コンテナガレージ

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パート1-1

 地続きの教室を潜る。背の低い机、椅子、黒板、横文字。室内は奇抜な原色に施されて情緒の欠片もない。色という表現を前もって諦めたスタイルらしい。その陽気さは、もしかするとこういった細部の感覚に要因が隠れている、と思う。席に着く。統一感のない皆の鞄。それがこの国の良さだろう。以前から使う水色のランドセルは、やはりまだここでは特殊らしい。ちらりちらりと視線が浴びせられる。視界が捉えるだけでも、すでに三人はこちらを振り返り、熱を送った。

 授業は単調で、繰り返し昨日の事項を丹念に教科の開始ごとに振り返る。僕にとって授業は去年に説いてしまった問題がほとんどで、取り組む気力は沸いてこない、こっちの国では飛び級という制度があると聞いていた。無駄な時間を過ごさせない、時間は有限だということに理解が及んだ国に僕は拾ってもらいたいと願う。季節の移ろいや繊細な感覚、色や景色を表現する言葉が多いことに胸を張ってばかり、そろそろ適正にあわせた教育を施すべきだ。慣例の根強さは、変革に要する労力を惜しんでいるんだ。この点だけを見ると、僕の現状もまんざら最悪ではないんだと、思えてくる。

 ブザーのようなチャイムが鳴って、一日の授業が終わった。図書館で本を借りて教室に引き返す、まだ帰らない。宿題はいつも三十分ほど居残って学校で済ませてしまう。すべては解答を書き出す時間、ペンは止めないで書き進める。掃除当番という役職はこの学校には設けていないらしく、文句を言われることがない。大体が、スクールバス、黄色の頑丈でレトロなバス。わざと似たようなフォルムに仕立てたバスを見たことがある、たしか観光地だったはずだ。

 首が痛む。僕の効き目は左、だからいつも左で物を捉える。遠くのものは比較的見やすく、近くは大げさに首を捻る必要がある。だから、たまに首を回さないと凝り固まって疲れてしまうのだ。

「ご両親はまだ迎えに来ないの?」教室に顔を覗かせた、教師の見回りである。あと少しで書き終わるのに、この教師は校内での宿題の完遂を厳しく叱る。宿題を提出しない生徒への指導を徹底すべきなのに聞く耳は持たないらしい、信念を持っているというよりかは、妄信に近いだろう。右目の周辺を僕は掻いて、図書館で借りたカモフラージュのための冒険小説を開く。わからない言葉、小説に載っていそうな言葉をノートに書き出して、教師の声の接近を待った。「あら、君は冒険物が好き見たいね」どうやら教師のお眼鏡にかなったようだ、上機嫌で声がワントーンあがる。