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手紙とは想いを伝えるディバイスである2-3

「まったく言葉の意味を理解していないよう思います」

「いいえ、十分に理解はしてます」熊田は言う。「状況はまだ、あなたの発言によって、女性、この会社の社長が死んだ、あるいは殺された事実が判明した。また、セキュリティがかなり厳重であり、室内に繋がる扉とここへの更なる厳重な鍵。これでも彼女を狙い室内に白昼、正面から切り込んだ大芝居をやってのけて、現にあなた方が見つけるまでに立ち去ってしまった。立ち去れていないのだとすれば、建物内に犯人は潜んでいるでしょう。逃げられないのかもしれない。ここまでにおいて、大胆に立ち去った犯人と建物内に留まっている犯人のどちらが可能性が高いのだろうか。私はそういった意味で発言したのです」

「ずいぶんと流暢に話しますね、刑事さん」熊田の回答が意外だったのか、武本は口元を緩めた。

「私のことですか?いいえ、いつもはしゃべりませんよ。一人です、数人分の役割を担わなくては。泣いてもわめいても応援が到着するまでは一人ですから」熊田は武本タケルに言葉を返し、三人の顔をそれぞれ見比べた。武本は安定的に表情を作り、安東アキルは悲観に傾いた表情、社サヤは落ち窪んだ下瞼と腫れ上がった瞼。社長との交流が深い人物は社かもしれない。熊田は大まかに各人の特徴を刻んで、再度死体の観察に戻る。死体は飛び散る血痕が少量に思えた。周辺に飛び散った量からも頭部、内部の組織破壊。そのための頭蓋骨である。守るためではあるが、内部の破壊によって血液が漏れ出したならば、外部に排出するルートの確保が必要不可欠。しかし、両方の機能を備えるのは、無理というものだ。だから、頭部は衝撃に耐えうるために硬質な骨を選択した。

 閉じたブラインドは下部の隙間から光が漏れて、死体の女性の左手辺りを照らした。そこには光るものが見えた。熊田はハンカチを取り出して、それをつまむ。指輪だ。シンプルなつくり、宝石がちりばめられるようなリングでない、イニシャルの刻印もない、つるりとした外側とかすかに研磨の痕が残る、皮膚と接触した内側。熊田は指輪を三人に見せた。

「この指輪に見覚えは?」三人とも首を同じ方向、真横に振ったが、それぞれ往復の回数と速度は異なった。指輪をポケットに回収、証拠品を隠蔽したと思われないために、わざと三人の面前で左側のポケットに仕舞った。

「正面のドアは廊下に通じているのですか?」

「はい」社が率先して応える。「エレベーターを降りて、曲がった角の正面突き当りがこのドアです」なぜ、最初から正面のドアから私を案内しなかったのだろうか、熊田は社の不審な行動に気を止めたが、ここでの質問は控えることにした。手駒を最初から捨てるわけにはいかない、いずれやってくる質問の機会に、相手が動揺を見せるそのときまでにひっそりを、何気くそのときが訪れ、気にも留めないふりで手のひらに隠し、見計らった機会にとっておきを見せるのだ。相手を追い詰めるには弱い手。しかし、動揺を誘い、他の感心事の一部分、衣服の裾をちらりと見られれば、万事ことは進むというものだ。