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手紙とは想いを伝えるディバイスである3-1

 六F

 死体の安全と人の出入りを完全に封鎖。警察の到着にしばらく時間がかかる事情は伏せて、目撃者の三人に伝えた。隣の会議室に場所を移した熊田は、社長の死を隠しつつ業務に支障が出ないよう、担当者に連絡を取る指示を与えた。高齢の人物が二人、血相を変えて会議室に姿を見せる。彼らに死亡の事実と死体が社長当人であることを確かめてもらい、事実を把握、その後数時間だけ社長の体調が優れない状況を架空に作り、対応が一日遅れる旨を漏れなく関係者に伝えてもらった。ただし、会社の業務は各個人の裁量に任せている部分が大半で、社長は長期間の会社の展望が主な活動らしく、対外的な会合はこの会議室で執り行い、それ以外の意思疎通はネットを介し、更なる不足分は社長自らが特定の場所に赴き、相手を呼び寄せて社長は移動の時間のロスを最小に抑えるスタイルでの仕事ぶり、と聞いて多少熊田は気持ちが和らいだ、これで人員を必要とするマスコミ対策を回避できる。

 殺害の可能性、要するに他殺の状況が現場の初見であることを、彼らには伝え、社長の身辺を聞きだしたが、人に恨みを買うような人物でもなく、業務内容にしても、デザイナーという仕事の価値を引き上げた功績はたたえられるべきもので、なんらその責務を負うような行動は一切取っていないと、重役や三人の発見者は口をそろえて、社長の価値を高める表現を多用した。警察の手前のおごった口調である。社員が取り組む業務内容に見合う人材はそのうまみを握り、方やはまらない人材からは疎まれもする、彼らは適合した種類の人材なのだろう。意味深長に社長の死を悼む姿は表向きの顔かもしれない、と熊田は彼らの態度を探るように見つめたが、しかし、まだ事件は発覚したばかりだ、早々と尻尾を出すとは思えないか。これは長期戦を様相。熊田はどこかタバコを吸える場所を確保しておかなければ、思考を加速させる喫煙が許された場所を頭の隅で求めていた。

 連絡を受け駆けつけた重役の二人は再び弾かれたように席を外した。残された三人もそれぞれ仕事を抱えていて、仕事に戻りたいと、主張し始めた。

「お気持ちはわかりますが、なにぶん人が死んでいるのです。そう簡単に、皆さんの意志を通すわけにはいきません」

「業務は私が担当者であり、責任者。リミットは今日一杯です、既に一時間は遅れてる。いつもぎりぎりなのに、これでは間に合いません」

「君だろう?毎晩遅くまで残って作業しているのって?」武本タケルは口元を引き上げて言った。

「だからなんですか、期限を守って仕事をしてます」