コンテナガレージ

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手紙とは想いを伝えるディバイスである2-4

「この部屋に入る手順を教えてください」熊田は死体から離れて、入り口ドアの十分なスペースで詳細な情報を集めた。部屋の椅子は死体の女性が倒れこむデスクの一脚のみで、ゆったりと気分を落ち着けるための椅子は用意してないようだ。あくまでも仕事のみを優先する部屋らしい。社長ならば混同してしまいがちなプライベートな空間も、ここには一切の妥協が見られないのが特徴か。ストイックな性格、すべてを押し上げるというよりかは、一極集中型だろう、熊田は推察しならが、室内へのルートと、彼らのここまでの道のりを尋ねた。

 社が気持ちを落ち着けて話した。「最初に言っておきます。緊張していたので私は会議室へのドアを間違えたみたいで、社長室のフロアに入ったのは今日が初めてなので、直接そこのドアを開けてしまった。フロアへの入室にはエレベーターの扉が開く前に、該当者に許可が認証される。実は前日に社長宛に、これまで受けてこなかった仕事の案件を受けるべきか、質問をメールで送ってました。まだ私は未熟でして、その期待には応えられないと何度か同じクライアントから申し出を断り、先日もまた同様の依頼が舞い込んだので、社長に直接回答を聞き行こうと思い立ったのです」熊田は矛盾点を記憶しつつ、彼女の話に耳を傾ける。「まるで私が犯人のように思われるでしょう。でも違います。断じて私じゃありません。だって、私はドアをあけてもらったんですから!」

「生きているこの方を会ったのですか、生前に、死の直後に」目を見張った熊田だがおっとりと話の先をきいた。

「いえ、正しく言うと、鍵は開いていました、ドアが簡単に開いたんです。私、でも、そのときは、ドアの前に立ってドアレバーに手をかけたら、開錠音が聞こえたので、カメラか何かで私を見ていて、開けたのではと思ったんです。そのあとのことで興奮してしまって、ドアを開けた時のことはあまり覚えてません。ですが、とにかく、ドアを開けたら、こんな状況が見えて、咄嗟に離れようと思ったときに、隣のドアがあいて、二人とばったり会いました」後半の声量はまるで、舞台女優のようにあからさまな失速を見せた。舞台での演じ方を習った気分の落ち込みが、正しくお客に伝わったように、熊田は感じた。同時に冷徹な心配の奥に潜めた優秀かつ狡猾な才能も見え隠れする。

 次に手を挙げた安藤アキルが話を引き継いだ。「僕はメールで問い合わせた仕事の件で直接呼ばれて、昨日の夜に明日の朝、つまり今日の正午に社長室に来るようにと返答をもらい、足を運んだのです。もちろん、私も何もしていません。できないといったほうが正しいですね。だって、社長室に入るまで武本さんと一緒に隣の会議室で待っていたのですから」