コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

4-4

「申し訳ない、昨日土地の購入に関して連絡を入れた早見というが、調月さんの事務所であってるかな、ここは」がっしりとした体格に似合った硬質な面立ち、髪はしっかりと健在、既に現役は引退しているらしく、ネクタイを外したスーツが様になっている。夏用の涼しげな淡い紫である。

「はい、調月です」足元から頭の先まで目線が移動。そして目にたどり着く。いつもの銅線、早見の表情は固い。思ったような人物ではなかったようだ、仕事振りから人を判断するほうがまだましというもの。顔や姿から想像されては困る、すべてを相手に見せているわけではないのだ。調月は、事務所の赤茶けたつやのあるテーブルに案内、そこに他のお客も座らせる予定である。

「あのう、私、あまり事務所にいないものでして、お茶ぐらいしか出せないのですけれど」

「気を使う必要ないだろう。私は契約を結びに来たのだ、用が済めばお暇する。だらだらと無駄な会話はきらいだ」早見は私のデスク側、入り口から最も多い席、テーブルの短辺に座った。

 チャイムが鳴る。また、ドアが駆けつける前に開く。

「こちら、調月さんの事務所でしょうか?」高齢の女性ともう一人彼女の後方に少し若い女性が顔を見せた。どちらも艶やかな夏の装いであるが、体や頭、顔に振りまいた匂いで私はめまいがした。調月は二人を中に案内する。案内とはいっても、先客が着席するテーブルに座るように言うだけなのだ。二人は年齢の高いほうから早瀬、そして早坂という。早坂は早瀬が彼女の分まで名前を名乗った。

 続けざまにもう二人の女性が登場した、女性は四人と聞いていたのでこれで全員である。一人は二十代でもう一人が三十代だろうか、年齢は調月の目測である。ただ、人から遠ざかる人生に特殊な眼力は備わっていると自負しているし、女性の扱いは年齢によってやさしさや配慮が時に怒りを買う要因に変わりうる事も重々承知。あまり気を使いたくはないが、仕方ない、数十分の辛抱である。しかし、土地を大勢で取り合う事態は初の体験、どういった風の吹き回しかは、彼らの話を聞くとしよう。

 若い女性から名前は、早苗とそして早野と名乗った。思い浮かべる漢字はすべに"早"という文字が入っている。偶然だろうか、最後の一人で証明されるか、調月はデスクの椅子を持ってテーブルに着く。座ったお客たちの視線が痛い、飲み物の提供を待っているようだが、調月は時間よりも早く到着した面々の対しての配慮は行わないと決めた。こちらはいつも事務所を開放してお客を呼び寄せたりはしない。自ら相手方の住居や指定場所に赴き、時間を合わせる手法を選ぶ。事務所を面会場所に設けたのは予期せぬ初めての試み。ゆえに通常の対応ではなく、非常事態であることをお客たちには認識をしてもらいたいのだ。態度を変えるつもりはない。最初のお客は不意打ちでつい、態度を取り繕ってしまっただけで今は毅然とじっと、視線を送り返えす。室内は冷涼、快適とはいえないが外よりは風が抜ける。