「仕事の内容というのは、事前に打ち合わせを社長自らが出向いて行うことが頻繁に行われていたのか、それとも今回が特殊だったのでしょうか?」熊田が安藤にきいた。
「一人だけということはまずありえません」回答は武本が物怖じしない声の圧力で応えた。「数人まとめて、隣の会議室に呼び、そこで待たせておいて、すべての提案、議題、申し出、その他を聞き、簡単に答える。短時間で済む案件から処理し、長引くような議題はその場で最初に社員が答えるべき質問を社長が問いかけて、考えさせておくのです。実に効率的な人。実に惜しい人を亡くした」
「それほどの悲しんでいるようには見えませんけれど」
「涙を見せて取り乱すのがすべてではありませんよ、刑事さん」
「ええ、私も同意見です」熊田は端末を取り出す、聴取に集中していたために、気がつかなかった。「すいません」熊田はデスクまで下がって、端末に出た。
「はい」
「種田です」
「ああ、着いたか?」
「いえ、それが、渋滞にはまってしまって」
「鑑識の到着も遅れそうか?」
「おそらくは」
「隣町に要請したほうが良さそうだな」
「一刻を争う事態ですか?」
「いや、死体の解剖がどうやら鍵を握りそうだ」
「橋の欄干が崩れ落ちました」
「どこだ?」
「Z町の手前です。R川にかかる橋です」
「被害は?」
「車両の何台かは下に落ちていますが、死者は確認されていません、取り残された車両引き上げ作業に私たちも借り出されてます」
「こちらはいい、手があくようなら順次向かうように。鑑識はS市に要請を頼んでおいてくれ」
「はい。では」
状況はどうやら殺害を企てた人物に傾いている、熊田はある人物への要請が頭を過ぎるも、最近で頼りすぎだというきらいを感じた。仕方ない。熊田は決意を固めて、状況を一人で負い、引き締めるように押し留めた発言の機会を解放したのである。