コンテナガレージ

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パート1-2

「多分、渋滞で遅れているんだと思います。いつものことです」

「ダイヤモンドレーンはお迎えの時には通れないのか、送り迎えに通行料を払えるのは特権階級だけですしね。あらいやだ、私としたことが。ごめんなさいね、あなたの家庭を侮辱したのではありませんから」発言を取り繕う、教師は笑いで言葉をごまかし、教室を出て行く。廊下をひっきりなしに横切る生徒はもうほとんどいない。足音、話し声に顔を上げても、すでに通り過ぎたあとで、廊下のロッカーの角が見えるだけだった。

 連絡用の端末が震える。端末は登校前と下校後、保護者が迎えに来るまでの短時間しか操作に反応しないタイプで、通話とショートメッセージ機能のみを搭載した機種である。生徒全員が所用する必要はなく、申請によって市から配給される。利用料は無料、主に個人で送り迎えをする家庭向けのサービスである。利用時間も細かく決められているため、月々の利用料を各家庭の負担に回しても、一回線当たり百ドル前後だろう。これを市が無償で貸し出す表向きの理由に、登下校時における誘拐の防衛策が考えられる。学校周辺は厳格なスクールゾーンという体制を敷いており、厳重に車の速度も安全面を考慮に入れた街づくりが義務付けている。また、見知らぬ人物が簡単に構内へ侵入することはできない。セキュリティが設けられて、校内への出入りはパスの提示が義務化されている。急な迎え人の変更も、厳重なチェックを経てからではないと、子供との接触は避けられてしまう。たとえ、顔もそっくりの離れて暮らす別れた両親であってもだ。

 今日は誰が迎えに来て、待たされるのかと思っていたけれど、渋滞の遅れだったらしい。水色の鞄に教科書を縦にしまった。机の中を見て忘れ物を確認。大丈夫、なにもないさ。こんな重たい教科書もあと一年で運ばなくて済むらしい、上の学年では各生徒に大画面の端末が支給される。成績表を教師から手渡された翌日に、上の学年を見学してみないかと、誘われたのだ。そのときに、感じたのは皆の鞄か小さかったことである。馬鹿でかく肩に負荷をかける労力を減らし、端末を操作する学習時間を増やした方がよっぽど効率的なのではないか、だけど、反対意見には勝てないだろう。そういう国風なのだ。離れた国のことを思っても仕方ない。

 教室を出るときに、右肩が角にぶつかった。注視して周囲を観察しなければ、あざだらけになってしまう。僕は、窓を眺めて廊下をまっすぐ進んだ。節電かこの程度の暗さが標準なのか、判断しかねる。時刻は夕方の真っ只中、曇り空の影響もあるのかもしれない。