コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-6

 何のことだろう、従業員といえば、舞先しかいない。しかし、彼女は雇われた身分、要するに電話口で別れを告げた女性が派遣したこちらの内情を知る人物。いわれのない罪が降りかかろうとしている、けれど妙に達観した観測は続くらしい。だって、彼女の忠告と彼らの訪問した理由は違うのだから。笑いが増幅。

「なにがおかしい?」捜査員は言う。

「根拠、あるいはそれなりの証拠があって、拘束とプライバシーの侵害に踏み切ったのでしょうね、刑事さん」

「証拠は作り上げる。するとお前は罪を償い、拘束と侵害は合法の元に引き波に返され、大海原に飲み込まれる」

「詩人ですね」

「弁護士を雇っても状況は覆らない。決定的な証拠がここから、これから、その鞄から見つかる」卑屈に悪魔のように刑事は笑った。

「どうぞ、抵抗する気はありません」

 連れて行かれた。ホテルの手前、手は縛られずにがっしりとベルトを抑えられた。鞄の末路が気にかかった。未練が多少残っていたらしい、たぶん考えるにこの国に戻ってきた戦友、それが妥当な解釈に思える……。廊下を歩く、エレベーターホールに二基のエレベーター、左側に乗った。取り囲む四名の男たち。呼吸が荒い、緊張していたのだろう、僕が凶器を隠し持ち、抵抗する状況をシミュレートしたんだ。取り越し苦労になってすまない、いいや願ってもない肩透かしであるのか。まあ、どっちだって現状の僕は解放されたも同然だ。しかし、警察に連行され、聴取を受け、罪を認めるように促される、証拠も突きつけられる、黙秘であっても罰則を償う仕組み、そのレールに乗せられるんだけども、反論してよ、その問いに。不意に湧き上がる内製の登場人物。正方形に光る階下、数字が減る。一度、三階で止まるも、キャリーバッグを提げた女性は乗車を躊躇った、スペースや重量に問題はなかったが、気おされたか気後れ、あえて乗ることを拒んだようだった。

 一階。ロビーを横切る。

 車に乗せられて、建物へ。一時間ほどだろうか、隔絶された地下の一室に一人させられた。

 読みは的中する。

 外に出るよういわれた。建物は警察の関連施設とは無関係だ。

 端末が震える。追い出された建物を見上げて、僕は通話を始めた。