイフ)なのですか?」

「ご存じないと?」

瞬く瞼の開閉は二人合わせ数十回を軽々超えた。

「『ない』の訂正を」彼は遅れて訂正を促した。本心だ。だが、それでは話がちぐはぐである。彼を救う失態の取り返しに凶器はナイフを流布し果されずの上回る売上げを今度こそは、付回輩の接触に見舞われた予測に反するのだ。想像(おも)いに吐いた口がそれこそちぐはぐ。

「付回輩(stolker)はあなたを救うべく『エザキマニン』で日常に使われる食器を密かに隠盗(くすね)ていた。営業妨げ、他所へ火種は燃え広がりませよ、延焼を見越す。内装から食器類、家具と入退店に出会う外観は総一式(total)の佇まいを目当てにあそこへ通う、居所地位(status)。取材を固辞する、あそこは一種独特選ぶ甲斐のあらむ、興味を触発(そそ)る対象であった。そこへ名もない偽の食器、摺り替えた品物が紛れ込み、何かしらのきっかけを用意・合図に一芝居打つつもりだった。が、発動を前断りもなし食器は売却されてしまい、未消化打続く怨怒(おんど)は余り一日の火を落す店内へ討ち入り、騒ぎ立てた。無断売却を罵倒これと用途外(ようとがい)因(よ)りに因(よ)って殺害に使用、怒りをぶつける。ここでひとつ疑念が、。売却をありえんとした蔑ろへは妥当性を多分に帯びる。対して名高く目の養う有難き食器の補う殺人、腑に落ちません、先見をそれどころか後世(のちのよ)に証明してみせた。異名を、あの店主ならば飾り、使用済みを展示することでお客へは安堵を届ける。ええ、付回輩(stolker)は殺人に類する事件を同様の凶器を使い、起こす予定であった。その可能性は残されていますが、先ほど聞いた話は犯人は店主であるなによりの証拠に骨董(antique)のknife(ナイフ)を引き合いに出す場面を再現していました」

 日本正の困惑振りは考えながら説明と解釈を加える種田の発言内容に起因をする。当人も些か当惑し、しばらくの間を空く。叩かれる鎧戸(shutter)をあわよくば欲した。鎧戸(shutter)本来の姿にがらがらあやどしゃどしゃびっしゃんなる開閉と殴打さ、もしかすると蹴魂(けたたまし)い音を我(わが)内部で作り出していたのかも、彼女は考えた。あらかじめ、事前に。着替えは枕元に用意する。

 不意を突いて言葉だ、そのとき宙に浮いた。鷲掴むも、手のひら逃げる。

 引(ひっ)鉤(か)かる印象が手招き、いたずらに微笑む。捉えたい。想像(image)は不得意だ、具現化しようと近づくも人影(かげ)のようそれはすばやく逃げてしまう。じっとだ、黙っていよう。

「わかりました」日本は目を細めて言(い)った。口元はきつく固く結ばれた。いびつな顔だ。「付回輩(stolker)と雨合羽(raincoat)の女性はまったくの別人でしょうな」

 予想を外れる。影は身に隠す。摑まえたのか、唐草模様に意思が絡まる先よ縦横前後へ伸びる。ずいぶん高い声が出る、我ながら。

「昨日(さくじつ)雨合羽(raincoat)の女性が姿を見せた。付回輩(stolker)の出現は異なる日付だと?」現れたとは云うも日付はこちらの思い込みだった……。

「私の店に現れる。後日『エザキマニン』さんを訪れた。出店の月ですから、先月の事件の前でしょうか」

「確かですか?」言い終わるより早く種田は自動扉(door)の開閉を、玄関拭泥敷物(mat)に片足を踏み出した止動(pose)をとる。「どうなのです!」

「訪問によって事実確認は取れましょう。……応えてくれるかは別問題ではありますがね」

 鎧戸(shutter)が引きあがる。背丈をやや下回る、屈んで通る高さまでを日本はあげた、壁に埋め込まれた丸押出(button)が緑を放つ。

 自動扉(door)が追(おっ)て稼動を開(かい)し、足元の空間へ玄関拭泥敷物(mat)から一歩踏み出して一言、質問を繰り出してみた。「奥様が他方(ほかのかた)と新生活を始めていた、仮定の話です、居所は知れた、あなたは奥様に会われますか?」

 屈託のない笑みが作る皺は猫のよう、表情を見事相殺せしめるとは、打ち消す、またひとつ学び。

「西洋料理は含まれる成分の合致(ごうち)が多数なる組合(くみあわ)せを重用する。味に厚みと奥行きを出すのだよ。一方亜細亜の料理は根底よりその手法を覆してしまう。お分かりになりませんかね、異同を掛合し、その味を好む」彼は腕を開いた。発言を読み取れ、推理せよ、これ以上の説明には応じるものか、さっさと出入り口を屈んで私の前から去れ。一つ前のそれか次の論理に根ざし器用に使いこなすか。

 頭を下げるか迷ったがこの国に生れ落ちた性と諦め彼女はくたと上半身を折った。

「はい」か「いいえ」 7

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「臨時休業」を力いっぱい書き付けた印刷(copy)用紙を店内から貼り付ける。

 筆pen(ペン)の踊る動きを求めて隣の文房具店へ押し合いへし合い、命からがら目的の商品を買い、四つに折り畳んだ白衣(はくい)から取り出す用紙に清算(レジ)台を断って借りる。購入済みを証明する片粘帯(tape)は不要だと、断った。一筆。蓋を被せると日本正(にほんただし)は試し書き用に使ってしまいなさい、どうせ私が持っていても印料(ink)が揮発してごみと貸す。購入した一回こっきり使用済みで良ければ持って行かれるがお客へ渡しては、と店員に返却した。困惑は目に見えていたが彼にとってpen(ペン)は不要な所持品として生来君臨する。目的物は使用の確約された場所にあるべきなのだ。

 カビの生えた蜜柑が一つ、おもちゃのゴキブリが一体、反対の袋状物入(poket)を探ると栄養液剤(drink)が一本と丸裸のせんべいが入っていた。往復数mの距離でもみくちゃにされた証拠品だ、購入した覚えはない。

 を下す。一人、背の高い女が人の群れ、壁掻き分けて先頭に踊り出た。紋所、印籠を掲げるごとく片手には手帳らしき黒い革製品が見えた。一斉に店先に空間が出現する。警笛(klaxon)が鳴る、道路をはみ出したまさにはみ出し者が不注意を指摘されるか。

 自動扉(door)を開けた。取巻きに徹するお客どもは顔を見合わせる、国家権力には逆らえず、ということは違法行為の自覚は多少なりとも感じているらしい。隠れた犯行は無実の解釈だろうか、自問は猿へ理性を求めるに等しきかな。

「暴動と呼べる規模ではない」

「納得のいく説明を述べよ!」焦燥丸出しを平然と同姓異性の区別なく節操なき日常が形成されている。背の高い女は迫った。鬼気迫る怒性はいっぱしに主張の準備さえ常日頃懐剣の抜き身よ期たれ、日本は鎧戸(shutter)の遮蔽を待つ。

 椅子を譲るように勧めた。一階精算場(レジ)にはほぼか、いいやそっくりまるごと流用した前の所有者である建設会社の受付長尺対面台(counter)と対面に淡い藍(bule)の陶鉢(うえきばち)に枯れかかる観葉植物が首の皮一枚花屋の突き刺す合成肥料の延命は情け、一命を取り留める。先に、その隣二脚の片方へ日本は腰を据えた。建設会社当時はこうして得意先や仕事相手が担当者の来訪今や遅し受付嬢の視線を浴びつつ浅く腰掛けたのかも、とはいえだ、向かい合う必要はないのではと日本はこの配置がもたらす効用のおかしさ思う。

 起立を貫く女性は種田と名乗る、隣町の所属を言い渡す。わけあって管轄外のS市を担当する、二三事情を訊きたいので答えてほしい、端的に彼女は告げた。

「表の騒動を訪ねないとは、あなたは変わり者だ」

「そう呼ばれること、呼びかける者、両方は私の経験上有益な働きかけをそれ以降生み出すことはありませんので、どう呼ばれようと、私は不動です」

「理知的、言葉は通じる」

「『する』と『しない』を標榜しお客に少なからずその片棒を強要する」種田は軽く瞬いた。

「取り上げた記事を鵜呑みにされては困る」日本は袋状物入(poket)に両手を隠した。膝を数㎜外に向けて言う。「私自身が掲げたそれは訓示であってお客に強いるなどと根拠薄弱ではないのか。尤も在無(あるなし)に因らず私は不動不変である。誤解を恐れず言うと、料金を支払い店の敷居をまたいだが運の尽き。他人様の手に身を委ね提供の品をどうぞこちらよりお頼み申します、食べますという意思表示に捺印、署名をしたも同然なのだ。手前勝手にそれを逆恨みされては……、まあ、はっきり白黒に意見が分かれてくれたのは好都合ではあった」

「では、『する』『しない』や『はい』『いいえ』を雑誌の質疑(interview)に応える以前です、どなたかに話されましたか?」種田の肩は忙しない。入出の怒鳴り込む血気盛んな登場を読むに、私の回に期待をする箇所へ質問は及ぶ。避けようにもこればかり口押しのける頭蓋内さくるりぐうるぐらん、回答とはこの事かしら、と余力さ惰性を拝借びゅびゅん傾斜を平端へ飛び出す、飽き飽き目ぼしき獲物の、捕らえ自己のものだと激しき主張には引き下がり収まるを待つよりか道はあらずや。言葉が違える。  

今日が業務は終えた矢先、従業員は早々店内のお客と共に裏口から逃がした。この状況から裏口にも人だかりで埋まる。予想とは検証を義務としてか。

 普段の対人を知る者が意見を、聞かずとも異状とはこれ態度が因子に辿りまるすや明らか必に視えます。彼女よ見上げて、彼は身から出た錆の開場をすっかり他人事に置かれますこの状況の、不可思議の一面に気がつく。暴言を吐く屋外の彼らはなぜ店内に雪崩れ私を外に引きずり出さない。法に守りを、それとも現今が特有の人間性が観測、後世へ履歴をと起こした。いや、暴言を吐くのならば端末に叫びを書き連ねる選択を各自の自宅や生活を送る聞き手が行うだろう。日本は問へ返えす。

「妻には打ち明けておらず、とはいえ私の性格を熟知する。知っていると言えますか、それでも」

「お店はあなたのほか、二名の従業員が籍を置きますが」

「理念は伝えた。刑事さんはもしかすると、私が強要したばかり『する』『しない』が個人の性格形成に支障を来たした。責任の所在をまさか私に取れとでも?」

「証拠といえるのは物証である、あなたが言い放つ『する』『しない』の文言を発した質疑(interview)掲載の記事と『日調理フードイメージ』の受賞の演説(speech)。影響を与えた当該人物と惚けた国民が認定するには十分です」

「駆け込んできた割に事前の学習は済ませている。詳細をできれば教えていただきたいものですな」あらかじめ調べを進め確証を得て店に乗り込んだ、それとも人だかりを偶然見かけ機運に乗じて一気呵成、準備不足ながら見当をつけた店を訪れた。私の返答如何に『あれ』は在る。弱気の虫が湧いて出た、計算が一人走ったのだろう。

「詳細の検討はこれから取り掛かる予定です。概要は把握、さわり程度ですが情報は常に膨大に収めてあります、ここに」得意げが様になる。自信に裏打ちされた行動これは自己を底より信ずる許諾が可能とするのだ。どことなく貸切自動車(taxi)の運転手に似ている、日本はすらりと伸びた彼女の体躯に見入った。

 煙草を取り出そうと気を緩めたのが、いけなかった。彼はすぐさま後悔の念に駆られた。

「奥さんは健在でしょうか?」心臓に釘が刺さった。煙草を掴む右手はく字に固まる。どっと汗が噴出す。左右に定まりを失って胸の裏(うち)が開示、見られしられてしまった。

「……ええ」精一杯だ。これより先は墓穴を掘る。いや、なにをいう誤解の間違いだろう。あいつは生きてる。運転手が言い当てたのは彼女なりの個人的見解に私が可能性ありと理解を示したに過ぎずさ、解釈とは人の数、である。

「本日はどちらにご自宅か仕事場か。あなたの会社の事務を担当なされているそうで、仕事が不可抗力にも早く切りあがった。合理的なあなたは、明日の開店まで店は閉める。隙を突き、暴動が収まりかけるを見計らい裏口から脱出を試みるでしょうか。そして奥様と久方ぶり夕食の席に着ける、という算段」

「知ったような口をきく」かすかな震える指先、知られてるのだから隠蔽は動揺の膨張につながる。口腔巡合(food pairing)の次の事業展開を思い浮かべなさい。日本は煙草の端を赤々煙吹かせてあわよくばこちらへ相手の気と自らは気分を紛らわす。言い聞かせるみたい、考えを他所へ外へ逸らす。重要度が高まればおのずと精神的影響がもたらす体の震えは抑制される。知識はそれでも現在の微動はとめられずじまい。

 鬼だ、刑事はこちらを見定める、どの部位より裁こうかしら、舌なめずりに蛇のようなちろちろ這い出す長い舌が泡、と消えた。美術館に飾られる壷に成り代わった気分を堪能、体感できるとは、ようしかなり普段の考えが復帰しつつあるぞ。答えなければそれで不都合の衝突をやり過ごせてしまうではないのか。からからかっか。内部で高笑い。畏怖を作り出した張本人は何を隠そう私自身だったのさ。やはり、人との接触は避るにかぎる。妻も私の中で脈打つ、今後の仕事相手とも通信上のやり取りへ完全な移行に切り替えるとしよう。例外、特別を排除する。失敗は一度きり。

 煙が有害物質として正常に体内を虐める。破壊の先手を振る対岸の空手、安住が快楽と結びつくか、奇態な精神だ。

 灰皿が差し出された、刑事も喫煙者らしい。

「どうも」

「連絡を取りたいのですが、奥様はどちらに、ご都合は?」種田は畳みかける。

「さあ、本人に聞いてください」灰を落として日本は口を左右に引く。多少気持ちに余裕が生まれた、私をうまく殺せた。

「ご自宅に伺ってもよろしいでしょうか?」

「なぜ僕に尋ねる?妻が自宅にいるという見当をつけているならば、当人に直接聞くがよろしい」

「自宅にもこのtall building(ビル)のどの階にも、研究施設にも奥様はいない」

「『ない』という言い方は控えてください、私の前では」

「ではこう言い換えましょう」種田は大きく息を吸った。胸郭が膨らむ。「この世から奥様の存在は姿を消した」

 誕生祝いの洋菓子(cake)、立てた生きた年数分のろうそくに灯る淡い赤の混じる黄色(orange)が掻き消えてしまった。

 焦げ付いた芯は時間の問題、乳脂肪(cream)と果物(fruits)の土台を炎はいずれ焼いた。誕生祝い、新たな生命、門出を祝う。用意がいい、これはいたいけな己を祝福せしめんとあいつの影ぼうしに見つかりませんでしょうよ、姿明かすそのときに知れとは狡猾の優遇はしばらく取り下げよう。明かりが点いた、余分な皮もごもごいづらくてしょうのない、不要なこれをコノ人欲しがる、あげましょう差し上げてしまいましょ、食べていただきとうございますぜ。幾人かが囃し立てた。

 釣られて従いましたか、絡まり捩れ捻れる。腰に巻きつくや一本といずれもかれも纏わろから、解きしそちら如何様にも私あらずの見識あらば。姿陽炎、しかし黎明。透けた自声かしら波興す。

「『する』と『しない』についてお話しましょう。長くなります、偶然にもほら隣に椅子が空きます。座って家具職人(つくりて)が報われる。座ってあげる、などといった擬人化は嫌いです。壁掛け時計の電池交換を踏むにこれ椅子が出番であるのなら、気まぐれただただ座る行為よ許されましょうよ」

「断る理由はありません。、どうぞ続きを」

 二人は同じ方向を向いてそれぞれの役割に徹した。

 

 

「はい」か「いいえ」 7

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「臨時休業」を力いっぱい書き付けた印刷(copy)用紙を店内から貼り付ける。

 筆pen(ペン)の踊る動きを求めて隣の文房具店へ押し合いへし合い、命からがら目的の商品を買い、四つに折り畳んだ白衣(はくい)から取り出す用紙に清算(レジ)台を断って借りる。購入済みを証明する片粘帯(tape)は不要だと、断った。一筆。蓋を被せると日本正(にほんただし)は試し書き用に使ってしまいなさい、どうせ私が持っていても印料(ink)が揮発してごみと貸す。購入した一回こっきり使用済みで良ければ持って行かれるがお客へ渡しては、と店員に返却した。困惑は目に見えていたが彼にとってpen(ペン)は不要な所持品として生来君臨する。目的物は使用の確約された場所にあるべきなのだ。

 カビの生えた蜜柑が一つ、おもちゃのゴキブリが一体、反対の袋状物入(poket)を探ると栄養液剤(drink)が一本と丸裸のせんべいが入っていた。往復数mの距離でもみくちゃにされた証拠品だ、購入した覚えはない。

 を下す。一人、背の高い女が人の群れ、壁掻き分けて先頭に踊り出た。紋所、印籠を掲げるごとく片手には手帳らしき黒い革製品が見えた。一斉に店先に空間が出現する。警笛(klaxon)が鳴る、道路をはみ出したまさにはみ出し者が不注意を指摘されるか。

 自動扉(door)を開けた。取巻きに徹するお客どもは顔を見合わせる、国家権力には逆らえず、ということは違法行為の自覚は多少なりとも感じているらしい。隠れた犯行は無実の解釈だろうか、自問は猿へ理性を求めるに等しきかな。

「暴動と呼べる規模ではない」

「納得のいく説明を述べよ!」焦燥丸出しを平然と同姓異性の区別なく節操なき日常が形成されている。背の高い女は迫った。鬼気迫る怒性はいっぱしに主張の準備さえ常日頃懐剣の抜き身よ期たれ、日本は鎧戸(shutter)の遮蔽を待つ。

 椅子を譲るように勧めた。一階精算場(レジ)にはほぼか、いいやそっくりまるごと流用した前の所有者である建設会社の受付長尺対面台(counter)と対面に淡い藍(bule)の陶鉢(うえきばち)に枯れかかる観葉植物が首の皮一枚花屋の突き刺す合成肥料の延命は情け、一命を取り留める。先に、その隣二脚の片方へ日本は腰を据えた。建設会社当時はこうして得意先や仕事相手が担当者の来訪今や遅し受付嬢の視線を浴びつつ浅く腰掛けたのかも、とはいえだ、向かい合う必要はないのではと日本はこの配置がもたらす効用のおかしさ思う。

 起立を貫く女性は種田と名乗る、隣町の所属を言い渡す。わけあって管轄外のS市を担当する、二三事情を訊きたいので答えてほしい、端的に彼女は告げた。

「表の騒動を訪ねないとは、あなたは変わり者だ」

「そう呼ばれること、呼びかける者、両方は私の経験上有益な働きかけをそれ以降生み出すことはありませんので、どう呼ばれようと、私は不動です」

「理知的、言葉は通じる」

「『する』と『しない』を標榜しお客に少なからずその片棒を強要する」種田は軽く瞬いた。

「取り上げた記事を鵜呑みにされては困る」日本は袋状物入(poket)に両手を隠した。膝を数㎜外に向けて言う。「私自身が掲げたそれは訓示であってお客に強いるなどと根拠薄弱ではないのか。尤も在無(あるなし)に因らず私は不動不変である。誤解を恐れず言うと、料金を支払い店の敷居をまたいだが運の尽き。他人様の手に身を委ね提供の品をどうぞこちらよりお頼み申します、食べますという意思表示に捺印、署名をしたも同然なのだ。手前勝手にそれを逆恨みされては……、まあ、はっきり白黒に意見が分かれてくれたのは好都合ではあった」

「では、『する』『しない』や『はい』『いいえ』を雑誌の質疑(interview)に応える以前です、どなたかに話されましたか?」種田の肩は忙しない。入出の怒鳴り込む血気盛んな登場を読むに、私の回に期待をする箇所へ質問は及ぶ。避けようにもこればかり口押しのける頭蓋内さくるりぐうるぐらん、回答とはこの事かしら、と余力さ惰性を拝借びゅびゅん傾斜を平端へ飛び出す、飽き飽き目ぼしき獲物の、捕らえ自己のものだと激しき主張には引き下がり収まるを待つよりか道はあらずや。言葉が違える。  

今日が業務は終えた矢先、従業員は早々店内のお客と共に裏口から逃がした。この状況から裏口にも人だかりで埋まる。予想とは検証を義務としてか。

 普段の対人を知る者が意見を、聞かずとも異状とはこれ態度が因子に辿りまるすや明らか必に視えます。彼女よ見上げて、彼は身から出た錆の開場をすっかり他人事に置かれますこの状況の、不可思議の一面に気がつく。暴言を吐く屋外の彼らはなぜ店内に雪崩れ私を外に引きずり出さない。法に守りを、それとも現今が特有の人間性が観測、後世へ履歴をと起こした。いや、暴言を吐くのならば端末に叫びを書き連ねる選択を各自の自宅や生活を送る聞き手が行うだろう。日本は問へ返えす。

「妻には打ち明けておらず、とはいえ私の性格を熟知する。知っていると言えますか、それでも」

「お店はあなたのほか、二名の従業員が籍を置きますが」

「理念は伝えた。刑事さんはもしかすると、私が強要したばかり『する』『しない』が個人の性格形成に支障を来たした。責任の所在をまさか私に取れとでも?」

「証拠といえるのは物証である、あなたが言い放つ『する』『しない』の文言を発した質疑(interview)掲載の記事と『日調理フードイメージ』の受賞の演説(speech)。影響を与えた当該人物と惚けた国民が認定するには十分です」

「駆け込んできた割に事前の学習は済ませている。詳細をできれば教えていただきたいものですな」あらかじめ調べを進め確証を得て店に乗り込んだ、それとも人だかりを偶然見かけ機運に乗じて一気呵成、準備不足ながら見当をつけた店を訪れた。私の返答如何に『あれ』は在る。弱気の虫が湧いて出た、計算が一人走ったのだろう。

「詳細の検討はこれから取り掛かる予定です。概要は把握、さわり程度ですが情報は常に膨大に収めてあります、ここに」得意げが様になる。自信に裏打ちされた行動これは自己を底より信ずる許諾が可能とするのだ。どことなく貸切自動車(taxi)の運転手に似ている、日本はすらりと伸びた彼女の体躯に見入った。

 煙草を取り出そうと気を緩めたのが、いけなかった。彼はすぐさま後悔の念に駆られた。

「奥さんは健在でしょうか?」心臓に釘が刺さった。煙草を掴む右手はく字に固まる。どっと汗が噴出す。左右に定まりを失って胸の裏(うち)が開示、見られしられてしまった。

「……ええ」精一杯だ。これより先は墓穴を掘る。いや、なにをいう誤解の間違いだろう。あいつは生きてる。運転手が言い当てたのは彼女なりの個人的見解に私が可能性ありと理解を示したに過ぎずさ、解釈とは人の数、である。

「本日はどちらにご自宅か仕事場か。あなたの会社の事務を担当なされているそうで、仕事が不可抗力にも早く切りあがった。合理的なあなたは、明日の開店まで店は閉める。隙を突き、暴動が収まりかけるを見計らい裏口から脱出を試みるでしょうか。そして奥様と久方ぶり夕食の席に着ける、という算段」

「知ったような口をきく」かすかな震える指先、知られてるのだから隠蔽は動揺の膨張につながる。口腔巡合(food pairing)の次の事業展開を思い浮かべなさい。日本は煙草の端を赤々煙吹かせてあわよくばこちらへ相手の気と自らは気分を紛らわす。言い聞かせるみたい、考えを他所へ外へ逸らす。重要度が高まればおのずと精神的影響がもたらす体の震えは抑制される。知識はそれでも現在の微動はとめられずじまい。

 鬼だ、刑事はこちらを見定める、どの部位より裁こうかしら、舌なめずりに蛇のようなちろちろ這い出す長い舌が泡、と消えた。美術館に飾られる壷に成り代わった気分を堪能、体感できるとは、ようしかなり普段の考えが復帰しつつあるぞ。答えなければそれで不都合の衝突をやり過ごせてしまうではないのか。からからかっか。内部で高笑い。畏怖を作り出した張本人は何を隠そう私自身だったのさ。やはり、人との接触は避るにかぎる。妻も私の中で脈打つ、今後の仕事相手とも通信上のやり取りへ完全な移行に切り替えるとしよう。例外、特別を排除する。失敗は一度きり。

 煙が有害物質として正常に体内を虐める。破壊の先手を振る対岸の空手、安住が快楽と結びつくか、奇態な精神だ。

 灰皿が差し出された、刑事も喫煙者らしい。

「どうも」

「連絡を取りたいのですが、奥様はどちらに、ご都合は?」種田は畳みかける。

「さあ、本人に聞いてください」灰を落として日本は口を左右に引く。多少気持ちに余裕が生まれた、私をうまく殺せた。

「ご自宅に伺ってもよろしいでしょうか?」

「なぜ僕に尋ねる?妻が自宅にいるという見当をつけているならば、当人に直接聞くがよろしい」

「自宅にもこのtall building(ビル)のどの階にも、研究施設にも奥様はいない」

「『ない』という言い方は控えてください、私の前では」

「ではこう言い換えましょう」種田は大きく息を吸った。胸郭が膨らむ。「この世から奥様の存在は姿を消した」

 誕生祝いの洋菓子(cake)、立てた生きた年数分のろうそくに灯る淡い赤の混じる黄色(orange)が掻き消えてしまった。

 焦げ付いた芯は時間の問題、乳脂肪(cream)と果物(fruits)の土台を炎はいずれ焼いた。誕生祝い、新たな生命、門出を祝う。用意がいい、これはいたいけな己を祝福せしめんとあいつの影ぼうしに見つかりませんでしょうよ、姿明かすそのときに知れとは狡猾の優遇はしばらく取り下げよう。明かりが点いた、余分な皮もごもごいづらくてしょうのない、不要なこれをコノ人欲しがる、あげましょう差し上げてしまいましょ、食べていただきとうございますぜ。幾人かが囃し立てた。

 釣られて従いましたか、絡まり捩れ捻れる。腰に巻きつくや一本といずれもかれも纏わろから、解きしそちら如何様にも私あらずの見識あらば。姿陽炎、しかし黎明。透けた自声かしら波興す。

「『する』と『しない』についてお話しましょう。長くなります、偶然にもほら隣に椅子が空きます。座って家具職人(つくりて)が報われる。座ってあげる、などといった擬人化は嫌いです。壁掛け時計の電池交換を踏むにこれ椅子が出番であるのなら、気まぐれただただ座る行為よ許されましょうよ」

「断る理由はありません。、どうぞ続きを」

 二人は同じ方向を向いてそれぞれの役割に徹した。